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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 1 第1章 ハジメマシテ、【犯罪者】
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Episode 1

まだ他の作品終わってないのに新作です。

ちょっと書きたくなった設定をそのまま書いてたら、割と良い感じの文量になってたのです。

勝手に!勝手に私の手が……!!!

あ、コレ含めて本日4話まで公開されます。


■【教授】


犯罪って、誰に聞いても悪いことだって言われるんだよ。いやいや、わかってる。

確かに殺人強盗放火婦女暴行エトセトラエトセトラ……そういった行為が【悪】なのは分かってるさ。

でも俺が言いたいのはそうじゃあないんだ。


例えば、そう。

君だって知らないうちに……それこそ蟻なんかの小さな虫を踏んで殺したことぐらいあるだろう?

いや、無いとは言わせないぜ。今の君がどれだけ善人であろうとソレはまた関係ない話だからさ。


突然例え話をし始めたのはキチンと理由があってね。

俺がいうのもアレなんだが……『Festival() in Crime()』には、そんな例え話を人間相手に平気で実行する奴らの巣窟って訳さ。


おいおいそんな愕然とした顔をするなよ。

君がどういうつもりでこのVRMMOを始めたかは知らないが、

少なくとも始めは自分の意思でこの世界に降り立ったんだ。


それに君も、本質的にはこっち側のはずなんだ。


だからさぁ、偽善者(ヒーロー)

これから一緒に頑張ろうぜ(楽しもうぜ)



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




■鷲谷 香蓮


「……どうすればいいのかしら、これ」


私の目の前には、丁度今日発売された新作のVRMMOのパッケージが置かれていた。

先ほどまで家に来ていた友人にお土産という名目で押し付けられてしまったものだが……そのタイトルが問題だった。


『Festival in Crime』。通称はそのまま『FiC』。

他のゲームには見られないシステムを採用していることから、ゲームフリーク達の間で噂になっている作品だ。

というのも、


「【犯罪者(クライム)】、ねぇ……」


『FiC』では他のMMOでいうジョブやクラスに相当するものが全て【犯罪者】と呼ばれる独自のモノに置き換わっている、らしい。

らしい、と確証がないのは……正直私自身このゲームに興味がなかったからだ。


普通のゲームならば、興味がないと言えど友人から贈られたモノであれば一応はエンディングもしくはレベルカンストまではやり通す。

ただ、今回の場合はまたそれとは別の話。


「せめて【犯罪者】って名前じゃなければ……いえ、こういうのが好きな人もいるのよね」


私が悩んでいるのは簡単な話だ。

犯罪者。この場合はゲームの話ではないのだが……私は世の中における『悪』と呼ばれるカテゴリに分類されるモノたちがあまり、いやかなり好きじゃない。

普通の人も好きじゃないと答えるだろうが、友人に言わせると「君のは一般的なソレとは度合いが違う」とのこと。


そんなことを言う友人だからだろうか。

『そろそろ悪癖とも言うべきソレを、少しでも直す努力をしてみたらどうだい?あぁ、なにお土産代わりということでコレを持ってきたんだ。やってみるといいさ』

友人曰く、荒療治。

私自身、自覚している自らの悪い部分だというのは分かり切ってるために、ぐぅの音も出ない。


つまりは。

結局私がやりたくないと駄々をこねているだけなのだ。


「はぁ……言ってても仕方ないかぁ……」


私は目の前のパッケージを開け、中のソフトを取り出していつも使っているヘルメット型のVR機器に読み込ませる。

そしてそのままベッドへと横になり、それを装着した。


瞬間、私の意識は現実から仮想空間へと旅立っていく。

スゥと身体から何かが抜けていくような感覚は、何度やっても慣れないものだ。






辿り着いた先は一寸先も見えない闇の中だった。

いつもやっているVRMMOのスタートとまた違う始まり方。

何かないかと周囲を見渡していたら、突然虚空から声を掛けられた。


『Festival in Crimeへようこそ、候補者様』

「……えーっと、チュートリアルのNPCかしら」

『えぇ、これからキャラクタークリエイトを含めたチュートリアルクエストを開始させていただきますが……よろしいですか?』

「大丈夫よ、よろしくお願いします」


突然私の目の前にスポットライトが当てられ、何故か燕尾服を着た女性が照らされていた。

最近はどのゲームにも当然のように実装されているチュートリアルを管轄しているAI。彼女はそれなのだろう。

チュートリアルを受けないという手は流石にないので、素直に案内通りに進めていく。説明書はしっかりゲーム前に読み込むタイプなのだ。


『ではキャラクタークリエイトを始めます。1から自分で作成するフルスクラッチ、既存のアバターを改造するカスタマイズ、候補者様のVR機器からアバターを読み込むダウンロードなどがありますが……』

「面倒だしダウンロードで。アバターは……そうね。一番長く使ってるものにしましょう」


目の前に半透明のウィンドウが出現し、私のVR機器の中に入っているアバターデータの一覧を表示してくれる。

その中から私が選んだのは、RPをする事よりも、自分らしくゲームを楽しんでいた時のアバターだ。


『このアバターでよろしいですか?』

「えぇ。問題ないわ」


了承した瞬間、選んだアバターが適用される。

ちょっとだけ手を閉じたり開いたりしたりなどしてアバターの調子を確かめる。

問題なさそうだ。

服装は何故か囚人服になっていたが。


『では次にキャラクターネームを決定してください。プレイを始めた後でも変更することは可能ですが、課金が必要になるのでご注意ください』


名は体を表す、とはいうが……この場合体は名を表すとでも言うべきだろう。


「【ハロウ】でお願い。やっぱりそのアバターでやるならその名前じゃないと」

『了解しました……キャラクターネーム【ハロウ】、アバター登録完了。それでは、チュートリアルクエストを開始します』


周囲の闇が晴れ、自分が今までどこにいたのかを認識する。

爽やかな青と、一面の白。そして自己主張の激しい大きな光球。


「雲の上……」

『チュートリアルクエストでは簡単な戦闘を行っていただきます。……といっても、敵の強さは本当に初期も初期、ゲーム的に言うなれば始まりの町から出てすぐに遭遇するスライム程度の強さしかありません』

「それでアクションの練習をしろってことかしら?」

『いえ。ここでは、自分の考え(・・・・・)たやり方で(・・・・・)敵を倒してください』

「それだけ?」

『それだけです。……ただし、このチュートリアルの結果によって貴女の初期【犯罪者】が何になるかが決まります』


そう言われた後、私の目の前に先ほどのアバター選択とはまた別の半透明のウィンドウが2枚出現する。

1つは、チュートリアルクエスト……その戦闘を開始してもいいかの確認。

もう1つは、


「【犯罪者】の任意変更不可許諾申請……?」

『運営スタッフは自身らが作ったシステムによる自動【犯罪者】割り振りに相当の自信をもっているようでして。許可しなければ後から変える事も可能ですが、一度その申請を通してしまうと、【犯罪者】変更に別途課金が必要になってきます。……申し訳ありません』

「あぁ、いや。謝らなくてもいいですよ……それに」


私はウィンドウを操作し、申請を許諾する。

これでチュートリアルクエストで決まるらしい私の【犯罪者】は課金しなければ変更出来なくなった。

といっても、私がこのゲームをそんなに本気になってやるつもりがないからこその選択だが。


『ありがとうございます。――では、戦闘を開始します』


NPCは何故か礼を言った後、光となって消えていった。

代わりに出てきたのは多種多様の武器や何かの薬剤が置かれている机と、なぜか目隠しと猿轡をされた状態で拘束されている男らしき何かだ。

視線を向けてみれば、ソレの上に【死刑囚】というネームとHPらしき緑色のバーが出現した。


つまりはアレ(・・)をどう倒すかを試されているのだろう。


「えぇっと、確か……【犯罪者】自体の種類は5つだったかしら。これなりたい【犯罪者】の特性に近い倒し方すれば簡単に狙ったものに出来そうだけど……」


【犯罪者】の種類は基本5つ。

【リッパー】、【ゲイン】、【ゲイシー】、【シップマン】、そして【ラミレス】。

ランクアップと呼ばれる、所謂ジョブチェンジをしない限りはこの5つのカテゴリから変わることはないようだ。


【犯罪者】はそのどれもが過去に実際に居たとされる犯罪者をモチーフにしている、らしい。


流石に私もそんな過去に居た犯罪者を調べるほど物好きではないし……そもそもこのゲームをやり始めた人でも元ネタの人物たちを全員知っているかも怪しい。

唯一心当たりというか、かなり有名なモノが混ざっているがそれ以外は本当に知識すらない。


「まぁ、無難にこれよね」


私は机に近づき手頃な大きさのハサミとナイフを持ち上げる。

お試し用のアイテムなのかそれぞれ【チュートリアル用ハサミ】、【チュートリアル用ナイフ】とご丁寧に表示された。


どちらも武器として使う場合の簡易チュートリアルが動画付きのウィンドウで表示されたが必要ない。

他のVRMMOでは無難な剣を始め、近接に始まり遠距離まで一通り使ったことがある。

ハサミならば、断ち切るという動作以外はほぼ切れないナイフと同じように使えるだろう。……いや、細剣の方が近いだろうか。


兎に角。

私はそれらを両手に持ち、【死刑囚】に近付き。

取り敢えずで隠されている両の目へ突き刺した。


男は声にならない声をあげているが、そんなものは関係ない。

そのまま両方を引き抜くと、ご丁寧に血がべっとりと付着している。

しかしそれもすぐに光の粒子へと変わり、元の新品同様の姿へと戻ってしまう。


「……ん、一応そういうのが苦手な人用の設定かしら。あとで見てみましょうか」


そう言いながらも、右手に持つナイフで男の顔を、耳を、鼻を、肩を、腕を、胴を、太腿を、脛を、踵を、指を順々に切りつけていく。

中々しぶといのか、それとも撫でるように切りつけているからダメージがあまりないのか。

痛みに叫んではいるが、一向に死ぬ気配のない【死刑囚】を見て頰が緩むのを感じる。


HPバーを見てみれば、これだけ傷つけたのにまだ半分も残っていた。


……あぁ、いけない。これは隠さないといけない悪徳ですもの。例えゲームであろうと。

頬を叩き、気を引き締める。

相手がいくら悪人で、【死刑囚】で、御誂え向きの道具があったとしても無駄に苦しめるのは悪いことだ。

悪いからこそ、そんな感情は封じ込めなければ。


もっと続けていたい。

そう思うどこかの自分を抑え込み、震える両手で持っている得物を男の胸へとじゅくりと刺し入れる。

人間範疇生物ならばどうしても弱点足りうる心臓を狙い、刺し入れる。

ハサミもナイフも、どちらも残念ながら刃渡りが長いとは言えないものだ。

だからこそ、何度も何度も何度も何度もそれらが届くように祈りながら繰り返す。


「……終わったわね」


刺している間にHPの方が底を尽きたのか、男は光へと変わり消えていく。

私についた返り血なんかも全て光の粒子へと変わっていっているために、恐らくここだけ見れば幻想的な光景にはなるのだろう。


『お疲れ様でした。貴女の【犯罪者】が決定しました、適用します』


そして、いつのまにか戻ってきていたNPCが何かのウィンドウを弄りながらこちらへと近づいてきていた。


--System Message 『Your Crime of 【リッパー】!』

--System Message 『系統を決定してください』


突然目の前にそんなメッセージが出たかと思いきや、何やらウィンドウが出現した。

見てみれば、【犯罪者】の……この場合は【リッパー】の成長の系統を決定できるようだ。


「説明をもらっても?」

『【犯罪者】にはそれぞれ4種類の成長系統が存在します。それらを選ぶことによって、レベルアップ時のステータス変動の割合が変化するのです』


ウィンドウを見れば、それぞれの4つの系統……Attack,Defense,Speed,Technicの説明が書かれている。

……ということは、もしPvPとかする時には相手の【犯罪者】だけじゃなく系統にも気をつける必要があるってことなのね。


それぞれの説明を要約すれば、

攻撃性、それに繋がるステータスの強化となるAttack。

他のMMOでいうタンクのような役割を出来るDefense。

敏捷性や攻撃動作の速度が速くなっていくSpeed。

そして、単純だが馬鹿にできない技術面にボーナスがあるTechnic。


【リッパー】の系統だけでこれなのだ。

他の【犯罪者】によってはもっとユニークなものもあるかもしれない。


「この系統は変更可能なの?」

『可能です。但し、他の系統に変える場合レベルが変動するのでご注意ください』

「……系統別にレベルが設定されるってこと?」

『そうです。例えばAttackのレベルが10になっているからといって、他の系統に変えたとしてもAttack以外の系統では経験値を獲得していないためレベル1になります。系統別に使えるスキルも変わりますのでご注意ください』


一昔前にあったソーシャルゲームのジョブシステムのようなものに近いだろうか。


「んー……じゃあ取り敢えずAttackにしとこうかしら。他にチュートリアルは?」

『デスペナルティ、キルペナルティについてが少し』

「じゃお願い」


そう言うと、NPCはまた新しいウィンドウを2種類左右の手の上に出現させる。

これは……動画付きの説明ウィンドウだろうか。


『まず、デスペナルティから。モンスター、プレイヤーなどの要因によって死亡した場合、復活から一定時間の間ステータスが減少します。ただし、系統合計レベルによってその一定時間は変化しますのでご注意を』


私から見て左側のウィンドウが拡大され、NPCの言った内容をテキストと簡易的なアニメーションで補足する。

……系統合計レベル関係で他にもイベントとか発生しそうね。


『次に、キルペナルティ。これはプレイヤーをキルした場合に発生します。内容としては一定時間の隠密行動及びNPCが運営する商店の使用不可になります。こちらも系統合計レベルによって一定時間は変化します』

「キルにペナルティがあるのも珍しいわね……」


問題はこちらの方だろう。

キルペナルティの内容を考えるに、一定時間の間は索敵系のスキルに引っかかり続けるのではないだろうか。

最悪、他プレイヤーのマップ上に映り続ける可能性だってある。


どう転んでも隠密行動主体のプレイはしないが、それでも周りから隠れられないというのは中々手間だ。


「事前チュートリアルはこれで終わりかしら」

『えぇ。これからの貴女の犯罪生活に幸あらんことを』

「……へっ?」


NPCがそう言った瞬間、私は下に落ちた(・・・・・)

突然のフリーフォール。もちろん他のVRMMOとは違い、私には空を飛ぶ能力なんてないし確認できていないが【リッパー】のスキルの中にもそんなものはないだろう。


「い、いやぁああああ!!」


半ば泣きかけながら。

逆さまになりながら落下していく中で、私の目に現実世界ではあり得ないモノが見えてきた。

いや、モノというべきものではない。

それは雲の中から浮上するかのように現れ、私へと迫ってきていた。


空中都市(・・・・)!?」


日本人なら大抵誰もが見たことのある某天空の城を思い出すような。

しかし、その都市の構造は少しばかり歪だった。


中世のような場所もあれば、現代のような……それこそビルが建っている場所もある。

他にもファンタジーのようなよくわからない場所もあれば、明らかにテクノロジーが現代より進歩している場所まである。

そして一番目を惹くのは、そんな歪な都市の中心部。そこには、煉瓦造りの地面しかなかった。


「5つに街が分かれてる?ってそんなこと考えてる場合じゃ……ッ!?」


そんな都市を見ていたら、私の身体に襲いかかっていた下への重力が突然消え失せ、光の膜のようなものが私を包み込んだ。

呆然としている私の体は、いつのまにか逆さまから普通の体勢へと戻り、音もなく先ほど上から見えた何もない中心部へと降り立った。


--浮遊監獄都市 カテナ 中央部 メディウス


視界の隅に現在位置らしき文字ががフェードインした瞬間、周囲に大量の人影が出現した。

いや、囚人服を着ていることから恐らくはプレイヤーなのだろう。

何もないと思っていたこの中央部は、現在は人が溢れかえりごった返していた。

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