7.交通殺人
裕子が気が付いたとき、傍には叔母と叔父がいた。
泣き疲れて眠ってしまい、そのまま次の日になってしまったらしい。
裕子は体を起こして、叔父さんと叔母さんにもう一度、父と母の事を聞いた。夢だと良いと思った。
「叔母さん、お母さんとお父さんは本当に死んじゃったの?」
叔母さんと叔父さんは少し黙って、叔父さんが答えてくれた。
「裕子。珠子が言った通りや。夢じゃない。お父さんとお母さんは亡くなった」
「そう」
裕子はその時は、驚くほど冷静だったと思う。
いや、裕子は現実が受け入れ切れていないだけだったのだと思う。
「ねぇ、叔父さん。何でお父さんとお母さんは死んだの?」
叔母さんは教えてくれなかった。裕子にとって、何故だか分からないが無性に聞きたい事だった。
叔父さんはしばらく目を瞑ってから、ゆっくりと語り始めてくれた。
「裕子達は、動物園の帰り道に、交通事故に合ったんや。対向車線から車が飛び出てきて正面衝突したんや。お父さんとお母さんは潰された。おまえは無事だった」
「そう」
裕子にとって、その言葉はまるで他人事のように聞こえた。
裕子はしばらく考え込んで、そのまま黙ってしまった。
父と母の事をずっと考えていたように思う。
◇◇◇
裕子の入院生活は、大変恵まれていた。
裕子の病室には叔母が常に傍に付き添っていた。叔父は病室から離れていたけど、それでもよく見舞に来てくれた。
病院での生活は決して楽しいものではなかったけど、不快ものではなかった。
常に叔母がいてくれたのが、とても嬉しかった。
裕子は病院では、ずっと父と母の事を考えていた。
病院生活のある日、突然裕子は事件の全容を知る事となった。
交通事故が、新聞に載っていた。
『悪質! 脇見運転! 反省の意思見せず!』
裕子は食い入る様に新聞を読んだ。
『T件N市で発生した携帯電話の脇見運転による対向車線はみ出し事故についてI容疑者は、容疑を認めている。この事件は、対向車線はみ出しによる正面衝突により、二人が死亡した。対向車線をはみ出たI容疑者は軽傷。警察はI容疑者を送検しました。車両のドライブレコーダーから事件の真相を……』
裕子は新聞を読んで、心の中がドロドロとしたものをはっきりと感じ取る事ができた。
心の中でふつふつと、怒りが湧いてくる事を自覚した。
「殺されたんだ。お母さんとお父さんは殺されたんだ」
その日、叔母と叔父に新聞を読んだ事を伝えた。
叔父と叔母は黙って裕子を抱きしめた。
◇◇◇
事件から二週間。裕子は退院した。
裕子は叔父と叔母の家に行った。
叔母が、家に帰ると辛いから、今は帰らない方がいいと言ったからだ。
裕子が学校へ行けないと言うと、
叔父と叔母が、学校にはしばらく行かなくていいと言った。