Episode 10
■鷲谷 香蓮
シェイクスピアを倒した後。
やはりと言うべきか、掲示板はお祭り状態。
【劇場作家の洋館】の前に居たプレイヤーたちなんかは、私達が地上に戻った後、ボスの攻略法なんかを聞いてきたりだとか、固定パーティに誘ってきたりだとか。大変身動きがとり辛くなってしまった。
……せめてCNVLが称号設定してなければ……。
全体に通知されたメッセージには、どのプレイヤーが攻略したかという内容は含まれていなかった。
ではバレた原因は何だったかといえば、答えは単純で。
CNVLが称号を【娯楽を解放した者】に設定していたためだ。
娯楽に関係する施設が建造されるようになる、というメッセージが流れた後に、それに関する称号を設定したプレイヤーがその場に現れれば余程頭が足りていない者以外は気付くだろう。
『いやはや、申し訳ない』
「いえ、良いのよ。あの後メアリーが掲示板にボス戦であったことやらギミックなんかを書き込んでくれたから、ある程度収まってきたし」
そんなこんなで、その翌日。
良い意味でも悪い意味でも話題の中心となってしまった私達だったが、ログアウトする前に交換した連絡先を使って現在はリアル世界で通話中だ。
メアリーはチャットで、マギはバイトのようなものがあると言って不参加だが。
「どっちみち遅かれ早かれバレたでしょうし……それより今はイベントの話をしましょうか」
『あー、なんだっけ?【第一回区画順位戦】だっけ』
「そうそう。それぞれの区画に分かれて競い合う、全プレイヤー対象の公式イベントね。2人とも結局デンスに所属するんでしょう?」
そう、サービス開始後初のイベントが開催されるのだ。
順位が高ければ高いほどに報酬が美味しい……らしいこのイベント。今回は何やらそれぞれの区画内にモンスターが出現し、それらを討伐した数で競い合うらしい。
勿論それぞれの区画の中にはモンスターが湧かないエリアも設定されるらしく、公式サイトには例としてダンジョンの近くや武器やアイテムを買う事の出来る商店の近くがそれにあたると発表されていた。
『私はそのつもり。メアリーちゃんは?』
『勿論('ω')!それに同じ区画の方が何かと便利そう(=゜ω゜)』
「確かにね。このデメリットも考えると流石に固まってた方がいいわよねぇ……」
一応、イベントの報酬の詳細は出ていないものの、大まかな順位報酬というのは公開されている。
1位の区画に所属しているプレイヤーには、特典アイテムに加え期間限定の経験値量、レアドロップ率の上昇バフ。
2位には、特典アイテムを除き、上記のバフのみが。
3位は特に何事も起こらず。
そして問題は最下位である4位。
一応救済措置なのか、次回区間順位戦にて有利になるバフが掛けられるらしいが、
「『他区画への移動にゲーム内通貨、もしくは素材などのアイテムが要求される場合が発生する、及び他区画に存在する施設利用に制限』……やりすぎじゃない?」
そう、デメリットが存在するのだ。
恐らくはプレイヤーたちのケツを叩き、より競争を激しいものとするためのもの。
正直、ちょっと面倒なだけで通貨やアイテム要求は良い。……いや良くないが。
だが、他区画の施設利用の制限というのはどういうことなのだろうか。
『んんー、私は良く分からないんだけど、こういったデメリットはあまり見ないのかい?』
「あまり見ないというか、私はこのゲームで初めて見たわね。メアリーは?」
『私も見た事ないかな(;^ω^)戦争系のイベントが起きるゲームなら、所属してた国がなくなっちゃって似たような事になってる人は見た事あるけど……(´・ω・)』
「……戦争と同等レベルってことかしらねぇ」
まぁ確かに考えてみれば、舞台であるカテナは浮遊都市。
そこに人が大勢住んでいるわけで。そんな所で争いが起きたら戦争のようなものになってしまうのかもしれない。
正直な話、もっと平和に争って、平和に解決してほしいものだが。
『まぁ、イベントが近づいてきたらまた新しい情報が入るだろうし、今は別の事を考えようじゃあないか』
『別の事?((-ω-)?)』
『いやぁね。実はランクアップってのが出来るらしくて。それをやった方がいいのか聞きたくてね』
「……は?」
ランクアップ。
現在の【犯罪者】をより上位のものへするための仕様の事だ。
当然、下位となる基本5種の【犯罪者】よりも効果の高いスキルを修得するだろうし、そもそもこのサービスが始まって間もない段階でランクアップできれば、他のプレイヤーよりも有利にゲームを進めることが出来るだろう。
「いやいやいや、早すぎない?CNVL、貴女今レベルは?」
『7。いやメッセージ見る限り、なんか特殊条件達成とか書かれてるんだよね』
そう言いながら彼女が送ってきたゲーム内スクショには、確かに特殊条件達成というメッセージが書かれている。
だが問題はそこではなく、その達成した条件の詳細だろう。
「いや、なにこの『腐った肉片を一定量そのまま口にする』って条件」
『あは。驚きだよねぇ、まさか趣味で食べてたアレがそのまま条件になってるとか』
『えぇぇ……(;'∀')』
「……で、何を迷ってるのよ。別にやってもいいんじゃない?」
『マギくんに聞いたらね、『もしかしたら色々損になるかもしれないから、ハロウさん辺りにでも聞きながら考えてください』って言われてしまってねぇ』
……考えるの面倒でこっちに投げたのね、あの子。
あの人の良さそうな顔が頭に浮かび、少しジト目になってしまう。
だがまぁとりあえず、言いたい事は分かる。
彼の言う『損になるかもしれない』事柄というのは、ゲームをやっていればある程度は思い当たるものだ。
「んーっとそうね。例えば今やってる【犯罪者】……CNVLで言うなら【ゲイン】ね。それでとれるはずだった性能が良いスキルなんかを取れなかったりする可能性があるのが1つ思い当たるかしら」
『なる……ほど?』
「簡単にいうと、それこそ必殺技とかを修得できなかったりするかもってことよ」
『成程ね、他には?』
「そうね……レベルを上げてからジョブチェンジしたほうが比較するとステータスが高くなったりしたりとか。まぁFiCにそんな目に見えるステータスとかないけれど」
私が言うように、Festival in Crimeには明確なステータスというのは存在しない。
HPは緑のゲージのみで数値自体は特に見ることはできないし、スキルの使用の度に何かを失っていくような感覚があるものの、MPのようなものも見当たらないため実際に何が消費されているのかもわかっていない。
……今後のアップデート次第かしらね。そこの所は。
『んー、そうなのか……どうしようかな』
「まぁやっても良いと思うわよ?実際どうなるかなんてやってみないことには分からないし、正直始まって数日しか経ってない現状でステータス云々とか言ってても、まだ検証段階でしょうしね」
……それに、ガチでやってるならともかくとして、彼女はエンジョイ勢でしょうし。
そこまで数値という数値を気にする方でもないだろう。
『メアリーちゃんはどう思う?』
『私もやっていいと思うよ('ω')まだ現段階で分かってることも少ないし、なるだけなっても良いと思う('Д')』
『そっかぁ……。よし、じゃあやっておくことにしよう。ありがとうね』
「考える参考になったなら何よりだわ」
ちなみに、ランクアップ先の名称がスクショに映ってなかったため聞いてみた所、【食人鬼】だったらしい。
本人曰く、『いやぁ、偶然だけど私らしい【犯罪者】が来ちゃったね』とのこと。
何がらしいのかは、やはり分からなかったが。