9.葬式
父と母のお葬式が始まった。
お葬式にはたくさんの人が来ていた。祐子は現実感なく、叔母と叔父に連れられて参列した。
棺の父と母を初めて見たのだが、恐ろしかった。
裕子は、まるで吸い込まれるように棺の中を覗き込んだ。
その中には父と母だったものが、横たわっていた。
祐子は、父母が綺麗に化粧を施され、手一杯元に戻されたであろうことを、理解してしまった。顔はつなぎ合わされ、元はグシャグシャになってしまった事が容易に想像できてしまった。
どうして、父と母はこのような残酷な死に方をせねばいけなかったのだろうか。親戚の叔父さんが老衰でなくなった時は、綺麗な顔だった。でも父と母は……
お坊さんが、念仏を唱え始めた。父と母は苦しみのない所へ旅立つだとか、そんなありがたいお話をしてくれたように思うが、大して心に響かなかった。裕子は、そんな場所があるなら、父と母はこんなにも残酷に死ななかったに違いないと思った。
その後、火葬場に連れて行かれ、父と母とのお別れを済ませた。
加害者Iは参列していなかった。
それから裕子は叔父と叔母の家で世話になることになった。父は多額の生命保険に入っており、裕子の将来は心配しなくても良かった。
裕子が叔父の家に世話になり、しばらくしてからマスコミが出入りするようになった。
交通事故を起こした容疑者Iが、あまりにも悪質な態度をとっており、ニュースの報道から騒ぎが大きくなったのだという。後から叔父が手を引いていたらしい。
叔父は昔報道関係の仕事をしていた。
叔父が色々な活動をしている時、殺してやると呟いていたのを裕子は聞き逃さなかった。
事故から一ヶ月たった。テレビをつけると今やあの事故のニュースばかりだった。叔父はマスコミのインタビューに、容疑者Iのことを話していた。
「Iは私達の所へ謝罪すらしにこない。手紙の一通もない。ただただ怒りと悲しみだけがある」
私は、叔父達に事故の詳細を聞く勇気がなかった。
ニュースでは、容疑者Iが謝罪にも来ないことや、警察発表による無反省な報道が大きくなされていた。容疑者Iは25才の建設業らしかった。
テレビの報道は裕子の心を固く冷え込ませた。
裕子の心は憎しみで溢れかえっていた。




