6.死んだ
裕子が目覚めたのは、それから次の日だった。叔母が傍で座っていた。
裕子が最初に思ったのは、叔母だけしかおらず、確か叔父もいたはずだという思いだった。
「叔母さん? 叔父さんは?」
「あぁ、裕子。目が覚めたんやね。良かった。用事があるから、病院から離れたよ」
傍を見ると、床に布団が敷かれていた。
叔母が個室に布団を持ち込んで付き添ってくれていたらしい。
「ずっと一緒にいてくれたの?」
「あぁ、あんたを一人にさせるわけにはいかん。安心し、叔母さんと叔父さんがおるからね」
叔母さんがまた泣いていた。裕子は叔母さんがこんなに泣く人だとは知らなかった。そして、すぐお医者さんが来た。
お医者さんは女医さんで、裕子は何だか安心した。
「もう大丈夫ですよ。裕子ちゃんはもうしばらく安静したら大丈夫です。一週間もすれば検査も終わりますし、そうすれば退院できますよ」
女医さんが言うには、頭を強く打ったらしいが、それだけであり、他に怪我はないという事だった。いくつかの検査が残っているらしく、病院でしばらく過ごすようにと言われただけだった。
そして女医さんが病室を離れて、裕子はとても重要な事を思い出した。
父と母の事だ。
「叔母さん、お父さんとお母さんは?」
そう聞いたその時、裕子は強く後悔した。叔母さんの表情を見て、聞くべきではなかったと、心の底から後悔した。
悲しさを称えた初めて見る表情をした叔母さんがいた。
「裕子。良くお聞き。あんたのお母さんとお父さんは死んだ。あんたを守って死んだ」
「えっ」
その時の事を裕子は良く覚えている。いや、それだけしか覚えていない。
頭がくらくらとふらついた。嘘だと思った。心の中に、黒い墨を零したような、一本の線が裕子の心に垂らされたような、そんな感覚だった。
気が付けば裕子は泣いていた。
叔母さんも泣き始めて、裕子を抱きしめてくれた。
「あぁ、裕子。可哀そうな子。でも、叔母さんと叔父さんがおるからな」
その時の叔母さんの言った事は殆ど覚えていない。
ただ心の中を何か良く分からないもので満たされたのだ。
黒くてサラっとした水のような感情だったと思う。
「どうして、死んだの?」
裕子は、辛うじてその事を叔母に聞いた。
叔母は、黙って少し考えた後。
「まだ知らんでええ。でも一つだけ。お父さんとお母さんは裕子を守って死んだんや」
「叔母さん、どうして?」
叔母は目元に涙を濡らして、また裕子を抱きしめた。
かける言葉がなかったのだろうと、今になると分かった。
叔母さんは結局教えてくれなかった。
裕子も、泣き付かれて寝てしまった。