Episode 12
推定首謀者と思われるプレイヤーの名前を彼が口に出した瞬間。
【式紙】達の顔と思われる部位が全てソーマの方へと向いた。
そしてそのまま彼へと攻撃を仕掛けるために走り出す。
「ははっ、誰がスキルを使ってるかは知らないが……反応が露骨すぎるぞ。それでは答えを言っているようなものだ」
彼は普段からは考えられないような獰猛な笑みを浮かべると、元々持っていた遠距離攻撃用の弓を光へと変えると、そのまま両手にどこかで見た事のあるような双剣を作り出すと、そのまま迎え撃つように腰を低く構えた。
「ハロウ」
「何かしら?」
「お前らが先にいけ。ここまで過剰反応されるとは思わなかったが……こうなってしまった以上、俺がここでどうにかするしかないだろう?」
今まで全員で対応しなければ手が足りないほどの数の【式紙】。
それに対して、彼はターゲットにされた自分1人で挑むと言っているのだ。
「……馬鹿でしょう。無理よ、手が足りないわ」
「でもやるしかないだろう?あぁ、でもそうだな……神酒は残してくれ。流石にタンク1人じゃ無理だろうよ」
「ん?私?元々行く気ないから今更だよ!」
ソーマの声に、近くにいた【式紙】を倒しながら神酒は返事をする。
タンク1人にアタッカー1人。
周囲には今もなお増えていく【式紙】達。
無謀でしかない。しかしながら、恐らくそう言ったところで、彼らは聞き耳を立てないだろう。
ならば、私達がとれる選択肢は1つだ。
「分かったわ。2人でやるなら柚子饅頭さんとジョンドゥさんはこっちでいいのよね?」
「あぁ、いいぞ。……いいか?ここまで多くの【式紙】を操るとなると、必然的にスキル使用者もこちらへと近づいてこなければいけなくなる。つまりは、だ」
「近くにこれの首謀者がいるから、それを倒す。そしてプラスでアリアドネを止めれば」
「各区画で起きている襲撃が一時的には収まるってことだ。やることは分かったな?」
マギに目を向けると、彼は既に【感覚強化薬】を使用しつつ、周囲に存在しているプレイヤーを探し始めている。
メアリーはイマイチよく分かっていなさそうだが……まぁいいだろう。
CNVLはと言えば、
「うーん……成程ね」
と何か虚空を見ながら呟いているのが見え少しばかり気になったものの……今は時間がないため、後で確認する事にした。
「柚子饅頭さん、ジョンドゥさんはそれで大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない。とりあえず道を作らないといけないな……任せてくれ」
「ハッハァ。大丈夫だよ、そもそも1番良い装備しか着てないからねぇ」
2人共に近づいてきた【式紙】を倒しながらではあるものの、返事を返してくれたため、改めてソーマに向き直る。
マギの索敵が終わり次第、こちらはこの場から離脱するつもりだが……彼はどうやって生き延びるつもりなのだろうか。
「なんだその目は。言っておくが、俺は相性が良い相手に対してはとことん上手になれるんだ。【式紙】に関して言えば、俺が死ぬ事なんて神酒が死ぬくらいありえないだろうよ」
「それあり得るって事よね?」
「そうとも言うが、絶対なんて言えるわけもないだろう」
近くの【式紙】を倒しつつ。
ソーマに【印器乱舞】を使いバフを捺印していく。
それと共に、使っていない試作品段階の印章とインクを一緒に渡しておく。
「少なくともこれがアレば多少は余裕が出るでしょう。使って」
「……お前、この後戦う事になるかもしれない相手にこんなものを」
「馬鹿って言いたいのかしら?でもここでソーマ達に倒れられた方が困るのよねぇ……あ、マギ索敵出来た?」
「えぇ、出来ました。案内出来ます」
「了解。柚子饅頭さん行けます?」
「いつでもいいぞ」
ソーマの呆れるような声を半ば無視して。
私は周りと声を掛け合いながら、マギの示した方向へと向く。
区画の外側……外周へと向かう方角だ。重要拠点の位置はイマイチわかっていないものの。最悪高い所から探せばいいと考えよう。
柚子饅頭は自信満々にその方角へと向き。
手に光を集め始めた。
「さぁ、私の後に続いてくれッ!【銃弾創造】、【多重銃口】、【装填】、【ファーストファイア】」
彼女の手の中には1つの赤い銃弾が作り出され。
その銃弾が複数に別れ、多数の銃口のみの何かに吸い込まれていく。
そして、次の瞬間。それらが一気に火を噴いた。
射線上に居た【式紙】達が、撃ち抜かれ消えていく。
彼女の戦い方。
それは、単純に言えば銃による範囲殲滅だ。
彼女の【犯罪者】によるスキルは、銃を扱うためのものが多種多様に揃っている。
今使っていたものも弾を、銃口を作成し、そのままそれらから発射させる類のもの。
本人によれば、他のスキルもあるらしいが……彼女が使っている所をこの戦闘中見た事がないため、本当に使えるのか疑問ではある。
「よし、道は作った!行くぞ!」
「「「了解ッ!」」」
柚子饅頭の声に、私達は返事をしながら。
ソーマ達をその場において、出来た道へと駆けだしていった。