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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 1 第3章 オンリー・ユー 君だけを
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Another Story 【ある正月の過ごし方】


--浮遊監獄都市 カテナ 第四区画 ディエス 第一階層

■【食人鬼】CNVL


私の正月は、普通の人のようにゆったりとしたものではない。

というのも、私が私であるがために過激なものになっているだけでもあるのだが。


「あは、もう1人。残念だったねぇ」


私の目の前で足から血を噴き出してプレイヤーが倒れていく。

小さく悲鳴が聞こえたものの。私は気にせずにそのプレイヤーのHPが残っているうちにその喉元へと噛みつき、引きちぎった。


口の中に鉄の味が広がると共に、そこに何処か酸っぱさと苦みが混ざっているのを感じる。

慣れた味。身体が反射的に吐き出しそうになるものの、それを意思によって捻じ伏せ飲み込んでいく。

あぁ、これこそが私の正月行事だ。


こちらへと向かってくる相手を喰らい、そして新年まで生きながらえてしまった事を憐れみ妬み、そして祝う。そんな行事だ。

普段と違いこちらでやっている、という違いはあるものの……むしろこちらの方が制限されない分自由であるため、そこまで気にしていない。


口の端から垂れた血が、喉を噛み千切られたプレイヤーが死に戻りすると共に光となって天へと昇っていく。

死に戻りしていったのだろう。私の身体が淡く赤めに発光した。

キルペナルティだ。


「これで2人目。……うーん、もう少しかな」


自分の腹を擦り、少しだけ満たされていくと感じる架空の満腹感を確かめる。

人1人を丸々食えればまた違うのだが、とも考えるものの。

ゲーム内でそれをするのは難しいというのは前から分かっている。

はぁ、と少し嘆息し強化されている自身の聴覚がこちらへと近づく誰かの足音を捉えニヤリと笑う。


「よし、掛かったねぇ。犯罪者だらけの中で偽善を働く馬鹿者が」


小さく呟き、私はその方向へと音もなく走り出した。



■【薬剤師】マギ


血の匂いが濃くなる方へと歩いていく。

恐らくこの先に僕の探し人がいると信じて。

……というか、マップを見ればこの先にいることくらいは分かってるんだけど。


「あぁ、先輩。やっと見つけた。帰りますよ」

「……あぁ、やっぱりマギくんだったか……。うん、そうだね。丁度食べ終わったところさ」

「でしょうね。というかマップにめっちゃ強調表示されてますよ。どれだけ食べたんです?」

「えっとそうだな……あは、5人からは数えてないや」


朗らかに笑いながらこちらへと歩いてくる先輩に、一瞬警戒をするものの。

流石に彼女自身が食べ終わった(・・・・・・)と言っているのに、警戒するのも野暮かと思いスキルを使う。

【薬剤師】の【散布】によって僕と彼女に対してのみ効果が出るように薬を使う。


「おや、成功したのかい?」

「えぇ、デンス所属者のみに効果のあるポーションです。……まぁ、僕が作れたくらいですから、他の区画の専門の【犯罪者】なら既に作ってると思いますけど」

「まぁそれはそれさ。良いね。じゃあすぐに移動しちゃおうぜ。……また2人ほど集まってきてる」

「了解です。じゃあこういうのも置いておきましょう。【薬人形】設置。」


僕の手から紫色の液体の入った試験管が地面に落ちる。

そしてそれが地面に着き、ひび割れた瞬間。

試験管の中に入っていた紫色の液体が膨張し、その形を人型へと変えていく。


【薬人形】。

その名の通り、薬を使って人形を作るというスキルだ。

簡単な命令程度しか受け付けないものの、僕の場合液体の薬ばかり作っているため、物理攻撃主体の相手に対してはかなりの有利をとれるようになった。


「おぉ、面白そうだねぇこれ」

「でしょう?元々は先輩捕縛用のスキルですよ。……『我を追跡するものを捕らえよ』、と。これでいいかな」


僕がスキルを意識しながら発声すると、【薬人形】はゆっくりと頷いた後にその身体をスライド移動させながら近づいてきている足音の方へと向かっていった。

命令がしっかりと効いているらしい。


「ちなみにさっきの試験管の中身は?」

「あぁ、お遊びで作った秒間50分の1のHPを減らしていくだけの毒薬ですよ。絶対1は残すので、アレだけで死ぬことはないです」

「成程ねぇ。面白いものを作ってるじゃないか。……あぁ、そうそう」


ディエスから逃げ、デンスへと向かっている途中。

突然先輩が立ち止まった。

何かと思い、そちらの方を見ればいい笑顔で、


「あけましておめでとう」


そう言った。

迎えにきた人間にいうのがそれなのか、とか。

色々と他にいう言葉があるだろう、とか。

本当に色々な文句が頭の中に浮かんでは消え、最終的に。


「こちらこそ、おめでとうございます。先輩」


その一言を絞り出すのが精一杯だった。




■???


『なぁ、グリンゴッツ』

『……なんだ?』

『今からイベント起こしちゃだめなのか?出来ればこの小僧の立ってるところを中心にしたいんだが?』

『馬鹿、やめろ。ご主人に怒られるのは私なんだ。というか君はそういうのを止めろと前から言っているだろう。【暴食】の時にも色々言われたはずだぞ?』

『だからといって許せるものと許せないものは……』

「おや、グリンゴッツに【教授】。私が言っておいたタスクは終わっているのかなー?」

『『げっ』』




今日も、どうしようもない現実は平和で。

犯罪者に満ちた世界は殺伐としていながらも、確かに約束された自由がそこには存在した。


犯罪祭典の読者様に向けてなんですが。

4章。気が向いたので書き始めてます。

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