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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 1 第1章 ハジメマシテ、【犯罪者】

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Episode 23


--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス

■【偽善者A】ハロウ


私の頭上には光る太陽が。

そして目の前には、そんな太陽の下にいるには似合わないゾンビがいる。

手にはこの世界に降り立ってから長いこと使っていたナイフを持ち。相手の動きを確認しながら近づき、それを突き立て光へと変える。


そんなことを繰り返すこと約3時間。

時刻はおおよそ14時近く。

連戦に次ぐ連戦を繰り返していたからか、レベルも1から4まで上がっている。

しかしながら、私の使っていた武器は両方ともレベル5から装備可能となるもの。

そのため、未だ一番最初からインベントリに入っている使用済みナイフを使ってソルジャーゾンビを倒している。


そして気が付いたことが1つある。

当然、ソルジャーを倒しつつ区画内を闊歩しているとコマンダーに遭遇することもあるのだが……なぜか私にだけ反応が薄いのだ。

というか、ある程度まで近づかない限りは絶対に気付かれない。

ゲーム的に無視されるようなことでもしたのかなと考えてみたが、思い当たるのはランクアップしたことくらいだろうか。

……あぁ、でも偽装を得意としーとか書いてあったっけ。


「隠しバフ、みたいなものかしらねぇ」

「そういう要素は検証が大変ですよね。何かしら分かりやすく視覚化できないものか……」

「ほら、それがアレなんじゃない?【目利き】の上位互換的なスキル」

「成程。あり得ますね」


マギとそのことを話しつつ、近くにいたソルジャーを狩る。

今居る場所は、中央区画に近い大通り。

周囲を見てみればある程度プレイヤーもいるため、戦闘音が鳴り響いている。


時間が経ったこともあり、コマンダーへの対処もある程度周知されてきたためか、今日の朝のような出来事は少なくなってきている。

完全になくすことはできないだろうが……それでも今後【劇場作家の洋館】のハードモードに挑む前段階としては中々良いのではないだろうか。


「おーいハロウ、マギくん。そろそろ時間だから集まっておこうぜ」

『何が出てきても大丈夫なようにね('ω')ノ』

「あぁ、そういえばそろそろだったかしら。昨日もこれくらい時間が経ってから変わってたんだっけ?」

「そうですね。大体6~8時間程度で出現するようになるモブが変わるらしいです。幅があるのは流石にイベント中だからってことで検証材料が少なすぎるからですね」


アクターゾンビが一切居ない今の時間帯。

その前はムービーゾンビが大量に湧いていたこともあり、ある程度はそういったスポーン側のギミックなんかもあるのだろうが……私達のパーティはあまり気にせず『敵が変わるのは良いねぇ』くらいの捉え方で楽しんでいた。

但し、ここまでの傾向からして、次に出現するであろう敵モブはある程度予想できているのだ。


「次はハロウが初めて倒された敵モブが出てくるかもしれないんだっけ?」

「そうそう。ナイトゾンビね」

『メイン盾きた!これで勝つる!とか言えばいいのかな('ω')』

「それ通じる人まだいるんですかね……?」


そんな話をしていると。

突然、周囲に存在していたソルジャーゾンビ達が煙となって消えてしまった。まるでシェイクスピア戦のギミックのように……それでいて、すぐにその煙はその場で新たな形を象っていく。


剣と盾。そして甲冑。

劇場作家の炯眼を装備してなくても、名前がわかるその姿。


「ナイトゾンビ……」

「おー、これがそうなの?強そうだけど……食べる所はなさそうだねぇ」

「とりあえずバフはかけておきますね。いつでも逃げられるように経路も見つけておきます」

『鉄製の矢、結構用意出来たからワンチャンあの甲冑抜けないかなぁ(´・ω・)』

「無理はしないほうがいいわよ。そっちにヘイト行ったら色々困りそうだし」


そんなことを話ながら。

私達は自分の武器を構え、いつでも戦闘に入れるようにスキルを使用する。

【偽善者】になった影響で、今まで使っていた【リッパーA】のスキルはすべて置き換えられた。


「【偽善活動】、【メイクビリーブ】」


だからと言って、基本的な事は変わらない。

【偽善活動】はスキルを使用直後の戦闘時間によって、ステータスボーナスを得ることができるスキル。

【メイクビリーブ】は、【シャープエッジ】の効果範囲を刃を持つ武器だけではなく自分の持つ武器全てに適応させたものだ。


スキルを使用した私の声に反応したのか、ナイトゾンビはこちらへと頭を向け。

その瞬間、CNVLが背後に回り込み出刃包丁を首へと突き刺した。

否、突き刺さったかのように見えたそれは、甲高い鉄の音を立てながら甲冑によって防がれている。

戦闘開始だ。




風を切る音を近くで聞きながら、私は手に持つナイフを脇腹へとむけて突き入れる。

やはりというか、なんなのか。【偽善者】という【犯罪者】になった私は、他のプレイヤーよりも敵モブに認識されにくいようで。

ナイトゾンビに限っていえば、甲冑を身に纏っているためか背後から近づけばほぼほぼ全ての攻撃が通るような状況だった。


正面では今もCNVLがナイトゾンビと激しい戦いを繰り広げている。

出刃包丁で突いたかと思えば、それに合わせて振るわれた剣をどこかから取り出した盾によって防ぎ、いつの間にか持っていた剣でカウンターよろしく攻撃を加えている。

恐らくあれはCNVLが言っていた新しく覚えたスキルだろう。

確か名前は……【祖の身を我に】だったか。


ナイトゾンビもそこまで頭は悪くないようで、そんなことを2回繰り返すとすぐに自分の盾を使い同じようにカウンターを入れようとしていた。

そのタイミングをずらすように、マギとメアリーから後方支援という名の遠距離攻撃が殺到した。

鉄の矢と共に投げられた緑色の液体の入ったフラスコ、その両方はナイトゾンビによって空中で叩き切られてしまう。が、それでいい。


空中で叩き切られたフラスコは、そのままの勢いで中の液体をナイトゾンビへとぶちまける。

瞬間、ナイトゾンビに紫色の泡のようなエフェクトが出現し始めた。

マギのランクアップ先である【薬剤師】で作ることの出来る薬品による【毒】状態の付与だ。


毒にも色々と種類はあるものの、今回マギが使ったものは分かりやすく効果時間中ダメージを与え続けるというもの。

未だ直接的なダメージを与えることができていない私達にとって、この場での直接ダメージはありがたい。


といっても、ナイトゾンビが身に纏っている甲冑は、今では綺麗な所を探す方が難しい。

私とCNVL、メアリーによってぼこぼこに歪んでしまっている所に加え、マギの薬によって腐食している部分や、CNVLの血によって汚れている所も多い。


「ふー……【真実の歪曲】」


一度息を吐いてから、【霧の外套】から最適化され変わってしまったスキルを発動する。

【霧の外套】が一撃特化のスキルならば、こちらは回避特化のスキル。

一撃を入れるまで私自身に【隠蔽】というバフをかけ、敵から発見されにくくしてくれるスキルだ。

元々の【霧の外套】から方向性がガラッと変わったものの、使い勝手は良い。

その状態のまま、私はメアリー達へと合流する。


「おかえりなさい、回復ですか?」

「えぇ、お願い」

『おかえり、一応隙見て罠でも作ろうかと思ってるけど、作ったら使う?(´・ω・)』

「足止め系?」

『足止め系』

「じゃあ使うわ、出来たらいつも通りに」


ナイトゾンビの背後という後方支援組から一番離れた位置にいるため、回復などの支援が唯一受けにくい位置にいる私は、こうやって自ら戻って支援をもらいにこないといけない。

といってもこの布陣にしたのは私なのだが。


手早くバフを掛け直してもらい、回復もしてもらった後。

私はそのままナイトゾンビへと向かって走り出す。

既に何度かやっている走る勢いそのままに、駆け抜けつつもナイフでダメージを与える……通り魔的攻撃だ。


今までならば接近の段階で気付かれていたそれは、【真実の歪曲】によって気付かれない。

走り、CNVLの横を抜け。ナイトゾンビが剣を上に振り上げるのを確認しながら。

私はナイフを水平に構え、ナイトゾンビの横を通り抜けるようにして刃を当てた。


突然見えていない者から攻撃を食らったナイトゾンビは体勢が崩れ、一瞬剣を振り下ろすのが遅れた。

その一瞬を見逃さない者がこの場には3人もいる。


刃が。矢が。そして薬が。

ナイトゾンビへと襲い掛かり、彼の甲冑へとダメージを与え。

ついにその時がやってきた。


パキ……と何かが割れたかのような音とともに。

私達が一番攻撃を加えていたであろう甲冑の脇腹部分……正面から見て右側の部分に亀裂が入っているのが分かった。


やっと一歩前へ進めた。

しかしここからがスタートラインであることには変わりがない。

まだまだこの戦闘は長引きそうだった。


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