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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 2 第4章 天使にレクイエムを
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Episode 5


はっきり言って、4階層はそこまで脅威ではなかった。

というのも、出てくる敵モブが事前にある程度分かっているのが大きいだろう。

3階層で戦った四大精霊。

サラマンダー、シルフィード、ウィンディーネ、ノーム。

それらが3階層とは違い、自我無い状態で襲い掛かってくるのだ。


一度倒した相手、尚且つ今は隣に酔鴉という実力者もいる。

そんな状態で苦戦するはずもなく、探索を始めて数十分ほどで5階層への階段を見つけることが出来てしまった。


「一回休憩にしましょうか。そっちも何を使ってるのかは知らないけど、コストとかの調整あるでしょう?」

「そうね、丁度いいわ……一応聞くけれど、ハロウの【犯罪者】ってどういうものなのか教えてもらう事って出来るのかしら」

「出来るかできないかで言えば出来るけれど、条件付きね」


突然、そんな事を言い始めた酔鴉に少し驚きながらも、私はそう答えた。

このゲームはPKありのゲームだ。そのため、友人やいつもパーティを組むメンツ以外には無闇にステータスや装備、【犯罪者】の詳細などを伝える事は推奨されていなかった。

【犯罪者】の中には、そういった情報を抜くような者もいるのだろうが……まぁ、教えられてもいないのに探ろうとするのはマナー違反であることには間違いない。


「そっちの【犯罪者】についても教えて。それを教えてくれるならこっちも話しましょう」

「ん、そんなことでいいの?」

「そんなことって……一応貴女の強さが分かるかもしれないのだけれど」

「まぁ、私はあんまりPvPとかには興味ないから。今もオリエンスのプレイヤーにはある程度公開はしてるし」


そう言いながら、彼女はこちらへ見える形でウィンドウを表示させた。

そこに書いてあったのは、


「【酔拳士】……しかも特殊系ね?」

「一応【リッパー】から派生したんだけどね。オリエンスにあるお酒を飲みながら戦ってたら出てきてねぇ」

「拳士って事は素手でしょう?素手であんなのと戦ってたわけ?武器特化の【リッパー】で?」

「ほら、任意変更不可許諾申請ってあったでしょう。あれにサインしちゃって変更しようにもできなかったのよ」


任意変更不可許諾申請。

確か、一番最初のキャラクリエイトの時点でシステム側が決定した【犯罪者】を変更できなくなるというものだったはずだ。

こうして私やサインしたと言っている酔鴉が他の【犯罪者】になっている以上、あれの効果は最初の……それこそ初期のものに限ったものだったのだろうが。


「成程ね……流石にスキルはいいわ。そこまで教えてもらったら、また貴女と戦う事になった時に楽しめないもの」

「二回ほど()ってるから、ある程度はバレてるとは思うけどね。で、そっちは?」

「私はこれよ。そこまで面白みもないわ」


そう言いながら、私は【印器師】の情報を開示する。

といっても、ある程度……スキルなどは公開せずにどういった動きをする【犯罪者】なのかを表示した。


「【印器師】……あぁ、こっちの掲示板にも情報が出てるわね。スキルまでは出てないからアレだけど……印章作りなんてやってるの?」

「初めは暇潰しで始めたのよ。今では結構面白くて趣味になってるけど」

「へぇ……じゃあさっきから振り回してたハンマーが印器?」

「そういうこと。まぁまぁ使えるわよ?」


ハンマーを取り出し、軽く振り回してみる。

このハンマーに彫ってあるのは【衝撃】のみではあるものの、技術が向上したらもっと上位の印を彫ってみたいとも思っているものだ。

戦力が向上するか、サポート性能の方が向上するのか不明ではあるものの……それでもこうやって自分の手で武器をカスタマイズできるというのは楽しい。


「こっちは基本的に素手だからそういうのは無いけれど……良いわね、面白そうじゃない」

「実際面白いわ。そっちも酔拳なんて名前なんだから、お酒の種類によって効果変わるスキルくらいはあるでしょう?多分このゲームならお酒くらい造れるとは思うわよ?」

「あー……一応否定も肯定もしないけど、良いわねそれ。後で考えておくことにするわ」


お酒を造る。

普通のゲームならば造酒に関しては生産系のスキルやコンテンツにはなるのだろうが……【犯罪者】ばかりのこのゲーム。

密造酒という扱いにはなりそうだなと思い、少しだけ笑ってしまう。


「うん、そろそろこっちのコストは回復出来たわ。そっちは?」

「こっちも。まだお酒の量は十分あるから問題なし」

「オーケー。じゃあ行きましょう」


そう言って、私と酔鴉は5階層へと続く階段を降りていく。

階段を降りている時の、視界が闇に包まれる感覚はまだ慣れない。

システム的に保護されているのだろうが、もし足を踏み間違えたらと思うと違う意味での恐怖が襲ってくるのだ。

知らず知らずのうちに慎重になる足運びに気が付きながら、しっかりと階段を1つ1つ踏みしめながら降りていくと。


--第三区画 第一階層ダンジョン【喪揺る地下都市】 Hard 5F


視界の隅にそんなテキストがポップした瞬間。

暗闇が一気に払われ、そこにはどこかの実験施設のような部屋が広がっていた。

正方形によって形作られたその部屋は広く、私が普段組んでいるパーティメンバー達と共に戦ったとしても問題ないくらいの大きさだ。

そんな部屋の中心には1人の白衣の男性が立っていた。

白髪交じりの髪を弄りつつ、こちらへと視線を向けニヤリと笑う彼に、言いようのない恐怖を感じる。


『よく来てくれたお客人。そろそろ実験がしたくてね……あんまり前口上が長くなってもいけないだろう。さてでは、実験の始まりだ』


-【精霊学者 パラケルスス】-


短く告げられた言葉と共に、彼の頭の上に名前が表示された。

ボス戦の開始だ。


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