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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 2 第5章 月を壊したかぐや姫
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Episode 37


【貧血】。

なったことのないデバフであったものの、効果はある程度理解した。

肉体行動の阻害及び、効果量が大きくなればなるほどにデスペナになる確率が上昇していくデバフ。


「よく【貧血】に効く薬なんて持ってたねぇ」

「一応色々な状況の想定をしてますから。掲示板で報告のあったデバフに関してはある程度予防と快復が出来るようにはしてあります」


頼もしい言葉だ。

だがしかし、そんな彼でも【貧血:大】にまでなると完全には治しきれないらしく。

私のステータスには今も【貧血】という文字が見えている。

それだけハンティングナイフによる効果が強力なものだったのだろう。


……?そういえば追撃が来ない?

一瞬、ゆっくりといつも通りにマギと会話をしてしまったが、今は戦闘中。

先程までこちらに石の鉢を落とし続けていたアリアドネは一体……と思い視線を向けてみれば。

そこには、身体の半分以上を赤黒い液体に覆われ拘束されている巫女服の女性の姿があった。

赤黒い液体の中には、アリアドネが出現させた白い人型の姿もあり身動きがとれないよう抑えつけれらているようにも見えた。


「……いや、どんな状況?」


私がハンティングナイフを使い、意図せず生み出した人型には何も命令をしていない。

ただ放っておいたら相手を拘束していたのだ。

思わず口に出てしまったが、それも仕方ないだろう。

先程までこちらに攻撃してきていたプレイヤーが、いつの間にかこちらの放った何かに拘束されていたのだ。


「こんッのッ!!」

「あはー……なんか動けないっぽいけど大丈夫かーい?」

「アナタがやったんでしょう!?これ!?」

「いやぁ、私としても予想外って言うかなんて言うか……ごめんね?」

「謝るなァッ!!」


先程までの雰囲気は霧散し、何処か弛緩した空気が漂い始める。

当然だろう。この場だけに限るなら、もう戦いは終わってしまったようなものなのだから。


拘束系のモブは基本的にダメージを与える、もしくは制限時間が来なければその拘束を外すことはない。これは私の【祖の身を我に】を使って確かめたためにほぼ正確な情報だ。

勿論、周りに自分しかいない状況でもダメージさえ与えられれば拘束を外すことが出来るのだから、脱出自体は簡単な部類だ。


しかしながら、ダメージを与えるには攻撃を行う必要がある。……つまりはどうにか身体を動かす必要がある。

遠隔操作のように身体を動かさずに攻撃が出来るスキルを持っているものもいるだろう。

だが、それらを使ってダメージを与えるのはオススメできない。

何故かと言えば、手加減が出来ないからだ。


身体を使って攻撃を行える武器は、勿論その身体の動きによって威力が変わってくる。

軽く振るのと、フルスイングをするように振るうのとでは威力に違いが出るように、身体の動き1つ1つをとっても相手に与える事が出来るダメージに違いが出てくるのだ。

だからこそ手加減をすることが出来るし……人によっては、拷問をするためにきちんとした力加減や身体の動かし方などを学ぶほどだ。


しかし、遠隔操作による攻撃は違う。

身体を動かすのとは別に、何かを使って攻撃をするというのはその何かによって威力……ダメージが変わってくる。

一番わかりやすいのはメアリーのクロスボウだろうか。

彼女のクロスボウは、矢によって威力が変わるが……彼女の身体の動きによってその威力が変わることはない。


「まぁそんなに吠えても状況は変わらないぜ?……正直悪いとは本当に思ってるんだ。まさかこのナイフの効果がそんなのだとは思わなくて」

「それが嘗めてるようにしか聞こえないのよ!こんな、こんな……突然来て、突然戦い始めて!全部壊していくなんて……!」

「……」

「誰にも顔向けできないじゃない!こんな終わり方して失敗しました、なんて言えないじゃないッ!!」


アリアドネが叫ぶ。

私は彼女、というかディエス側の事情も、そこに元々攻め込んでいたネース側も、もっと言えば自身の所属するデンスの事情すらも良く分かっていない。

そんな相手に、こうやってギャグ漫画かのようにしっかりと練っていた計画を破壊されたのだ。

そりゃ叫びたくもなるのだろう。


だが、これは戦いだ。

どんな結末になったとはいえ、私と彼女は戦い、そして私は彼女を想定外に無力化してしまった。

いや、まだスキルを使えるから近づけば石の鉢か何かが降ってくるかもしれないため、完全には無力化出来たとは言い難い。

そう思った瞬間の事だった。


「うぐっ?!」


彼女の身体を拘束していた赤黒い液体が……血が、まだ覆っていなかった彼女の身体を包み込んでいく。

最終的に顔も全て血の中に沈んだ彼女はこちらから視覚的には見えなくなったものの。

スキルを発動させた本人だからだろうか、私にはわかってしまう。


少しずつ少しずつ。

液体中に取り込まれた彼女の身体は、その先端から何かに食われているかのようにぐちゃぐちゃのミンチへと変わり、次の瞬間には消えていく。

その時だった。

私は何も食べていないのに、【|あなたの糧で生きていく《カニバリズム》】が発動し、回復しきっていなかったHPが一気に全快する。

試しに【フードレイン】を発動してみれば、それに合わせ液体中のアリアドネの肉体が小さくなっていくのと同時、私の周囲で血と肉の雨が降り始めた。


「あー……そういう奴かぁ……成程ね」


そして、理解してしまう。この左手に今だに残っているハンティングナイフ……それが引き起こす効果を、今度はしっかりと。


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