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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 2 第5章 月を壊したかぐや姫
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Episode 39


■【印器師A】ハロウ


最終日。

といっても、その日丸々1日使われるわけではなく、昼過ぎ辺りにはイベントが終了し、ポイントの集計に入るとのことで。

私達は、最後の追い上げをするべく他の区画へと襲撃を行っていた。

私、CNVL、メアリー、マギの4人は今回殆ど防衛に参加していないため、最終日くらいはデンスに残って防衛しようとでも思っていたのだが、


「いや、リーダー達はなんかその辺適当に攻撃しておいてください。別動隊もいるんで、そっちの方が最終的にやりやすいです」


とか何とか言われてしまい。

結局、一番移動が楽なお隣さん……オリエンスの方へと赴いていた。

当然、すぐに私達が襲来したことは伝わったようで。


「……えぇっと?今日はなんの御用か教えてもらっても?」

「今日来てるんだから分かってるでしょう?酔鴉」

「はぁ……昨日は大量の使役系モブとの戦いがあったっていうのに……行くわよ、禍羅魔」

「あァ。悪ィがこの先は通さねェぞ?」


私達の目の前には、酔鴉と禍羅魔というオリエンスの中でもトッププレイヤーが2人揃って出迎えてくれていた。

彼女らは彼女らの武器を構え、こちらを威嚇するようにその目を細めている。

まるでこちらが一歩歩くごとに何かをしてくるとでも思われているようでやるせない。

こちら側のメンバーでそんなことをするのはCNVLくらいだ。


「あはッ。ハロウ、禍羅魔くんは私が相手をするぜ。前回の区画順位戦で決着が着かなかったからさぁ」

「あー、良いわね。じゃあ私は酔鴉の方?」

「補助はしますよ。今回ばかりは流石にタイマンなんてのは許可できないので」

『じゃ、私は後ろから指示出すねー('ω')ノ』


敵の目の前でそんな作戦会議をしながら。

酔鴉達の一挙手一投足を注意深く観察しているが、やはり隙という隙は見当たらない。

当然だろう。向こうは完全に戦闘特化の2人だ。

こちらも油断出来るような実力差なんてものはない。

正直に言えば、真正面から戦えば酔鴉達には勝てっこないのだ。

それだけ、戦闘に特化した2人と私達には差がある。


しかしながら、今回は別に私達が勝つ必要はない。

なんせ、この2人をこちらに引き付けておけるということは、他にも強敵はいるものの……オリエンスの最大の障壁を前線から排除出来ていると同じなのだから。


「じゃ、リベンジマッチと行きましょうか」


思えば、この『Festival in Crime』という世界に来て色々な事があった。

最初はあまりプレイする事に気乗りしなかったり、今も隣でにやにやと笑っている【食人鬼】に話しかけられたり。

彼女の後輩と、そして今ではすっかり掲示板のアイドルと化したコミュ障娘と共に、何故かダンジョンを最速クリアしたり。

かと思えば、始まったイベントでゾンビパニックになるわ、他の区画のプレイヤー達と交流を持つわで、色々あって区画の代表的なポジションになってしまうわ……本当に色々あったものだ。


挙げていけばキリがない。

他にもハードモードダンジョンや、決闘イベント、第二階層やコロッセウムなどなど……語っているだけで本が書けてしまうのではないだろうか。

……なんか、終わりみたいね?


何故かこれまでの事を思い出し感傷に浸りながらも、私は身体を動かしていく。

手に持つのは、当初はロマンで手にしたハサミ。【HL・スニッパー改】。

ハサミと双剣の2つの形状になるこの武器は、本当に扱いが難しく……フィクションではあるものの、使いこなしていた針金細工のような背広のお兄さんは本当に尊敬しかできない。


「【洋墨生成】【印器乱舞】」

「またそれ?!避けられないから嫌なのよ!」

「そりゃあ避けられないからこそ使うのよねぇ……」


鈍器のようにハサミを大きく振るい、その後分離させ舞うように双剣を振るう。

それに合わせるように、自身の身から白濁した液体を湧き出させ、相対している酔鴉へとトンカチの群れを向かわせる。

酔鴉は身体の動きを最小限にしつつ、的確に私の攻撃を避け、自身に迫ってきているトンカチの群れをどうにかしようと撃ち落とそうとしていた。

まぁ捺印するまでは止まらないから無駄なのだが。

そしてそんな私に夢中になっていれば当然、


『Fire!』

「ぐッ……流石に1対2ってのは辛いわね……ッ!」


指示を出しながらも、相手の隙を探していたうちの自慢の後衛がクロスボウを放つ。

トンカチに気をとられていた彼女はクロスボウを右の太腿に喰らい、少しだけ後ろへと跳ぶように下がっていった。

戦いはまだまだ、これからだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



■【赫奕姫T】アリアドネ


「はぁー……負けちゃったなぁ」


ボロボロになり、『修復中』というウィンドウが出ているディエスのダンジョン……【忘れ去られた神社】の前に、私はデスペナが明けた後訪れていた。

正しく言えば、まだ最終日。

区画順位戦の結果はまだ出ていないため、やろうと思えば何とかなるはずだが……私は特にどこかを攻めるつもりは無かった。

……というか、下手に私が出陣()ると同じ区画の人が近づいてきて死んじゃうしなぁ。


【赫奕姫】という【犯罪者】は、本当に偶然なれてしまったものだ。

固有のスキルはヘルプで聞いてみれば1つのみ……【竹取の五難題】のみ。

それ以外には、恐らくモチーフとなっている竹取物語のかぐや姫の所為なのか、私が味方と認識した相手からHPやMPなどを吸い取り殺してしまうというよく分からない特性のようなものまでついていた。

はた迷惑なそれは、【狂信者】達が生み出す【式紙】にも適用されてしまうために、本当に私は誰の力も借りれない戦いをするしかない。

何も考えず、周りから吸うだけ吸っていればHPなどが実質周りの人数分だけ増えるため、それはそれでありではあるのだが……こちらのステータスが全快していても吸い続けるため、その戦法を使うには難しいものがあった。


「やぁ、ここにいたのか」

「……?木蓮さん?」


気が付けば、こちらへと手を挙げながら近づいてくる者の姿があった。

いつも減っていくHPなどを無理やりアイテムで回復しながらも、私と交流してくれる優しいプレイヤーだ。


「どうせ君の事だ、独りで抱え込みそうだなって思ってね」

「あー……あはは。まぁ、ね。私が負けなければ何とかなってたんだし……実際、ネースやオリエンスの方は割と惜しかったみたいだし?」

「まぁそれは仕方ないさ。それに私も負けたからね」


申し訳なさそうに笑う彼は、何処か悲しそうだった。

だが同時に嬉しそうでもあった。


「木蓮さん……?」

「あー、いや。申し訳ない。実は、さ。君に内緒で作ってたんだけど――」


彼はそこで後ろへと振り返った。

そこには、


「……えっ?」


大勢の、見覚えのある(・・・・・・)ディエスのプレイヤー達が皆歩いてきていた。

当然ながら、私の【犯罪者】は目の前の木蓮だけではなく、彼らからもHPなどを吸い取っている……はずなのだが。

誰1人、倒れることはなかった。


「よーっし、成功だな?良かった良かった」

「やっぱ色々出来るなぁ、このゲーム。抜け道には抜け道をってか?」

「おいおい、まだ実験は始まったばっかりなんだから。気ィ抜くなよー?」

「「「はーい」」」


そんな会話を目の前で繰り広げられているが、私には何が何だか分かっていなかった。

思えば、今日は木蓮が回復アイテムを使っていなかったことを思い出し、彼の方へと視線を向ける。


「いやぁ、ね。タイムリミットはあるんだけど、【偽神体】を【狂信者】のスキルを使って身代わりに設定してみたら、元々の【偽神体】が壊れる時間が速まる代わりにダメージなんかを何割か引き受けさせることが出来るみたいでね?」

「えっ、と……」

「まぁ、つまりだ。皆、また君と遊びたいから区画順位戦の準備にかこつけて集まって色々模索してたってわけさ。僕が君とちょくちょく話にきてたのも、それの成果の確認の意味もあったんだよ」


そんなことを言う彼に、私は何ていったらいいのか分からずに沈黙し、知り合い達の方へと視線を向け口を開きかける。

上手く言葉が出てこない。

だけど、1つ分かることはある。ここが仮想現実で……涙を流す、というモーションがアバターに実装されてなくて良かった、ということだ。


「皆、ありがとう……」


私が振り絞るように紡いだ言葉を聞いた知り合い達は、皆満面の笑みを浮かべ私の近くへとやってくる。



その後の話ではあるものの。

当然ながら、そんなことをしていたディエスは区画順位戦の結果発表で最下位となっていた。

驚きなのは、その1個上……3位にデンスがいた事だろうか。

彼女らが所属する区画はどうやら、色々と手を出しつつ防衛に専念していたからか、他よりもポイントを稼げていなかったようで。

その分、彼女らの功績をある程度持っていったネースが1位となっていたのには少しばかりもやっとはしたが。


「リベンジするから待ってなさい……次は、私1人だけじゃないわよ」


誰に言うわけじゃなく、虚空に呟いて。

結果発表が終わったこの世界から、ログアウトした。

負けてはしまったものの、悔しい思いをしたものの、楽しい3日間だったと私は思う。


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