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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 1 第3章 オンリー・ユー 君だけを
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Episode 38


--第二区画 第二階層ダンジョン 【決闘者の墓場】 5F

■【印器師A】ハロウ


剣と硬い何かがぶつかる音が連続して響く。

片方は踊るように、もう片方はまるでボクサーのように剣と拳を重ね続ける。

片方……ボクサーのような方……ファウストは流石に無傷とはいかないのか、プロテクターのように手から肘にかけて装着されている白い骨の塊がボロボロと崩れていっているのが目に見えた。


対して、踊るように舞うように剣を扱う方……私は全くの無傷であった。


「な、何故ッ!何故貴様に攻撃が当たらないッ!!」

「あら。悪魔に授かったその無限の知識で考えてみなさいよ」

「……ッ!!貴様ァ!!」


問いに対する答えは意外と簡単なものだ。

知識だけではどうしようもない部分……経験の差。

確かにファウストは強い。ボスなのだから当然、最低限プレイヤーを圧倒出来るくらいのステータスは有している。


今も強化されているはずの私に見えないほどの速度で拳を振るってきているが……体を軽く倒すことで避ける。

最低限の動きだけで避け続け、距離を開けないように……逆に離されないように保ち続ける。


……単調、なのよねぇ。

いくら知識としてあったとしても、やったことがなければ自然と動きは限られていく。

彼の動きはまさにそれだ。


まるでプロボクサーのように立ち、拳を振るおうにも視線によって何処を狙うかが分かってしまう。

フェイントのようなものを仕掛けてくる気配もなく、それこそ私が仕掛けた簡単なフェイントに逆に引っかかる始末。


『準備完了、撃てるよ(°▽°)』

『了解、脚でいいから縫い止めてくれる?私ごとやっていいわ』

『いいの?回復は……そっか、出来るもんね( ・∇・)』

『そういう事。じゃ、任せたわ』


パーティチャットによってメアリーからバリスタのような巨大な弓の組み立てが終わったことが知らされる。

元々は相手(ファウスト)のことを警戒して、大ダメージを与えられるように作ってもらったものだったが……正直必要なかったかもしれない。


メアリーの仕事を無くすのもアレなため、とりあえずで指示を出しながら目の前の相手に集中する。


「【決闘者】、なんて付いてたから期待してたけどやっぱり向こうのグレートヒェンの方がそれだったのね」

「あ、のッ……失敗作をッ!彼女の名で呼ぶな【犯罪者】ッ!!」

「貴方にとって失敗作でも、本物を知らない私達にとっては彼女は本物以外の何者でも無いわ。むしろ私的には貴方の方が偽物じゃないかって思い始めているのだけどッ?!」

「ッ!?」


ファウストと言葉を交わそうと、適当に攻撃を加えながら話していると、右足に今までにないほどの衝撃が伝わるとともにHPが大幅に削れていく。

見れば、太い杭の様な木製の矢がファウストの左足を地面に縫い付けるように突き刺さっていた。


そんなものを食らった私の足はといえば、簡単に言えば皮一枚でギリギリ繋がっている様な状態であった。

バランスを崩しかけ、効果の切れかかっていた再生の印を足に捺印する事でHPの回復と共に足の再生も図っていく。


『ごめん!!もうちょっとダメージ減らそうと頑張ったんだけど……(´・ω・`)』

『大丈夫よ、動けないことはないもの』


短く答え、目の前の相手の状態をきちんと確認する。

と言っても、先ほどまでとそこまで変わらない。

変わった所といえば、左足に矢が撃ち込まれた為か苦悶の表情を浮かべながら脂汗を流しているくらいか。


ここまでやって、ファウストのHPは未だ2割も削れていない。

表情や反応自体は演技には見えないために、やはりボス並みのステータス自体は持っているのだろう。

それを活かしきれているかは兎も角として。


そんな彼は先ほどから私よりも後ろ……グレートヒェンとCNVL達が戦っている方へと視線を向けている。

あちらで起こっている戦闘は……まぁ、こちらに比べれば激しいものだろう。

言ってしまえば化け物同士の戦いだ。

人間範疇である私では入る余地がなく、それはファウストにも言えることだった。


切れかけていた印の効果を【印器乱舞】によって捺印し直しつつ、再度攻撃を仕掛け始める。

再生の間に合っていない右足を庇いつつ、先程より体重の掛かっていない剣を振るい。

その場に固定されている相手を更に追い詰めていく。


本音で言えばすぐにこんな弱いものイジメのような一方的な戦いは終わりにしてしまいたい。

しかしながら、それが出来ないのは一重にファウストの頑張りがあるためだった。


「硬いわね、本当」

「……ははッ!!やはりこの【外骨装甲】を抜くような攻撃はできないということかッ!!」

「五月蝿い」

「ぐッ……!」


【外骨装甲】。

ファウスト曰く、スケルトン10体ほどの骨を固めて作られたソレはかなりの強度を誇っており、【強欲性質】や自己強化スキルによって徐々に強化されていく私でも、少しずつ傷を付け削っていく程度しかできなかった。

唯一の救いとしては、【外骨装甲】に傷を付ければ付けるほどHPを削れていくのが救いだろうか。


本当ならば、硬い相手に対しては鈍器としても使えるハサミの形状の方がいいのだろうが……小回りが利かないため、ファウストに懐に入られる可能性があるからこそ論外だ。

ステータスがボス基準、ということは背後で暴れているグレートヒェンや今まで戦ったシェイクスピアのような怪力を持っている可能性もある。

そんな相手がプロボクサーのような動きをしている時点で、本来ならば接近戦は厳しいものだったのだろう。

言わば、強力な一撃を毎度毎度繰り出してくるプレイヤーと戦っているようなものなのだから。


私が戦えているのも、これだけ余裕なのも、ひとえに私が決闘コンテンツにどっぷりと浸かっていて対人戦闘に慣れているというだけなのだから。

脚が片方動かせない程度ならば、まだまだ動くことくらいは可能……というか。痛みがないのならばただ動きにくいだけだ。問題がない。


『もう1回撃てるよ!(゜д゜)!』

『大き目な隙が出来た瞬間に頼めるかしら。次は腕のアレ狙いで』

『了解、次は爆破するから気を付けて(;^ω^)』


メアリーから注意喚起を受けながら、彼女が再度矢を撃てる環境を整えるべく私は攻撃を加えようと動き出す。

今も我武者羅にファウストから振るわれる拳を避けながらにはなるものの、左足が動かせないのが枷になってくれているのか、ファウストに先ほどまでのスピードはない。

目に見える程度の速度まで落ちた拳を顔を横に振ることで避けつつ、それに合わせて跳ね上げるように手に持った双剣を上に切り払った。


「ぐッ……!」


瞬間、ファウストの身体が大きく開く。

私はそのまま彼の胴体に蹴りを入れ、横に飛びながら後方に控える彼女の名前を呼んだ。


「メアリー!」


私の声に応えるように、矢がファウストへ向けて飛んできた。

今回飛んできた矢は木製ではなく、金属製のもの。

その表面には紙のようなものが何枚か張り付けられており、何かしらの仕掛けがあることが見ただけでも分かった。


標的であるファウストはといえば、蹴りの衝撃によって怯んでいて。

それに加え、今だ突き刺さっている左足の矢によって身動きも取れないようで、飛んできている矢の存在自体に気が付いているかどうかも分からなかった。


そしてその矢は着弾する。

位置はメアリーに話した腕の装甲、ではなく。私が蹴りを入れた胴体。

普通の人間ならば心臓がある位置に金属製の杭のような矢が突き刺さり、強い白い光を発した後に大きく爆発した。

それに連鎖するように、小さい爆発も何度か発生する。

恐らく矢に張り付けられていた紙が爆発したのだろう。

……アレ良いわね。衝撃か、接触のどっちによって爆発かはわからないけど使えると便利そうね。


そんなことを考えつつ、双剣を改めて構える。

大きな爆発、それに連鎖する小爆発は起きたものの、それによってボスが倒せるとは思っていない。

いくらダメージが大きくとも、今だ2割までしか削れていないのだ。

いって5割。そこまでダメージを与えられたら御の字だろう。


そんなことを考えつつ、私は晴れていく爆煙を睨みつけた。


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