Episode 5
--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 2F
■【食人鬼A】CNVL
ゾンビスポーナーの能力効果が切れ次第、また肉塊を喰らい。
空いている右腕を使ってナイトゾンビの剣を捌く。
近づき、切りつけ。捌き、蹴って距離をとる。
一歩間違えればデスペナになるかもしれないこの戦場で、いつの間にか私の顔には笑みが浮かぶ。
現実では得られない高揚感。
戦闘という非日常。
あぁ、なんて素晴らしい。
「……あはっ!」
ついに口から漏れ出た笑いに、近くで同じように戦っていたハロウが心配そうにこちらを見るが、首を軽く振るだけで問題ないことを伝える。
……皆には申し訳ないけど、これがずっと続けばいいのに!
出刃包丁を握る手に力が入る。入りすぎて刃先が震えるほどに。
今までも楽しいと思える戦闘はたくさんあった。
一番初めにハロウと共に潜ったダンジョンでの戦闘だったり。
皆と共に初めて挑んだボス戦だったり。
マギと2人で、そこらへんのプレイヤーと即興パーティを組んで戦った区画順位戦での夜の戦闘だったり。
それに匹敵するくらい、今、この戦闘は楽しいと感じている自分が居た。
「おや、そろそろ君のHPも無くなりそうだ。もう終わりかい?もっともっともっともぉっと頑張ってくれよ……!」
そんな言葉が、考え無しに口から漏れ出ていく。
ナイトゾンビの刃をスレスレで、いや掠りながらも致命打にならないように当たるくらい近づいて。
手数だけでごり押していく野性的な戦い方をしながら。
どうせ体力は腐肉を喰らえば回復していくのだからと、相手に攻撃を加えることだけに特化した動きをして。
切って切って切って切って切って。
ボロボロとなった甲冑を叩き割るように上から出刃包丁を叩きつけ。
その瞬間私の腹にナイトゾンビの刃が突き刺さった。
鈍い音と共にナイトゾンビの上半身の甲冑が砕け、それと共に私の腹からは血が流れ出る。
「CNVL!?」
「そっちに集中していいから!」
心配するハロウの声に、楽観的な思考で返しながら。
継続的に減っていくHPを横目で確認しつつ、ナイトゾンビの上半身……その首元へと顔を近づけ。
その腐った喉を噛み千切った。
口の中に腐った肉の香りが広がって、一瞬だけ吐きそうにはなるものの。
いつもの事だと飲み込んで、【あなたを糧に生きていく】を発動させHPを回復する。
腹に剣が刺さったままだからか、回復した端から減っていくHPを回復させるために目の前のナイトゾンビを喰らい続ける。
次は肩の近くの肉を。
そのまま胸を。
腕を。
横腹を。
腸を。
肺を。
腎臓を。
そして、心臓を喰らう。
どんどん小さくなっていくその身体を暴れさせるナイトゾンビを抑えつけながら。
私は夢中で目の前の肉を食い続け、気付けばその餌は光となっていた。
--System Message 『条件を達成しました』
--System Message 『特殊スキル【暴食本能】を取得しました』
--ALL System Message 『特殊スキルを取得したプレイヤーが現れました。ヘルプを更新します』
何やらログが出現したが、関係ない。
今の目的は周囲の敵の殲滅で。周囲にはまだアクターゾンビ達が残っているのだ。
ならば、私はそれらを殲滅するだけだ。
ナイトゾンビが1体居なくなった戦場は一気にパワーバランスが崩れ、それほど時間もかからずに戦闘は終了した。
戦闘が終わった後。
戦場となっていた部屋の中心に集まって、再度の休憩時間をとることにした。
「お疲れ様です」
『お疲れ様!(*‘∀‘)ノ』
「お疲れ。戦闘中のドロップ整理はまぁ、後でいいとして……」
「あは。そうだねぇ……特殊スキルだっけ。さっき取得ログが出てたなぁ」
「「『は?』」」
「おいおい、皆顔が怖いぜ?」
皆が何を言ってるんだコイツみたいな顔をしているため、少しだけおかしくなってしまい笑みがこぼれてしまう。
しかし手に入れたモノがモノらしく、皆の目がいつもよりも真剣だったため、咳払いを一つした後に話すことにした。
「といっても、私も詳細はよくわからないんだよ。それこそ、ナイトゾンビを食べてたら突然『条件を達成しました』~とか出てきたからね」
「あ、刺された後そんな事してたのね……」
『見えないと思ったら……(;´Д`)』
「?いつも通りだろう?」
マギの方を見れば、目を逸らされた。
仕方ない、と肩をすくめつつ。
自分のステータスを開き、取得したスキルの詳細をパーティ全員に見えるように表示した。
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【暴食本能】
任意発動型スキル。発動時間:5分間。再発動時間:20分後。
食事に関するスキル効果を(【犯罪者】レベル×5÷10)%強化する。
使用中、食事に関するスキル以外の使用は不可能となる。
使用後、(【犯罪者】レベル)%のHPを減少させる。
※特殊スキル。【犯罪者】の系統、ランクアップによるスキル使用制限、スキル変更の影響を受けず、どの【犯罪者】、系統でも使用可能
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「レベル依存……ではあるものの……」
「これ、狙って取ろうと思うプレイヤーいるのかしらね」
『私だったら腐らせそう(;´Д`)【加工師】じゃ食事関係のスキルとか言われても取れなさそうだもん(´・ω・)』
「私には丁度いいスキルだよねぇ。【あなたを糧に生きていく】とかと一緒に使えば相性良さそうじゃない?」
周りの反応は悪いものの。
詳細を見てみれば、私の【犯罪者】ならば十分に使える効果を持ったスキルだった。
そのまま皆で更新されたヘルプのほうを見てみると、書かれていたのは特殊スキルの概要……どの【犯罪者】、系統であっても使用できるスキルということのみで、具体的にどんなスキルがあるのかというのは分からなかった。




