5.動物園
ゴールデンウィークに、裕子は父と母の家族三人で動物園を訪れていた。
家から少し離れた郊外の動物園で、裕子は父の車で一時間ほどの場所にあった。
その動物園では新しいパンダの子供が生まれたらしく、祐子はそれが見たかったのだ。
裕子がとは。を訪れ、お目当てのパンダの子供の場所へ向かった。残念ながらパンダの子供は寝ていて、まったく面白くなかった。裕子はつまらなかったので、「起きてよ!」とパンダの子供に声をかけたが、母に止められてしまった。
しかし、動物園のイベントが裕子を楽しませた。
羊の毛刈り体験教室や乗馬体験などの魅力的な動物園のイベントに裕子は興味が湧いた。
折角だからと、父は乗り気になり、色々なイベントに裕子を連れまわした。
特に父は羊の毛刈りを気に入ったらしく、裕子に何度も感想を聞いていた。
父は帰りに裕子に小さな羊のぬいぐるみを買ってくれた。羊をよほど気に入ったらしい。
動物園のスタッフの人に、集合写真も撮ってもらった。
気が付けば夕方にになっており、あたりも暗くなり始めていたので、そろそろ切り上げるかと父が言い出した。
裕子も十分な疲れを感じていて、また夜中のドラマを楽しみにしていたのもあり、早く帰ろうよと父を急かした。
父と母と一緒に車の後部座席に乗り込んで、父がカーナビに自宅までの道のりを入力する。
「高速道路に乗れば一時間で帰れるな」
父が車を出して、すぐにインターチェンジに乗った。
まるでゴールデンウィークだとは思えない程快適な道のりだった。
「夕食は、ハンバーグよ。裕子、好きでしょ。冷蔵庫の”タネ”を焼けばすぐ出来上がるわ」
「昨日もハンバーグ食べたよ~ まだ残ってるの?」
「こら、我儘言わないの」
裕子にとって、母の作るハンバーグは大好きなのだが、連日続くのは少し嫌だったので、軽く文句を言ったつもりだけだった。
父が隣でハハハと笑っていたのを覚えている。
覚えていると書いたのは、その後の記憶が抜け落ちているからだ。
◇◇◇
気が付くと裕子は病院の個室ベッドに寝ていた。
隣には叔父の雄一と叔母の珠子が座っていた。
「裕子! 気が付いたんやね! 良かった。良かった」
叔母が泣きながら裕子の手を握っていた。
裕子は体を動かそうとしたが、体が痛くて動かなかった。
裕子の体から色々な管が伸びていた。
「えっ、私…… どうしたの?」
裕子は訳も分からず、叔父と叔母に訪ねた。確か裕子は、動物園の帰りだったはず。
叔父と叔母は、渋い顔を作って、裕子に教えてくれた。
「あんたはな、動物園の帰りに交通事故にあったんや。そのまま病院に担がれてな。三日も寝てたんやで! 無事でほんまに良かった……!」
裕子は訳が分からなかった。いきなり交通事故だと言われて病院に寝ていたのだ。
叔母がぎゅっと手を握り返してくれたが、裕子はすぐに眠気を感じてしまったので、裕子は眠りに落ちてしまった。
後に叔父に聞くところによると、叔母はその時は大変焦ったそうだが、お医者様が休んでいるだけだと言うと、裕子と一緒に眠ってしまったと教えてくれた。