Episode 15
攻撃を仕掛けていたプレイヤー達は一様に天使から距離をとり、CNVLの攻撃範囲から逃れていく。
そんな中、私は【土精の鎚】を手に天使へと近づいた。
『ッ!』
「よそ見は禁物よ」
上から振り下ろされる骨の剣へ対応しようとした天使の、そのガラ空きとなっている胴体にハンマーを横から振るう。
大きく振った一撃だ。当然、咄嗟に片手の光の槍を盾のように変化させ、天使は私の攻撃を防いだ。
【隆起】側の面を使っているため特に衝撃波が発生したりはしないものの、それでいい。
無感情の天使の瞳に、私の笑った顔とすぐ近くまで迫ってきていた骨の剣が映っていた。
『チッ!』
「【洋墨生成】、【デュアルシギル】」
声だけは感情が豊かな天使は舌打ちを一つすると、近くにいる私から離れるように……上から迫ってくる骨の剣へと自ら近づくようにその場から跳ね上がった。
空中ならば背中に生えている白い翼を使い回避行動がとりやすいと踏んだのだろう。しかしながら、それくらいはこちらも分かっている。
今度はきちんと効果が発揮するように、【隆起】の面を地面へと勢いよく振り下ろした。
瞬間、私の目の前の地面が振り下ろした勢いに比例する速度で、跳び上がった天使の足場になるように盛り上がっていく。
そして【デュアルシギル】の効果によって2度目の盛り上がりが発生すると同時。
骨の剣は天使へと到達した。
私はそれを見た瞬間に、CNVLの直線上の位置から移動し安全を確保する。
空中に逃げようとした天使は、自身の足の裏についた地面の速度からバランスを崩し。
尚且つ自身に振り下ろされた剣を受け止めようと、不安定なその足場で踏ん張ってしまい……足元が崩壊する。
そしてそのままの勢いで、骨の剣によって地面へと叩きつけられ……光の粒子となって消えていった。
-節制の天使が討伐されました-
-討伐ポイント:戦闘参加者に各3ポイント付与されます-
そんなシステムログが視界の隅に浮かんでいるのが見え一安心しそうになるも、イベントが始まっていることを思い出して息を吐いた。
「この場に居るデンスのプレイヤー!皆掲示板で情報を集めつつ、今の天使らしきものがいる所に応援に行って!無論、他の区画プレイヤーからの妨害には注意して!」
「「「了解!」」」
「うちのパーティはオリエンスの代表……酔鴉のパーティとの合流に動くわ!」
そう言って、周りの話を聞いてくれそうなプレイヤーへと指示を出して移動を開始する。
嫉妬のような視線を感じないわけではないものの、今はそんな連中に構っている程時間はないのだ。
まずは戦力の確保。
目標はもちろん区画順位戦の勝利ではあるものの、それに見合うほどの戦果を挙げるにはやはり戦力が必要なのだから。
私とCNVL、そしてその場にいたプレイヤー達で1体倒すまでにあそこまで時間が掛かったというのは、それだけ相手が強いということ。
相手が人型ならばデンスのプレイヤーは他の区画よりも効率的な『壊し方』や『扱い方』を知っているはずなのだ。
そんなプレイヤー達が掲示板を見る限り苦戦している。
「マギ、強化!」
「了解です。【魔女術:全体強化】」
マギが杖のように持っている乳棒をまるで指揮棒のように振ると、私達の身体に赤い光が宿った。
それは周囲のデンスのプレイヤー達も同様で、こちらへお礼を言いながら走り去っていった。
【魔女術:全体強化】はその名の通り、強化を全体に……とはいかないものの。
一定範囲内にいる者全員へと掛ける、無差別強化スキルだ。
その分だけ強化の倍率は低いものの、こういった場では非常に役に立つスキルでもあった。
「よし、じゃあ行くわよ」
「オーケィ。道中の敵さんは?」
「可能な限り潰していくわ。ポイントもあるし」
『了解(゜д゜)!』
まだ区画順位戦は始まったばかり。
先程の天使を見た私は、何か言いようのない不安に襲われていた。
走ること暫し。
道中苦戦しているプレイヤーに断って参戦したり、こちらへと立ちふさがるかのように降り立った天使をシバいたりしていたためか、デンスとオリエンスの境界までくるのに1時間ほどかかってしまった。
「ふぅ……普段はここまで来るのに10分も掛からないのに面倒ね」
「移動もままなりませんねコレ……フレンドコールの方は?」
「ダメね、繋がらない。同じ区画には繋がるのよね?CNVL」
「繋がったねー。とりあえずスキニットくんが周囲の子らと共闘しながら拠点守ってるって」
ここに来るまでに判明したことはいくつかある。
その中でも重要なのは、私達が確認できていなかったデンスの重要拠点がどこにあるかということだ。
丁度近くにいたらしいスキニットの話によれば、
『前はゾンビがいっぱい出てきた所を今回守らないとって皮肉かな?(´・ω・)』
「まぁその意味合いもあるでしょうね。ともあれ潰されたら困る所でもあるわ」
デンスの重要拠点は【劇場作家の洋館】へと繋がっている洋館がそうらしい。
壊されたら今後どうなってしまうのか分からない点、デンスへの新規参入者が減りそうな点から下手に守られるよりは信用のおけるプレイヤーが近くに居てくれただけでも僥倖だった。
聞けば他にもバディや赤ずきんなど、知り合いも数多く参加しているようで。
私達は拠点の防衛自体はそこまで気にしなくても良さそうだと分かった。
「さて、と。このフレンドコールが繋がらないのは多分イベントの仕様よねぇ……入ってみるか」
そう言って、一歩踏み込もうとした瞬間。
私の視界に1枚のウィンドウを出現した。
--Warning 『注意:現在、区画順位戦中です。第三区画オリエンスへと進む場合PKされる可能性が高くなりますがよろしいですか?Y/N』
「へぇ、こんなのが他の区画に行くときは出るのねぇ」
「あぁそっか。ハロウは前回デンスか中央以外にはいかなかったんだっけ」
「そうね。……まぁ了承でいいでしょう。襲われてもなるようにはなるでしょう」
ウィンドウのYESを選択し、そのままオリエンスへと足を踏み入れた。