8.ある警察の取り調べ
・ある警察官の取り調べ
交通警察の俺は頭を悩ませていた。
それは先日起きた悪質運転による痛ましい事故についてだ。いや、事故というより殺人といった方が良いかもしれない。
容疑者Iと被害者の車両記録を解析するととんでもない事実が発覚した。
容疑者Iは携帯を片手に時速150㎞で車両を運転していた。しかも車両は所謂違法改造車で、クラッシャブルゾーン(万一ぶつかった時、相手を保護するための構造的スペース)を意図的に潰していた。速度超過と違法改造により、被害者二名が亡くなったのは間違いなかった。
時速150㎞という速度を片手で運転し、コントロールを失い正面衝突だ。
被害車両のドライブレコーダーは、一般的な車両風景から、いきなり対抗車が飛び出してきていた。被害者にとっては何もわからなかっただろう。重症を負った被害者の娘さんは、両親がクッションとなっとことで生き残っている様子が録画から見て取れた。
また容疑者Iの素行を調べると、ひどいもので、速度超過は当たり前、あおり運転、車間距離不保持など、警察の指導履歴がドサッと出てきた。
それに取り調べを行った同僚の調書を確認した際は、さらにうんざりした。
容疑者Iの供述を抜粋しよう。
同僚「何故あんな危険運転をしたのですか」
容疑者I「俺は気持ちよくドライブしていただけだ。ちょっとコントロールを失ってはみ出しちまった。あそこにいたあいつらが悪いんだ。気に入ってた折角の車なのにオシャカだ。クソどもめ、死んで当然だろ」
同僚「舐めたことを抜かすな。おまえの危険運転で一家族が不幸のどん底に落ちたんだぞ!」
容疑者I「なにいってんだ、俺は何もしていない。むしろ俺が被害者だろう? あそこにいたあいつらが悪い。仮に俺のせいだとして、二人殺しただけだ。そんな事より俺の車の方が大事だよ」
同僚「貴様!」
胸を焼くようなやりとりが延々と続いている。同僚もかわいそうだ。警察家業をしていると、こういう運転手はよくいる。重症事故でもあんな態度の奴は多い。が、人を殺したとなると多少は良心の呵責を感じて表面上だけでも反省の意思を見せるものだ。とんでもない人間が世の中にはいる。
しかし、奴を豚箱にぶちこんだとして、懲役何年だろうか?
危険運転致死傷罪だとして、近頃は厳罰化の傾向があるが、それでも10年も行かないだろう。つまるところ、10年で出てくるのだ。俺はこの仕事は長いが、反省して更生する奴もいれば変わらない奴もいる。容疑者Iは変わらない奴だ。これまでの警察の指導履歴をみても理解できる。
俺は、奴を出来るだけ重い刑罰でぶちこんでやろうと、知り合いに相談することにした。
何故、司法では死刑にできないんだ。
俺の警察勘が言っている。アレは、絶対に更生しない。