Episode 14
--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス
■【リッパーA】ハロウ
区画順位戦開催当日。
現在時刻は大体昼の13時ちょっと前。
運営からは『それぞれの所属区画にて時間まで待機をお願いします』と通知があったため、いつもの面々と共にデンスで待っている形となっている。
まぁ、待っているとは言ってもCNVLに素材を渡して武器用のハサミを作ってもらっているのだが。
「どう?」
「んー、もうちょっと大きくならない?出来ればこのナイフと同じくらい」
「それ結構大きくなるけどいいのかい?」
「いいのよ、どうせ武器として使えればいいんだから」
突き刺したり断ち切るというより、挟み潰すのを目的としたハサミ。
その用途から、下手に小さいとほぼほぼ攻撃力のないものになってしまう。
最低でもメアリーに作ってもらった【HL・ナイフ】ほどの大きさは欲しいのだ。
「よし、じゃあこの大きさで……」
「グリップ部分には【人革】?」
「そうだね。あ、【人骨】も使おうか。物理的に滑り止めるために」
そうやってアレコレ言いながら完成したのがこれ。
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【HL・スニッパー】 武器:大鋏
装備可能レベル:5
制作者:CNVL
効果:人型敵性モブに対し+3%のダメージ補正
鉄製品に対し破壊確率上昇
説明:人革、人骨があしらわれた冒涜的な鋏
見た目以上に重いため取り回しには慣れが必要
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見た目は通常のハサミのように支点を中心に重なり合ってはおらず、二枚の厚い金属板が丁度真ん中で合わさるようになっている。
挟み、そして潰すのに特化しているために刺したり切ったりすることには向かない武器となった。
最大の特徴は、その大きさだろうか。
持ち手の部分はそれぞれ片手で持たなければならず、刃の部分は人の頭くらいならば余裕で挟める程度には大きい。
挟むという行為をしなくても、これで打撃するだけでもかなりのダメージを見込めそうだ。
軽く刃を広げてみたり、試しに自分の手持ちにある腐った肉片を潰してみたりなどして、使い勝手を確かめる。
肉片を潰した瞬間、CNVLが凄い悲しい表情をしていたが。
「ありがとう、良い出来だわ」
「……あは、なら良かった。なんとかイベント開始前に間に合ったねぇ」
『イベントって掃滅戦でしたっけ('ω')何を相手にするんだろう……(;'∀')』
「突然NPCの住人がモンスターになったりするかもしれないですね。さながらゾンビ映画みたいに」
そんなマギの発言の直後。
突如、上から破裂音……祭の始まりになるようなパンッ!という乾いた音が連続して鳴りだした。
その音に釣られ、上を見てみればそこには1人の警察のような姿をした男性の姿があった。何故か白衣を上から着ていたが。
頭上には『GM』と出ているため、今回の区画順位戦開始前のルール説明をしてくれるのだろう。
『あーあー、テステス。聞こえてるな?オーケーオーケー。ンン……やぁ諸君。運営の駿河だ。これより区画順位戦をスタートさせてもらおう。だがその前に、簡単なルール説明だ』
そう言って、GM……駿河さんは空中に半透明なスクリーンを出現させ、簡易的な動画を流し始めた。
『おっさんの話を聞きたくない人はこっちを見てな。さて、今回の区画順位戦は掃滅戦!各区画にダンジョンがあるのは知ってるよな?そこから大量にモンスターたちが溢れ出すから、それを駆除するのが君らの目的だ。期間としては約2日。……あぁ、大丈夫。このイベント中はゲーム内時間を加速させるから外じゃ大体2~3時間くらいしか経ってないことになるから安心してくれ』
と、ここまで説明して。
駿河さんは何やら手元で目には見えないものをいじり始めた。
恐らく私達でいう、非表示設定にしたウィンドウかなにかだろう。
『と、ここで質問がオリエンスのプレイヤーから入ったが……途中でログアウトしたら勿論内部時間は進みに進んじまう。つまり、たった5分現実でトイレに行ってるだけでも中じゃ1時間とか進んでたりな。まぁ……そこはなんとか折り合いをつけてくれ』
「……まぁ最悪漏らしましょう」
「そうするしかないよね。はは、この歳になっておねしょを覚悟することになるとはねぇ」
私とCNVLの会話に、他の2人がなんとも言い難い表情をしているが仕方がない。
こういったリアルタイムで進行するタイプのゲームは、途中で抜けると良い所を見逃すものなのだ。
まぁ私は一応ちゃんとトイレなどはログインする前に済ましてきているため問題はないが。
『よし、いいな?じゃあ今から!区画順位戦の開始だ!!妨害共闘なんでもありの第一回!これより開催だ!!』
駿河さんがそう言うと、ドクンと空間が脈打った。
そしてそれは次第に早くなっていき、大きく一回ドクン!と脈打ったあと、周囲は一瞬光に包まれ何も見えなくなる。
視界が回復したあと、空中を見てみても駿河さんの姿はなく。
その代わりに『区画順位戦終了まであと~』といった煙で描かれたタイマーが出現していた。
場所を道端から喫茶店に移した私達は、紅茶を飲みながら方針を決めていた。
「まずは現状を確認しましょうか」
『えーっと、まず各種掲示板は使えないかわりに、新しく区画所属プレイヤー専用の掲示板が立ってるね('ω')全区画あるからコレを使って連絡を取り合えってことだと思う('Д')』
「あは、既に戦闘始まってるっぽいね。初めはダンジョンの入り口からだけだったのが、突然地面からもゾンビ種が出現するようになったって」
「間違いなく、スポーンの設定が変わってますね。……もしかしたら時間経過によってはこういった店の中にもスポーンするのかも」
ちらりと外を見る。
大量の人影がありいつも通り賑わっているように見える……が、実際はそうではない。
アクターゾンビに加え、ソルジャーゾンビが大量に街を闊歩しているのだ。
ついでに言えばデンスに限られた話にはなるものの、空にはフリューブックが大量に飛んでおり、下手にゾンビたちと戦闘をしようものなら大量のゴーレムたちもその戦闘に参加することになるのだ。
ただ、実際ある意味での無限湧きに近いものなため、経験値は本当に美味い。
戦闘を連続して続けられる技量があればの話だが。
「まだどこにも他区画のプレイヤーが攻めてきたってのはないのよねぇ……」
「まぁまだ始まったばかりだしね。多分早くて今日の夜くらいには来ると思うぜ?……まぁどこが来そうとかは分からないけど」
私達がこうやって喫茶店にて話をしているのにも理由がある。
一度席を立ち周囲を見渡せば、そこでは私達を見守るようにして20を超える数のプレイヤーが狭い喫茶店の中に屯していた。
彼らは、言ってしまえば私達を探し出し助力を請いに来たプレイヤーたちだ。
言ってしまえば私達はノーマルモードといえど最速で【劇場作家の洋館】をクリアした、いわばトッププレイヤー。
CNVLのおかげか否か、アバターの姿自体も知られているため今回こういう形で集まってきているのだろう。
「……さて、と。じゃあどうしましょうかね。とりあえず掃滅戦なんだからゾンビの大本でも叩きに行きましょうか?」
「大本?」
「えぇ、大本。ここに居るゾンビたちは見る限りアクターゾンビとソルジャーゾンビ。2Fに出現するムービーゾンビはまだ居ないけれど……恐らく時間経過で出現するようになるでしょうね。じゃあ彼らの親玉は何?って話よ」
そこまで言えば分かる者も出始めたようで、『おいおいマジかよ』『これレイド戦だったのか』などと言っている。
マジも何も、初めから掃滅戦と言われてる時点で考えられた内容だ。
「私達は私達で潜ることにするから、貴方達は貴方達で組んで潜って頂戴ね。シェイクスピアを倒したパーティは掲示板に報告。……外に1パーティは残ってた方がいいかも。シェイクスピアを倒すことで何が変わるかとか分からないし」
「じゃあそれは俺達がやろう。まだレベリング段階でシェイクスピアに勝てる見込みもないからな」
私の言葉に手を挙げたガタイの良いスキンヘッドの男性と、その仲間らしき数人のプレイヤーが準備を始めた。
彼の名前はスキニットというらしく、一応何かあった時私に繋がるようにとフレンドになっておいた。
「じゃあ行きましょうか。道中のゾンビたちも一気に倒していきましょう……【リッパー】居るわよね?」
「「「応!」」」
「オーケー。【リッパー】中心で、なるべくスキル使わずに急所狙いで。他の【犯罪者】は出来ることを中心にやってね。手の内を見せたくなければそのままついてくるだけでもいいわよ」
そう言って私はいつものメンバーを連れ、喫茶店から外に出る。
次の瞬間、出てきた音か私達の気配のどちらかに気が付いたのだろう。
周囲に居たゾンビたちが一斉にこちらへと向き、その身体をこちらへと向け前進してくる。
私は【HL・スニッパー】を。隣にいるCNVLは新調したのか、新しい装飾なんかがされている出刃包丁を構え、近くのアクターゾンビに向かって走りだす。
先手必勝……ムービーゾンビが居ない今、突然こちらへと走ってくるようなゾンビは居ない。そのため、言ってしまえば常に先手を取れる状態でもあるのだ。
アクターゾンビに近づき、頭を捉え。
私は【HL・スニッパー】の刃を開き、そのまま閉じる。
断ち切るのではなく、挟み潰すのに特化したそれは多少の抵抗はあったものの、パキュッとどこか小気味いい音と共に頭を潰し、光へと変えた。
-1ポイント獲得-
アクターゾンビが完全に光となった瞬間、視界の隅にそんな文字が出現した。
恐らくは区画順位戦に関係するポイントだろう。アクターゾンビで1ポイント。
ということはソルジャーなんかならもうちょっとポイントが高かったりするのだろうか。
「うーん、コレ一気に集団に対して使えるようになると便利かしらね」
「あは、次はもっと大きくするかい?」
「素材が集まったらお願いするわ。まだこれでも扱い慣れてないもの……もしかしたらギミックとか頼む可能性も高いしね」
「了解了解~」
そんなことを話ながら、私達は進んでいく。
ガチャンガチャン。パキュンパキュンとリズム良くゾンビを倒していく。
周囲にはゾンビ。そして私達が戦闘を始めた事によって、空からはゴーレムが出現し始める。
気分はちょっとした無双ゲーだ。
経験値も入るし、素材も手に入る。敵は現状そこまで強くなく、下手しなくても一撃で倒せる範囲。
……素晴らしいイベントねコレは!
『テンション上がってる所申し訳ないけど、ゴーレムが大量にこっち来てるよ('◇')完全にヘイト稼いでるみたい\(^O^)/』
「あー、まぁこれだけ1パーティで局地的にポイント稼いでればヘイトも溜まりますよね。バフは要りますか?お二人さん」
「「大丈夫!」」
私とCNVLは同時に返事をしながら、大量にこちらへと向かってきているゴーレムを攻撃し始めた。
ナイフよりはハサミの方が良いだろうと、そのままに。
挟み潰すには強度がありそうな本の化物を前に、私は足を狙ってハサミを振るう。
多少ハサミの重さに身体を持っていかれながらも、その重量をそのままゴーレムへとぶつける。
そのままの勢いで身体を無理矢理に回し、もう一撃。良い音が鳴りながら、足を構成する本が傷ついていく。
……ダンジョンに辿り着くまで、結構時間がかかりそうね。
どこか他人事のように考えつつ、私はそのままゴーレムたちへ再びハサミを振るった。
宙に、光が舞う。