Episode 20
--浮遊監獄都市 カテナ 中央区画 メディウス
■【リッパーA】ハロウ
まだダンジョン前に居てくれたスキニット達のパーティを捕まえ、私達は中央区画へと移動してきた。
掲示板を見て、大体の話の流れを把握していてくれたためにスムーズに拉致……ではなく。
同行することが出来た。
そして現在。
私達はオリエンスから来るはずの、リーダーと呼ばれていた人物を待っている最中だ。
「しかし……本当に君の名前を出して良かったのか?その場で相手から言われたとか何とでも言えただろう」
「それは無理ね。断言してもいいわ」
「……理由は?」
「簡単。私達のパーティだけなら兎も角、あの場にはTonyHack達が居たのよ?情報の統制出来なさそうじゃない」
「あぁ……そういうことか」
事実、あの場にパーティメンバー以外のプレイヤーが居なかったらその手は使っていたかもしれない。
しかし、あの場にはTonyHackともう1人のプレイヤーに加え、もしかしたら他にも陰から見ているプレイヤーもいたかもしれない。
そんな中、嘘でもそんな事を掲示板に書き込んでしまえば、その事実を書き込まれ状況があれから悪くなった事も考えられた。
「じゃあ俺達のパーティを引っ張ってきた理由は?」
「同盟でも不可侵になった場合でも、当事者たち以外の第三者がそれを執り行う必要があるのよ。だから貴方達にはそれを任せようかなって。あとは単純に私のフレンド数の問題。呼べそうで尚且つある程度話したことがあるのが貴方くらいだったのよねぇ……」
「……」
「あは、ハロウは割と話しかけ辛いと思うぜ?私だって最初話しかける時緊張したしね」
「えっ」
何やらスキニットに憐れみの目を向けられてしまった。
しかしどういう事だろうか。こんなにも普通の人物に話しかけ辛いとは。
「あっ、本気で分かってないねこれ。……良いかい?君結構整った顔してるんだよ。これだけでも男性陣としては話しかけ辛いだろう?」
「そうですね、僕だったら尻込みします。女好きなんかは話しかけていきそうですけど……そういうのは、キツめの目を見てそそくさと離れていくか、実際に話しかけて撃沈パターンでしょうね」
「そうそう。あとはそうだねぇ……普通に背も高いアバターだからか、モデルに見えるんだよね。それもあるかも」
「あぁ、一種の有名人じゃない?って陰から囁かれるみたいなアレですか」
「そうそうアレさ。つまり君は結構話しかけるには難度が高いんだよハロウ。分かったかい?」
「分からないわ」
当然始まった先輩後輩の会話についていけず、最後の質問も半ば反射のように答えてしまった。
そんな馬鹿みたいな雑談をしていると、第三区画に繋がる道の方から話し声と複数人の足音が聞こえてきた。
そちらを見ると、先頭に1人の小さな女性。
その後ろに数人の男性が付いて来るようにして歩いてきていた。
その女性は私の前で立ち止まると、こちらの顔を見上げつつ。
「貴女がデンスの代表?私がオリエンスの代表である酔鴉よ!よろしく」
「合ってますよ。ハロウです、よろしく」
握手を求めてきた為、にこやかに笑って手を握り返す。
きちんと目線を合わせてだ。
「……ナメてるの?」
「いえ、話す相手と目線を合わせるのは礼儀でしょう?」
「ふ、ふーん……?まぁいいわ!ウチの禍羅魔が悪い事をしたわね!それについてまず謝罪をしましょう。申し訳なかったわ」
「大丈夫ですよ、こちらの被害はほぼ0ですし」
そんな話をしながら。
適当に邪魔にならない端の方へと移動して今回集まった目的である議題を開始した。
「なんか色々見られてない?」
「そりゃあそうですよ、私の方はデンスの掲示板でこういう事をするって宣言しましたし。そちらも同じようなものでしょう?」
「あぁ……そうね。そりゃ野次馬もくるわけね」
中央区画であるメディウスはある意味平和なものだ。
元々が中立であるため、この区画にはモンスターが出現しないようなのだ。
とはいっても、キルデスペナルティがなくなるわけでもないため、普段のような露店は出ていないのだが。
「で、両区画間の不可侵条約または同盟を結びたいってことだったわよね」
「そうですね。どうせなら手を組んだ方が順位が上になりやすいと思うんですよね。不可侵の方でも、敵が少なくなるってことで邪魔される可能性が減りますし、メリットしかないかと。どうです?」
「確かにメリットはあるわね……」
酔鴉は考え込むように、指を顎に添える。
不可侵、同盟……この2つのどちらかを結ぶメリットというのは言った通り。
但し当然ながらメリットしかないわけではない。
デメリットとしては、同盟の場合どちらかの区画が被害を被るような事態に陥っていた場合、もう片方の区画はわざわざこちらのリソースを出してまで助けねばならない点か。
不可侵条約に関して言えば、メリットがそのままデメリットとしてもとれるため、そもそもソレを組む必要がないのだ。
だが、同盟の場合だけは私達デンスはかなりのメリットがあるのだ。
「それに同盟ならば、それぞれの区画に居る強いプレイヤーたちをまとめれば、今の討伐速度も上がりますし……今後出てくるかもしれない強めの敵も対処しやすいと思うんですよ」
「……成程」
禍羅魔というプレイヤーの存在。
彼が敵ではなく味方となるのならば、こちらの区画にコマンダーやナイトが出現した場合もかなり楽になるだろう。
その分うちのCNVLが駆り出される可能性もあるが、まぁその時は私達もついていけば経験値やアイテムも手に入るだろうし特にデメリットはない。
向こうもそれくらいは考えているだろう。
「で、どうします?」
「今掲示板で意見をまとめてるからちょっと待ちなさい。まぁ個人的には同盟組んでもいいのだけど……とりあえずシステム上の同盟の準備くらいは進めましょうか。ある程度見る限りじゃ賛成ばかりだし」
「分かりました……スキニットこっちに来てもらえる?」
「あぁ、話してたやつだな?今ヘルプ読んでたからある程度理解した」
スキニットは『誓約書』と書かれたウィンドウを出現させ、自分のプレイヤーネームを署名する。
また、今回の内容である各区画の同盟。それを破った場合の罰則を決めていく。
「罰則と期間どうします?」
「うーん、この通常デスペナルティを全員に付与っていうのは?あと期間は順位戦中でいいでしょう……あ、掲示板の方賛成多数ね。同盟で大丈夫よ」
「じゃあ破る度に掛かるようにしましょうか。了解です」
「決まったか?じゃあそれぞれ署名を頼む」
ウィンドウを渡され、それぞれ自身のプレイヤー名を署名していく。
最後に当事者である3人ではないプレイヤーたち……署名していない者達に誓約書の受理をしてもらう。
CNVL達の方をみれば、突然目の前に誓約書のコピーが現れ、これに賛成するか否かの選択肢が出現しているようだ。
恐らくは公平性でも保つためにこうした回りくどいシステムにしているのだろう。
程なくして、その誓約書は受理された。
瞬間、お互いのアバターから光が溢れメッセージが現れる。
それと同時に何かスキニットが目を見開いているが、今聞くべき内容でもないだろう。
--ALL System Message『第二区画 デンスと第三区画 オリエンスが同盟を結びました』
--System Message『同盟掲示板が追加されました』
「よし、これで終わりですね。ではこれから短い間ですがよろしくお願いしますね」
「えぇ、こちらこそ。よろしく」
再び握手を交わし酔鴉とフレンドを交換したあと、それぞれ自身の区画へと戻っていく。
色々と確かめることはあるものの、これでコマンダーやらの面倒なものが出てきた時にも余裕が出来た。
合同で他の区画を攻めるのも手だろう。




