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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 1 第2章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

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Episode 6


--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 2F

■【食人鬼A】CNVL


そうやって話していると。

マギが突然顔を上げた。

そしてキョロキョロと辺りを見渡し始めた。


「マギが反応したってことは、大体の方向が分かった感じかしらね」

「かな。で、どっちの方向だい?とりあえずこの部屋からその方向に向かって移動しないと」

「もうちょっと待ってください……これは、西の方かな……丁度部屋の奥の方ですかね……」


耳に手を当て、何かの音をよく聞こうとしているマギの横に立ちながら。

私とハロウ、メアリーはそれぞれの装備の点検を改めて行う。

所謂耐久値といわれる、装備のHPのようなものはこのゲームでは目に見えないものの。

ナイトゾンビの甲冑のように、何かしらの要因によって壊れる事はあるのだ。


それに、【加工師】であるメアリーはアイテム制作に関係するスキルを取得している。

例えば、これだ。


「メアリーちゃん、細かいとこの点検頼める?」

『りょ!('ω')ノ』


大まかに自分で砥石を掛けたりなどをした出刃包丁をメアリーへと手渡す。

すると彼女は、出刃包丁のグリップ部分から刃先までを軽く撫でるように手でなぞった。

瞬間、出刃包丁が光り輝き。明らかに私が手入れした後よりも新品に近い状態へと変化した。


これが彼女の【加工師】が持つスキル【最適だが(ノット・)最善ではない(ベスト)】。

メアリー本人が言うには、『表に出てない耐久値の値を、元に戻してるんじゃないかな(;´Д`)』との事。

表に出てない、という意味があまり理解できなかったがゲームなどでは珍しくはないらしい。

人間同士の好感度みたいに目には見えないけど存在しているもの、という説明でやっと大まかに理解したくらいだ。


「よし、ある程度絞れました。行きましょう」

「了解。ほら、CNVLとメアリーも。行くわよ」

「『はーい』」


出刃包丁をメアリーから返してもらい、階段があるであろう方向へとパーティで固まって歩き出す。

ノーマルモードでは3Fにシェイクスピアというボスが存在していた。

では、ハードモードでは何がいるのだろうか。

もしかしたら、今いる2Fのような普通の階層だったとしてもおかしくはないだろう。




「あったね。階段」

「ノーマルと違うのは、階段が壊れていない所かしらね……ここの違いは何かしら……」

『単純に次も同じような階層ってことじゃないの?(´・ω・)』

「それもあり得ますけど、もしかしたらハードだからってことで次の階層に行けるように見せかけているだけのダミーだったり……するかもしれないですよね」


発見した階段はノーマルモードとは違い、全く壊れていなかった。

どちらかといえば、1Fから2Fに移動するために使った階段に似ているような気がする。


「どうする?私が偵察いこうか?」

「……あー、回復持ちだし不測の事態には対応できるものね……」

「バフだけかけておきますね」

『あ、これそういえばさっきの戦闘で手に入った腐った肉片あげるよ('ω')丁度いらないし、いくらでも食べて(*‘∀‘)』

「あは、私は残飯処理班でもごみ箱でもないぜ?遠慮なく貰うけどね」


腐った肉片をメアリーから受け取ったあとに。

マギからかけてもらったバフ、何か非常事態が起こった時の連絡方法などを確認したあとに私は1人出刃包丁片手に階段を下りていく。



明かりはなく、次第に2Fの光が届かなくなっていくその先へ進んでいくと。

ちょっとした一本道の廊下だけの階層が存在していた。


--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 3F

視界の隅に浮かび上がる文字からしてここが3Fなのは間違いないだろう。

しかしながら目の前に存在しているのは一本道のみ。

見える範囲には扉や十字路のようなものはなく、この先に何があるのか少しだけ気になった。


「一応、連絡かな」


パーティチャットにて皆の指示を仰いでみる。

個人的にはこのまま進ませてもらえるのなら進んでいきたいのだが……それでも不確定要素が多そうなこの廊下を1人で進んでいくには少しばかりハイリスクであることには間違いはなかった。

ハロウが代表で受け答えをとることにしたのか、質問が返ってきた。


『CNVL、貴女スポーナーの肉塊はあとどれくらい残ってるの?』

『一応3はあるね。ランダム要素を考えても1回は確実に能力使えるかな』

『じゃあナイトの腕は?』

『2。一応足と胴がそれぞれ1あるけど、食べるのに使うってなると大きすぎて逆に手間になりそうだから除外して?』


恐らく、ハロウが聞きたいことは『敵に囲まれた場合、もしくは敵から逃亡している場合に生き残れるほどの貯蔵があるのかどうか』という点だろう。

スポーナーから聞いてきたのは、能力的に囮を作り出すことが可能であるため、生存という目標を達成するのに一番向いている能力だからだろう。

ナイトのほうは……単純に武器の生成などだろうか。甲冑も生成されるため、防御力も一時的に上昇するのも理由の一つだろうか。


『そう……うん、いいわ。進んで』

『おや、合流は待たないでいいのかい?提案してる私がいっちゃあアレだけど、流石に1人で進んでいくのはリスキーすぎないか?』

『むしろ、うちのメンバーの中では貴女が一番合ってるのよ。戦闘はできる、回復もできる。不測の事態に陥っても何とか出来る……かもしれないし』

『あは、買い被りすぎだぜ。……まぁ行っていいなら行くことにするよ。何かあったらまたチャットする』

『了解』


手に握る出刃包丁を握り直し、私は一本道の廊下を進み始めた。

といっても、何か変わったものがあるかと言われるとそうではない。

これまでの階層と同じように、調度品が置かれている程度。唯一変わった所といえば、所々に存在していた死体のオブジェクトが存在していない所だろうか。


注意深く進んでいくと、やがてこの一本道の終わりが見えてきた。

それは扉。木製に見える扉が廊下の先に行き止まりのように存在していたのだ。

ドアノブを掴み、捻る。

すると鍵がかかっていなかったのか、そのままギィイ……という音を立てながらも開いていく。

そして、中には――


-決闘イベント開始-


――中には、広い広い部屋の中心で椅子に座り本を読んでいる白衣の男の姿があった。

何故か顔に靄のようなものがかかっていて確認できないが、しかし。

出現したメッセージの通りならば、私はこの男と戦わないといけないのだろう。

男はまだ気づいていないのか、私の方に目を向けずに手元の本を読んでいる。


周囲を見渡すように、何があるかを確認してみると。

そこはまるでどこかのオフィスのような、現代的な一室だった。

机、パソコン、椅子、観葉植物、本……それこそ、言ってみればベンチャー企業にありそうなものばかりがあり。しかしながら、このダンジョンが存在するデンスという区画の特色を考えると異質なものばかりだった。

まるで、この部屋だけ第四区画であるディエスのように、現代をモチーフに作られているかのような違和感しかない。


ごくり、と。口の中に溜まっていた唾を飲み込んだ。

それがトリガーになったのか。それとも耳が良いのか。

男は本から顔を上げ、こちらに気が付いた。


-【詩人 ジョンソン】-


彼の名前だろう。

こちらに気が付いた事がトリガーになったのか、それが出現した。

同時、緑色のHPバーも出現する。


『……ふむ。君が挑戦者、というわけか。よろしい』

「おや、思ったよりもきちんと喋るねぇ。シェイクスピアとは大違いだ」

『私は彼と違ってゾンビではないのでね。さ、では始めようじゃないか』

「何を?」

『決闘を。この部屋にいるということはメッセージが出現したはずだ』

「あぁ、決闘イベントとかそういう」


私がそう言うと、彼は立ち上がり。


『そうだとも。これはイベント。決闘という1対1で行われる戦いの余興。この先に進みたかったら私を倒さない限り前には進めない』

「成程ねぇ……まぁ、いいや。うちで考えるのはハロウやマギくんの分野だからさ。私は目の前の敵を何としてでも殺していくのが役目なんだよ。……だからッ!」


そう言いながら走り出す。

右手には出刃包丁を、左手にはインベントリから取り出したナイトゾンビの腕を持ち。

そこまで離れていなかった距離を一瞬で詰め、まずは出刃包丁で切りかかった。


この行動が戦闘開始の合図になったのだろう。

ジョンソンも同時に動き出した。

手に持った本を使って私の出刃包丁による攻撃を的確に防いでいく。

防御に使われている本は特殊な素材でも使っているのか、鉄や甲冑を切りつけた時と同じような感触が返ってきていた。


ならばと、ナイトゾンビの腕を喰らい【祖の身を我に】、【アントロポファジー】、そして手に入れたばかりである【暴食本能】を発動させる。

左手に甲冑と共に白銀の剣が。身体からは青色のオーラが。

そしてそれら全てを覆うように、赤黒いオーラが溢れ出す。


「君を私は殺す(食べる)よ。だって前に進みたいからね」

『よろしい。やってみろ挑戦者(チャレンジャー)。私はそこまで甘くはないぞ』


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