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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 2 第4章 天使にレクイエムを
121/194

Episode 10


走り出した私を待っていたのは、炎の弾による迎撃だった。

それもよくよく見てみれば、炎の中に岩が入っているサラマンダーとノームの混合技とでもいうべきものだ。

流石にそれを防ぐのも、ましてや喰らうのも不味いと考え直撃ルートから少しだけ身体を逸らす。

熱の塊が横を通り過ぎていくのを感じながら、ハサミを前に構えつつ進んでいく。


そこまで遠い距離ではない。

恐らく実時間で換算すれば走れば3秒も掛からない距離だろう。しかし、体感している時間はそれ以上に長く感じていた。

一種の集中状態とでもいうべきだろうか、今の私は手に持ったこの【HL・スニッパー改(巨大なハサミ)】を相手に届かせるためだけに全身全霊を注いでいた。


「【洋墨生成】、【印器乱舞】」


インベントリ内から空中にデバフを捺印出来る印器を複数取り出し、その全てをパラケルススへと捺印するべくスキルで操った。

瞬間、彼の身体に複数の暗い光が灯り……目に見えて動きが悪くなった。

その瞬間を逃すような【犯罪者】はここには居ない。


足に再度力を込め、一気に距離を詰め下側から上に向けて胴体を挟むようにハサミを開く。

見れば丁度反対側……上から下へと向かって酔鴉が酒瓶を片手に何かをしようとしているが分からないため、そのままハサミを勢いよく閉じる。


ガキン、という音と共に硬い感触が私の手に伝わってくるが分かっていたことだ。

以前……改造する前の【HL・スニッパー】ならいざ知らず、今のこのハサミは鋏み切るためのもの。

岩そのものであるパラケルススの鎧を簡単に破壊できるとはハナから考えていない。

では何故それをしたのかといえば。


「酔鴉ッ!」

「言われなくても!【酒呑】、【ギアアップ・ツー】」


動きが遅くなったとはいえ、シルフィードなどの能力によって機動力をもっていそうなパラケルススを止めるため。

本命は私ではなく、酔鴉……火力のある近接アタッカーだ。


先程の繰り返しのように上から振り下ろされた拳は、咄嗟に防御しようとしたパラケルススの腕に触れ……爆発したかのような音を響かせながら彼の腕をそのままへし折った。

……ばっかじゃないの!?

まるでトンカチで腕を叩かれたかのような衝撃を両腕に味わいながら、私は歯を食いしばりながら耐える。

ちらと見えた自身のHPがじりじりと減っているのが分かり、そのバカげた破壊力に呆れを通り越し関心してしまう。

こんな火力があるならば、普段ツーマンセルでの攻略を行っているのも納得できるというものだ。


『嘗め、るなァ!』


しかしながら、パラケルススもただでやられてくれるような存在ではない。

折れた腕を使い、酔鴉の拳を無理やり押し返すように跳ね上げると同時。

彼を中心に熱風が吹き荒れ始めた。

何が起こるかは知らない。だが、近くにいれば危険だと察しハサミをインベントリへと仕舞って後ろへと跳ねるように距離をとる。

瞬間、彼の周囲から炎の竜巻が巻き上がった。


シルフィードとサラマンダーの能力を合わせたものだろう。

火の勢いを強めるために風を使う。個人にも複数相手にも効果的な攻撃だ。

しかし、それは相手がまともだったらという但し書きがつくのだが。


「【酒呑】、【ギブアップ・スリー】」


炎の竜巻が掻き消える。

否、竜巻の中心近くにいた少女の右拳にその炎が全て取り込まれていく。

目の前にボスがいるというのにこちらへと視線を向け、ニヤリと笑う始末。

……確かに「持ってない」とは言ってなかったわね……。


ウイスキー(・・・・・)の瓶を左手に持った彼女は、そのまま腰を捻り所々火の灯った拳を勢いよくパラケルススの胴体へと叩きつけた。

どれだけ強化していたのか、それとも取り込んだ炎の竜巻の威力も乗っているのか。

岩の鎧に彼女の拳が触れた瞬間、爆炎と共に風が吹き荒れパラケルススの鎧全体に罅が入っていく。

そして、鎧がパキッという軽い音と共に崩れると共に、彼の身体も光の粒子となって消えていった。


-【精霊学者 パラケルスス】を討伐しました-

-MVPが選出されました:プレイヤー名 酔鴉-

-撃破報酬、およびMVP報酬が配布されます-

--System Message 『称号【神秘を開放した者】を獲得しました』

--System Message 『称号【本当の神秘を知った者】を獲得しました』


「お疲れ様。意外と時間掛からなかったわね」

「お疲れ。そりゃあそうでしょうよ、これでも第二階層で最前走ってるプレイヤーよ?」

「まぁね。……というか、持ってはいたのね。火酒」


こちらへと笑いながら歩いてくる酔鴉に労いの言葉を掛けつつも、視線は手に持ったウイスキーの瓶へと向ける。

あれさえ最初から出していればもっと楽に……具体的には一番最初のサラマンダーで私だけが戦わなくても良かったのではないか?と思ってしまう。


「まぁ持ってないとは言ってないし、それに入手機会も本当に少ないから貴重なのよ。私が持ってるのもこの1本だけだったから、一番最初で使うわけにはいかなかったし」

「はいはい、分かったわ。あとで掲示板経由でそういう流れを作ってみてくれって頼んでみるから。……こっちからの譲歩はこれくらいまでしかできないわよ?あとはそっちで頑張って頂戴」

「分かってるって。よし、じゃあ行きましょうか……確か公式の予定だと今日の夜にアプデが入るんだっけ?」

「そうそう。だから少し全体的に騒がしくなるでしょうね」


そんなことを話しながら、私と酔鴉は簡易ポータルの方へと歩いていく。

その後地上へと戻った私達は一度ログアウトし、それぞれの用事、装備の更新などを行うことにした。

酔鴉との共闘はこれから……協力型のイベントならば増えていくことだろう。

その最初の一歩が、ここに終了した。



『――ゲーム内の皆様にお知らせいたします。今夜20時から21時にかけてゲームアップデートを行います。大型アップデートとなりますので、その間のログイン、ゲームプレイは出来ませんのでご了承ください。また、以前より不具合として報告されていた『ランクアップ時に称号が受け取れない』状態も、このアップデートで修正いたします――』



―――――――――――

PLName:ハロウ Level:21

【犯罪者】:【印器師A】

所属区画:第二区画 デンス


・所持スキル

【洋墨生成】、【デュアルシギル】、【印章暴走】、【印器乱舞】、【強欲性質】


・装備品

【HL・スニッパー改】、名無しの槌、【Model:Flame】、【BW・ブラック】、【HL:ミリタリー】、【ヒューマニックHP】、【人革の手帳】、【人革の腕輪】【革造りの網】


・称号

【第二区画所属】、【娯楽を解放した者】、【本当の娯楽を知った者】、【廃都の決闘者】、【決闘場の真実を知る者】、【神秘を開放した者】、【本当の神秘を知った者】

―――――――――――


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