Episode 2
--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 1F
■【食人鬼A】CNVL
「あんまり変わりはないねぇ……ここからもうコマンダーが出てくるんだっけ?」
「そうね。ナイトは見てないから、この階層はコマンダーしか新規はいないはず」
「成程……ブック系の新規は居ないんですかね」
『居てもらっても困るんだけどね(´・ω・)』
マギと合流した私達は、そのままダンジョンへと向かいハードモードに入場した。
ハロウに聞いていた通り、見た目自体の変化は少なく。
しかしながら、出現する敵モブがノーマルよりも厄介なのには違いなかった。
コマンダーゾンビ。
周囲のソルジャーゾンビを呼び寄せ、支援効果をばら撒き続ける敵。
本体の戦闘能力自体はそこまで高くないものの、周囲のソルジャーの行動パターンが変わり護衛のように動くために、コマンダーへと辿り着くまでが大変なのだ。
「あは、そんな話してたら。ほらあそこ」
「……コマンダーねぇ。まだ気づかれてないみたいだから……私行きましょうか?」
「いや、どうせならコストほしいから正面から行こうか。今日初戦闘だし慣らしたい」
「了解しました、じゃあバフ盛っておきますね」
【食人鬼】のスキルである【祖の身を我に】。
元が【ゲイン】から派生したからなのか、敵モブからドロップするアイテムを食べることで発動するスキルとなっている……のだが。
その食べるアイテムの大きさにもよって、効果の持続時間も変わってくる特殊なスキル……らしい。
私としては、特にその辺りを理解せずに使っているため、そこまで特殊だという認識がないのだ。
肝心の効果としては、
「でも、敵モブのドロップを食べる事でその敵モブの装備やら能力を再現できる能力って時間制限なかったら強すぎるわよね」
「所謂ドーピングみたいなものだからね。こっちから装備か効果かを選択はできないのがデメリットなんだろうけど」
「そこ選択出来たら時間制限付きでも中々壊れスキルだったわよ。今が丁度いいわ」
食べた相手によって、その相手の使っていた装備や能力を自身も使えるようになるというスキル。
どちらを取得するかは選べないものの、装備に関しては食べる部位によってある程度絞る事も可能なのだ。
【食人鬼】のスキルである【人体蒐集家】と相性も良いため、最近のお気に入りとなっている。
「よし、じゃあ私が先に突っ込むから。ハロウは適当に後ろからついてきてくれると助かるかな。その後は適当に合わせてコマンダーを狩るって感じで」
「了解、【HL・スニッパー】で良い?」
「良いよ。あっ、断ち切るなら腕で!じゃあ、行くよー」
出刃包丁を取り出し、一度その場で小さく跳ねた後。
私はコマンダーの元へと駆けだした。
一気に近づいて。一度切りつけた瞬間に、コマンダーが叫びだす。
瞬間、ソルジャー達がこちらへと集まってくるが気にせず叫んでいるコマンダーを再度切りつけた所で、ハロウがこちらへと到着したため後ろへと少し飛ぶようにして入れ替わる。
走りながら構えていた巨大なハサミを使い。
逃げ始めているコマンダーの左腕をじょきんと断ち切った後に、そのまま力任せに横へと振り回した。
逃げに徹しているコマンダーにそれは当たらないものの、周囲に集まってきていたソルジャーのうち1体の体に当たり、そのままダンジョンの壁へと吹き飛ばし。
その吹き飛ばしたソルジャーに対し、私が追撃を行っていく。
集まってきたのは合計で5体。
コマンダーの支援効果があったとしても、私とハロウならば余裕をもって対処できる数だ。
「CNVL!腕!」
「おっけ、ありがと!」
逃げたコマンダーを後追いせず、周囲のソルジャーの対処を始めたハロウから腕が投げられてくる。
先程断ち切ったコマンダーの物だろう。近くにいたソルジャーを蹴って遠ざけた後に、【祖の身を我に】を発動させてからその腕を喰らう。
瞬間、私の体に赤いオーラが纏わりついた。
「んん!?あぁ、これコマンダーの能力!?」
「多分!パーティ内メンバーに支援効果って出てる!」
「突然振りが速くなったから驚いたわ……っと!」
コマンダーの能力である、支援効果をばら撒く能力を取得出来たようで。
私自体には何かしらのバフは入っていないものの、前線で戦うハロウに追加でバフが入ったことによって、ソルジャー達への対処速度が劇的に変わった。
それから数分後。危なげもなく戦闘は終了した。
「腕は3本かな?うん、十分。ありがとう」
「ごめんなさいね、もうちょっと断ち切れるかと思ったんだけど……」
「大丈夫大丈夫。こっち側で手に入った腐った肉片でも効果はあるしね。ナイト相手だったらこれだけでも問題ないしどうにでもなるさ。……これからコマンダーに出会わないってわけでもないし」
『お疲れ様ー。一応周囲警戒してたけど、特に何か変なものとかはなかったよ(゜д゜)!』
と、私達がドロップ品を整理している間に索敵、探索をしていたマギとメアリーが戻ってきた。
私がハロウから受け取った腕を持っているのを見て、メアリーが一瞬目を見開いていたが何かあったのだろうか。
「じゃあぼちぼち次の階層行って、ナイト狩りにいきましょうか」
「ハロウ大丈夫?目的変わってない?今回ナイト狩りじゃなくてここの攻略だからね?」
「えぇ、大丈夫よ。でもやっぱり狩れるなら狩りたいじゃない。これは単純に経験値効率的な話であって、別に恨みがあるとかそういうのじゃないわ」
「完全に私怨ですね」
どちらにせよ、2Fからの仕様によってどれがナイトゾンビなのかどうかわからないため、ある程度の数は戦わないといけないのだろうが。
ナイト以外にハロウが出会っていないため、もしかしたら他にも敵モブがいる可能性はあるのだが。
マギに聞いた話では、それぞれ敵モブは何かの要因によって集まってくる……らしい。
話を聞いてもよくわからなかったが、リンクというものらしい。
音によって反応したり、光によって反応したり。敵モブによってはスキルの発動によって集まってくるモノもいるとのこと。
そんな特殊なリンク?が設定されている敵モブがいた場合、次の階層での戦いは少しばかり大変なものになるかもしれない。
「まぁ、そんなリンク持ちのモブとかまだ出ないでしょう。出た時に考えればいいわ」
「それもそうですね……と、あっちかな。風の流れが変わりました」
『よく分かるね('ω')』
「ホントずるいねぇ【感覚強化薬】。【薬剤師】の効果で私達にも効果出るようにできないのかい?やってみようぜマギくん」
「一応研究中ですよ。そこらへんの拡張要素とかもあるっぽいんで、時間あるときに進めてるんですけどね……」
そんな話をしながら、マギの案内によって階段のあるかもしれない方向へと歩いていく。
彼の使っている【感覚強化薬】は敵モブの位置やマップを正確に把握するものではなく。五感を強化して周囲を把握するものであるため、実際に彼の進む方向に階段があるかどうかはわからないのだ。
それに突然敵モブが出現する可能性もあるため、油断はできない。
一応ある程度余裕をもって対処出来たものの、コマンダーとそれを囲うソルジャー達は普通に厄介な敵モブたちだ。
このパーティ内である程度自由に出来る私が周囲を、私ほどではないものの動くことができるハロウが近辺警戒を行いつつ進んでいく。
「……んー、特に居なそうだね。逃げたコマンダーも見つからないし問題なさそうかな」
『あ!あっちに階段あるよ!(*‘∀‘)』
「一回目で見つかって良かったですよ……本当に」
2Fへの階段を見つけたため、一度休憩をはさみつつ。
ナイトゾンビの待つ階層へと進んでいった。




