Episode 12
「大体こんな所かしら?」
「ですね。とはいっても先輩みたいにゲージ量があったわけじゃないので確定とはいいがたいですけど……」
「まぁそこらへんは私達の仕事じゃないわ。デンスや他の区画の検証班に任せましょう」
私とマギがあまり溜まっていなかったゲージを使い確かめた結果。
『犯歴』の仕様というべきものがある程度わかった。
といってもスキルカスタマイズの範囲のみだけなのだが。
簡単にまとめると、
・レベルは最低Ⅰ最大Ⅴ、レベルを上げるごとにゲージの使用量は増えていく。
・全てを全て最大のレベルまで上げる事は出来ない。『攻撃性能』をあげるとその代わりに『防御性能』が下がっていく。Ⅰ以下にはならない。
・確定するまでは自由にレベルを変動させることが可能。
・関係のない項目は本当に関係がない。
こんな感じだろうか。
「まぁ何のスキルをどういう方向性に特化させるのかは各々の好きにしましょうか」
「そうですね……メアリーさんみたいにならないように……」
『(´・ω・)』
メアリーはこの数ヶ月の間に生産系の【犯罪者】である【加工者】から更に派生し、【鍛冶屋】へとランクアップしていた。
今まではアイテム作成全般にスキルの効果が乗っていたものの、今では金属に関係するものに更にブーストがかかるようになった、とのこと。
そんな彼女の保有するスキルの中に、【鉄は熱いうちに打て】というものがある。
先程も説明した金属系のアイテム制作に補正が掛かるパッシブスキル。
当然ながら、攻撃性能も防御性能もあったもんじゃない。
「そんな顔したって仕方ないじゃない。こっちの言う事聞かないで勝手に確定したのはメアリーでしょう?」
『はぁい(´・ω・)あ、ハロウ。ハンマー使ったなら後で出しておいて、調整するから('ω')』
「了解」
私はインベントリ内からまだ名前の付いていないハンマーを取り出し、メアリーに渡しながら自身のスキルカスタマイズの画面とにらめっこしていた。
どのスキルを上げるか悩んでいるわけではない。
……【印器乱舞】自体は今は無し。アレは今でも使えるから……となるとやっぱり【デュアルシギル】か【印章暴走】のどちらかか。
【デュアルシギル】は何度か使っている通り。印章の効果を2度連続で発動させるスキルだ。『攻撃性能』に振れば、その分【衝撃】の威力増加も見込めるだろう。
【印章暴走】の方はと言えば……言ってしまえば使った事はない。なぜかと言えば、このスキルを使うと印章、もしくは印器が壊れてしまうのだ。その分、スキルで指定した印章・印器の効果がブーストされるのだが。
「……よし、決めた。こっちにしましょう」
私は【印章暴走】のウィンドウを開き、『攻撃性能』と『コスト』をそれぞれⅢまで上げた。
何となくではあるものの【デュアルシギル】よりも【印章暴走】の方が良さそうな気がしたのだ。
酔鴉ではないものの、こういう時の勘は信じていきたい。
「ん、CNVLは何やってるの?」
「いや何。暇だったから肉片でも食べながらゲージの溜まり具合とかを確かめてたのさ。いやぁ面白いねこれ。肉片よりもゾンビ系の部位、それ以上にボス系の部位って感じにゲージ量が増えていくよ」
「あぁ……色々楽しんでるようで何より。……あ、そういえば称号ってもらった?」
「称号?あぁ、ログインした時に貰ったね。【人を喰らう者】って称号だったかな。効果付きだったぜ?」
どうやらCNVLも貰っていたらしい。周りを見ればマギも頷いている事から、他の面々も貰っていると考えて良さそうだ。
「ハロウさんはまだアプデ内容確認してない感じですか?」
「あー……そういえば。称号についても書いてあった?」
「えぇ。元々ランクアップ時に付与されるはずだった称号が不具合で付与されてなかったらしくて。それの修正らしいですよ。補填は……まぁゲーム内通貨と『犯歴』のゲージが少しみたいです」
「成程ね。しかし効果付きの称号ねぇ……」
ウィンドウを開き、称号を確認してみる。
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称号【偽善を振りかざす者】
効果:スキルによって付与された【隠蔽】効果の上昇
説明:【偽善者】にランクアップしたプレイヤーに与えられる。
君のその行動がどういう結果を生むか、よく考えるといい。
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称号【印を操る者】
効果:印章の作成速度、成功率+5%
説明:【印器師】にランクアップしたプレイヤーに与えられる。
君の操るその印は、何を指し示す物か。
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それぞれ効果は異なるものの、ランクアップしたことによって得られる称号で間違いないようだった。
しかも効果が中々良い。【偽善者】のものも手に入っているという事は、一度なってしまえばこの称号が貰えるということだろう。
一度前に悩み諦めた【印職人】の方になっておいてもいいかもしれない。
「あ、そういえば」
「ん?どうしたの?」
「第一階層の方で、見た事ないNPCを見たぜ?なーんか天使みたいな奴。羽生えてた」
「「天使?」」
私とマギが同時に反応する。
私は純粋な疑問から、マギの方は……なんだろうか。驚きも混じっていそうな表情を浮かべている。
「プレイヤーじゃなかったの?」
「あれは違うねぇ。というか私もハロウと同じ眼を持ってるんだぜ?」
「あー……確かに。何かのイベント、もしくはその前兆かしら?」
「イベントって言うと今なら前から告知されてたアレしかないですけど……」
導き出せる答えは、今私達の持っている情報的に1つしかなかった。
CNVLが見かけた天使。それは『区画順位戦』の前兆なのではないか、と。