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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 2 第5章 月を壊したかぐや姫
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Episode 36


出現した赤黒い液体の使い方など知るわけがない。

元々【祖の身を我に】によって出現、発動する効果は同じ素材でも複数の種類が存在する。

ナイトゾンビの腕から、剣や盾、手甲などが出現するように。

コマンダーゾンビの腕から、味方を強化するバフや、全く役に立たない剣が出現するように。

コストとして消費する素材の……その元となった者達の特徴を掴んだ効果が発揮されてきたのだ。

そしてそれらの使い方は、実戦や決闘など……戦いの中で学んできた。


人型を象った鉄の香りのする液体は、アリアドネの近くに出現した白い粘性の液体の人型へと相対しようとする。

不格好な姿。しかしながら、その動きは滑らかだ。

目の前のアリアドネは突如出現したこちらの人型に呆気をとられているのか、少しばかり目を見開いていたが、すぐに真っ直ぐ私の目を見返してくる。

……人型の方も気になるけど、問題はこっちかな。


私はその視線から逃げるように、今だ手に残り続ける赤黒い刀身のハンティングナイフへと視線を向ける。

私自身の肉をコストに出現させたその武器は、どう反応すべきか分からない効果を発揮している。

咄嗟に使ってしまったが、これを使い続けていいものか――そう考えた瞬間……ガクンと、突然私の膝が笑い始めた。

一体何が、と思い視界の隅に飛び込んできたのは、【貧血:大】という文字。

それを見た瞬間、身に起こったこととハンティングナイフの効果を大まかに理解し、自嘲気味に笑う。


そして、そんな私の目の前で。

相対している彼女は、大きな隙を見逃さんとスキルを宣言した。


「【竹取の五難題】ッ!」


出現するは、巨大な石の鉢。

私の頭上にそれは出現し、物凄い勢いで落下し始めた。

……この武器の能力は、使えない。次は確実にデスペナ送りだろうねぇ。

直接石の鉢とぶつかりあった場合でも、この状態になった私ではまともに受け切れるかどうかも怪しいだろう。


ならば、と現在の地形を利用する。

多少のダメージを覚悟して現在いる位置……石階段から頭を腕で守るようにしながら転がり落ちる。

身体の自由が利かないのならば、自分の身体以外を使って移動すればいい。


「ぐっ、がッ……!」


鈍い衝撃が身体中を襲いながらも、階段から転がり落ちていく。

続いて石の鉢の落下の衝撃が私の身を襲う。

近くで爆発が起きたかのようなそれは、私の身体を軽く空中に飛ばした。


まともに身動きが取れない中、何とか腕を動かし。

空中に居ながらではあるが、アリアドネの方を見て何とか対応できるように構えてみる……が、先程戦っていた時よりも自身の身体に力が入っていかないことに気が付き笑ってしまう。


出たとしてもまともな効果ではない――そう自分で断じていたが、実際にまともとは言い難い効果を発揮してくれた手の中のそれは、恐らく強力な武器なのだろう。

相手の金属製の枝と撃ち合った時に出てきた、鉄の香りがする赤黒い液体。

私の想像通りならば、アレは自分の(・・・)血液なのだろう。

致死量一歩手前、気絶一歩手前のギリギリ吸いだされた本人が動けるほどの量の血液。

それが人型となり、今は相手の人型を拘束し……取り込んでいるように見える。

器用に自身の身体を触手のように伸ばし、さながらクリオネの捕食のように相手の身体を自身の中に融かしていく。


「先輩ッ!」


必死そうな後輩の声が聞こえ、次の瞬間には何かの液体の中に私は捕らえられた。

アリアドネの近くの白い粘性のものではなく、薄い緑色の半透明な液体だ。

それと同時、私の減っていたHPが少しずつ少しずつ回復していくと共に、少しずつではあるものの、身体が動かせるようになってきていた。

……これは、マギくんの【薬人形】かな?


彼が、ゲーム内でも行方をくらませる私を捕らえるために【魔女】のスキルをアレンジして使っているものの1つ。

自身の生み出した薬を自由自在に操ることが出来るスキル……だったはずだ。

恐らくはパーティ機能から見える簡易的なステータスによって、私に掛かっているデバフを把握したのだろう。

【貧血】にまで効く薬を持っていたことにも驚きだが、それよりも判断からの行動が早いことにも驚いてしまう。

優秀な後輩がいてくれて助かったと、心からそう思った。


断続的に私の頭上に出現する石の鉢を、マギの操る薬に包まれている私は避けていく。

否、私が避けているのではない。

マギが石の鉢に私が触れないように操ってくれているのだ。

その事に感謝しながら、徐々に高度が下がり地面が近づいてきているのが見えたため、薬の中で体勢を整え着地出来るように身構えた。


やがてゆっくりと、しかしながらしっかり石の鉢の影響のない場所へと薬は私の身体を下ろしていく。

近くにはマギやメアリー、そして無理矢理回復させたのか足の復活しているハロウの姿があった。

その後ろの方にはネースの2人もしっかりとある。

……あの2人は何やってるんだろう。私達の戦力分析でもしてるのかな。


「何やってるんですか、先輩」

「いやぁごめんごめん。まさかあんな動けなくなるようなデバフが掛かるとは思わなくてねぇ。助かったよマギくん」


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