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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 2 第4章 天使にレクイエムを
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Episode 14


13時丁度。

外から軽い破裂音が連続して聞こえてきた。

喫茶店の窓から外を見てみれば、空中には白衣を上から羽織った警察官のような恰好をした人が空中に浮いていた。

我らがゲームマスター駿河さんだ。


「イベント開始ね、出るわよ」

「「『了解』」」


私達は散らかしていたその場を素早く片付け、喫茶店の外へと出る。

今回の区画順位戦に関しては協力型という情報しか事前に発表されていなかったため、最初の駿河さんの説明は聞き逃せないのだ。


『ハジメマシテの【犯罪者】諸君はハジメマシテ。既知の奴らは久しぶり。GMの駿河だ。これより区画順位戦を始めさせてもらおう……と言いたいところなんだが』


空中に浮いた駿河さんがどこかを見るような素振りを見せる。

そこにいるわけではないため実際にどこを見ているかは分からないものの……中央区画の方を見ているように見えた。


『まずは一回中央区画の街並みを戻すために、中央にいる【犯罪者】諸君を所属区画へと転送するぞ。すまんな、これも仕事の内なんだわ』


そう言って、どこか指揮をするように腕を振れば。

突然私達の横に数人のプレイヤーらしき人達が出現した。

彼らは彼らで若干不満そうではあったものの、仕方ない事だと諦めているような節もあるように見えた。


『よしよし。じゃあ続いて今回の区画順位戦の説明をしていこう。といっても、ルールは簡単だ。……ずばり、今回の区画順位戦は防衛戦!各区画に守るべき重要施設が存在するから、それを破壊されないように立ち回るのが君達のするべきことだ。マップにアイコンで表示されるから各自確認するように』

「……防衛戦、ねぇ」


頭では理解できるものの、それがどう協力型になるのかは分からない。

区画順位戦はその名の通り、それぞれの区画が順位を争うイベントだ。

自身が所属していない区画の施設を壊しにいくプレイヤーが多くなりそうだが……とここまで考え、一つ思い当たった。

最近、この街で見られるようになった存在のことを。


『お?分かった奴も何人かいるようだな。そう、ただ他の区画の【犯罪者】から守ればいいってだけじゃあない。勿論第三勢力が存在するから、それをイベント終了までにどうにかしないと全区画最下位(ドベ)判定だ』


にやり、とこちらを見て笑う駿河さんは前よりも楽しそうに……否。少し無理をして笑っているように見える。

恐らくは彼の上司に何やら色々と言われたのだろう。

ご愁傷様としか言いようがない。


『イベント終了は今からゲーム内で3日後。もちろんイベント限定のゲーム内時間を加速させてのものだから、実際現実では3時間ほどにしかならない。ちゃんとオムツは穿いてきたか?』


どこかで「五月蠅いなぁ!」と知ってる声が聞こえたような気がしたものの。

リアルの方は半ば諦めているため、尿意がきたとしてもそのまま続行するつもりだ。

メアリーの方は……若干遠い目をしていることから大体私と同じようなものだろう。

CNVLとマギは曖昧に笑っているために分からないが、CNVLは兎も角、マギがそんなミスを犯すとは思えない。


『ちなみに勝敗の決め方はその重要施設の被害具合で決定するから、頑張って守って攻めるように。では、諸君。健闘を祈る』


ブゥン、という機械っぽい音と共に駿河さんの姿が掻き消えた。

瞬間、中央区画の方向から何かが飛んでくるのが見える。

否、それはここ数日でよく見るようになった者たちの姿だった。


「……天使」


誰かが、そう呟いた瞬間の事だった。

近くに金髪の翼が生えた女性が降りてきた。その手には光が集まってできたような槍と盾を持ち。

その頭の上にはそれらしい輪っかをつけ、白い修道服を身に纏った彼女は一言、


『殲滅開始』


そう言って、流れるように自然に――私に向かって槍を投擲してきた。

咄嗟にインベントリからハサミ状態の【HL・スニッパー改】を取り出し防御するものの、それと同時に近づいてきた天使に懐に入られ、腹をトンと軽く押され……次の瞬間、私の身体は後方へと吹き飛んでいた。


やがて何処かの建物の中へと突っ込んだのか、瓦礫に埋もれ私の体の勢いは止まったものの。

HPがどんどん減っていくのを片目で追いながら、何とか【印器乱舞】を発動させ自身の身体に各種バフを施していく。


私の事を吹き飛ばした天使はといえば、CNVLを筆頭に周囲にいたデンス所属のプレイヤーによってこちらに来るのを何とか止められている状態だった。

とはいっても、CNVLはまだ何も武器もアイテムも取り出していないため、私の状態確認の時間を稼いでくれているようだが。


いつまでも寝ていられないと、身体を起こし【土精の鎚】をインベントリから早速取り出した。

対人戦かボス戦に遭遇することがあれば使おうと思っていた武器を、こんな始まってすぐに使う事になるとは思っていなかった為に苦笑する。


頭の部分を杖のようにして立ち上がり、マギの近くまで移動する。

私が近づいて来たのが分かったのか、真剣な表情でこちらにHP回復用の薬を渡してくるマギに短く礼を言って私はハンマーを構えた。


「CNVL!在庫(コスト)はあるでしょう!全力!」

「!……あはッ!了解ッ!【食人礼讃】!」


私の声に笑うように答えた彼女は、巨大な骨の腕をインベントリから取り出し喰らう。

瞬間、彼女の右腕にどこからともなく集まってきた骨が纏わりついていき……剣を作りだしていく。


【決闘者の墓場】、そのボスである【死骨王者 グレートヒェン】。

彼女の腕を喰らったのだ。


しかしそれを黙って見ている敵ではない。

剣の生成を止める為、そしてCNVLを殺す為に槍を投擲し、先程私がやられた様に槍に追従しながらこちらへと走ってくる天使に、周囲のプレイヤー達が殺到した。


触れられれば、先程の私のように吹き飛ぶのが分かっているのか、そこまで積極的に距離を詰める者は居ないものの、進行方向に立ち塞がり妨害するように立ち回る。


腕にさえ当たらなければと、胴体を。

そもそも動いているその脚を。

そして、一か八かその人形のように綺麗な頭を。

それぞれがそれぞれに狙いをつけ、攻撃を行った。


だが、それらは全て防がれる。

一瞬天使の腕が光ったかと思えば、新たに2本の長槍を出現させ。それらを振るうことでそれぞれ違う部位を狙う攻撃を捌いていく。

しかしそれで良い。

ダメージを与えることが目的ではないのだから。


デンスのプレイヤーならば知っている。

CNVLのスキル、その威力の高さを。

だからこそ、それを決めさせるために自分の身を使って時間を稼ぎ、


「数瞬とは言え稼いでくれてありがとう。――出来たぜ」


待ち望んでいた時がやってきた。


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