表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 2 第4章 天使にレクイエムを
113/194

Episode 2


「ここがそうなの?」

「あぁ」

「……本当に?」

「……申し訳ないが、本当にそうだ」


私が酔鴉に連れられ辿り着いたのは、ただ階段へと繋がる一本道の通路があるだけの路地だった。

掲示板を見る限り、本当にここがダンジョンの入り口であることには間違いなさそうなのだが……実際自分の目で見たとしても信じられない。

……これは確かに発見が遅れたのは頷けるわね。

そんな私の様子を見て察したのか、苦笑いしながらも私をダンジョンの中へと導いてくれた。


--第三区画 第一階層ダンジョン【喪揺る地下都市】 Hard 1F


階段を降りていくと、そこは第二階層に近い……いや、それよりも荒廃の進んだ石造りの街が広がっていた。

灯りは多くなく、所々街灯のようなものが存在しているのみ。

その街灯も街灯で、寿命が近いのか時々その光が消えている場合もある、


「あぁ、成程。こりゃ貴女が迷うわけね」

「でしょう?やっぱり似てるわよね、第二階層と」


事前に聞いた話によれば、この【喪揺る地下都市】は他のダンジョンとは違い、迷路のような構造となっているらしい。

街のような様相をしているのに関わらず、だ。


「で、ここに沢山の妖精系のモブが出るんだっけ?」

「そうそう。例えば……よいしょっと」

『ギィ?!』


酔鴉がおもむろにインベントリから取り出した石を街灯に投げつける。

すると、何やら湿った音と共に、街灯がしなり(・・・)悲鳴をあげた。

そしてその直後、すぐに光の粒子へと変わっていく。


「あれは妖精系……と言っていいのかわからないけど。街灯に扮してる『トーチー』ってモブね。気付かずに近づけば叫び声をあげつつ襲い掛かってくるタイプ」

「HPが少ない奇襲特化……いや、周囲からモブを引っ張ってくるトレインタイプでもあるのね?」

「そういうこと。見分け方は基本的に光が灯ってないものが全てトーチーね。アレ以外は基本的には灯ってるか、チカチカ点滅してるから」


成程、と一つ頷きながら【HL・スニッパー改】を双剣状態で取り出した。

次いで、【印器師】のスキル【印器乱舞】によって、私と酔鴉に対しバフを付与した。

今回の目的は私と酔鴉が多少なりとも連携できるようになること。

つまりは、


「丁度いいし、ここで大量に戦闘しましょうか」

「あ、やっぱり?オリエンスでの定番ではあるけれど」

「そりゃあモブを呼んでくれるモブがいるなら使わない手はないでしょう?一回で集まってくる最低数は分かってる?」

「大体5~6程度。ちなみに最大は20ほど」

「良いわね、それだけいれば十分だわ」


近くのトーチーらしき、光の灯っていない街灯へと双剣を構えつつ近づいていく。

すると、だ。

酔鴉の言葉通り私が近づいたのに反応し、細い街灯から更に細い腕と足が生え、他でいうランプの部分に大きな1つの目と口が出現した。


『ギッギッギッ……ギャアアアアアアアアアアアアア!!』

「うっるさ」


周囲で何かが動き出す音が聞こえ始める。

それと同時、私はトーチーの大きな目に【HL・スニッパー改】の片方を突き入れ抉るように捻じ込んでいく。

ガチッという何かの音と共に、短くトーチーが悲鳴を上げたかと思えば、そのまま光となって消えていった。


「さて、来るわね」

「精々死なないように気を付けてよね?『決闘狂い』」

「あら、それはこっちの台詞よ?『泥酔姫』」


大量の敵モブが私達へと押し寄せてくる。



「はいこれで10体目ッ!」


我武者羅に横へと振るった一撃が、私の近くまで来ていた赤い帽子を被った小さな人型のモブ……レッドキャップの首を捉えた。

この武器を作ったCNVLの腕がいいのか、それとも所詮第一階層のダンジョンだから敵が脆いのか。

レッドキャップの身体は私の一撃に耐えられず、そのまま頭が飛んでいき、空中で光へと変わる。


「はい、次!」

「了ッ解!……ていうか、これどう考えてもポジション逆でしょう!?」

「こっちは素手だから敵を投げられるから!これが適切な役回りッ!」


そう言いながら、こちらへと投げられた土の塊のような人型のモブ……ノームを切り飛ばす。

現在、私と酔鴉は2つの役割に分かれて行動している。

といっても役割という役割もないのだが。


単純に、素手で私よりも小回りが利く酔鴉が敵を確保しそのまま私に向かって放り投げ。

私は周囲の向かってくる敵を牽制しつつ、飛んできた敵にトドメを刺していく……そんな、言ってしまえば連携もクソもない単純作業を行っているのだ。


だがその単純作業も続ければ続けるほどに、私の双剣を扱う技術は研ぎ澄まされていく。

酔鴉によって投げられるモブ達を一撃で切り捨てるため、それらから攻撃を喰らわないための動きが最適化されていく。


「っていうか、これ元々は動きの合わせの話だったでしょう!?」

「あぁそうだったわねぇ!じゃあとりあえずこれで最後いくわ!」


そうやって投げられたレッドキャップの首に滑らせるように刃を当て、光へと変える。

それと同時、酔鴉が未だ叫んでいたトーチーを二つ折りにし同じように光へと変え、パワーレベリングのような戦闘に終わりを告げた。


ログを見るとかなりの量のモブドロップがインベントリ内に収められている事が分かるものの……これらは私では使うかどうか分からない代物だ。

あとでCNVLとメアリーに投げておくのもありだろう。


「それで?私の実力の方はお眼鏡に叶ったかしら?」

「……気付いてた?」

「そりゃあ。大方、前の決闘からどれくらい成長したのかの確認も兼ねて、って所でしょう。私が自分である程度出来るようになったといっても、実際に見て見ないとわからないから」


そう、結局の所……私は酔鴉の中では実力者であっても技術的には下も下なのだ。

それが以前見た時よりどれほど成長しているのか……酔鴉にとって、連携するに値する技量なのかを今の作業のような戦闘で確かめられた。

それに使っていたモブ達も人型ばかり。首などの急所さえきちんと狙えば格下ならば一撃で倒せるものしかいない。

試すには持ってこいだろう。


「はぁー。まぁバレてたなら白状するわ。確かに試してた部分はあるし、瞬間的な判断力を見るためにノームとかもたまに混ぜてたし」

「流石に土の塊は一撃じゃ厳しいわよ。そこまでの技量は流石にないわ」

「当然。というか土の塊を一撃で斬れるようになってたら、私が土下座するレベル。……結果から言えば、私としては組んでも大丈夫だとは思うわよ。どっちの足も引っ張らないとは思う」


そう、この実力の見極めという行為は何も酔鴉の傲慢さから行われたものではないのだ。

互いに互いの足を引っ張らないように、その最低限の判断や動きが出来るかという……ある種、誰もがやっている事。

私と酔鴉はそれぞれの区画でしか基本的に行動しないため、それを確かめる術が今まで存在していなかっただけ。だからこそ、今回で確かめていたのだ。


私はそれが分かっていたからこそ、何も言わず……というよりは【喪揺る地下都市】(ここ)の素材も欲しかったために、そこまで気にしていなかった。

後で酔鴉に【劇場作家の洋館】の素材も渡す予定ではあるため、素材確保的な面でもそこまでの差はない。


「よし、じゃあ後は適当に場面場面でのリアクションを決めて、適当にボス倒して終わりにしましょうか」

「……【犯罪者】とかの情報交換は?」

「した方が良いならしてもいいけれど……酔鴉側は良いの?まだ貴女以外就いてない【犯罪者】でしょう?それ」

「良いか悪いかで言えば……まぁ、そこまで内部は話す気はないから良いわ。何が出来て、前に決闘で使ったスキルの補足とかをするだけよ」


成程、と一つ頷き周囲の警戒をしつつ、その場で座り込む。

長めの話になりそうだからだ。

丁度いいということで、このまま一度休憩を入れてからそのままボスに向かうことにした。

少しばかり酔鴉がボスの話をしたくなさそうな顔をしていたのが気になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ