2.日常
裕子は、父と母の三人で暮らしていた。
裕子は、中学二年生になるまでの間、家族が裕子の事を愛していることを自覚していた。
家に帰ればいつも母が手作りの料理を作ってくれたし、お小遣いだってくれた。
誕生日を迎えたら、母と父がケーキを買ってくれたし、クリスマスになるとツリーを飾ってくれた。
お休みの日は遊園地や動物園に連れて行ってくれたし、何より裕子の事を良く褒めてくれた。
裕子はいつもの通り、早く家に帰って母の手伝いをしていた。夕食に出す野菜炒めの為に、野菜を切り、母に炒めてもらうのだ。
「ねぇ、お母さん。今日学校でね、「刑罰」についての授業があったの。でも私、何だか納得できなくて」
裕子は、母に学校で習った「刑罰」について、台所で野菜を切りながら説明した。
「先生は、刑罰は被害者のために存在してないって言っていたの。悪いことしたに人には手厚くて、罪のない人は救われない。私はそう思うのだけど、お母さんはどう?」
母は、驚いたような顔をして、少し考え込んでしまった。
「そうね。裕子ももう大人なのかしら。難しい事を学ぶようになったのね。その質問はお母さんには難しすぎるわ。でも、そう現実としては救われないわね。そうしたら裕子ならどうするかしら?」
裕子は正直な所、母から納得のいく答えを教えてもらえるとは思っていなかった。裕子は自分の質問がひどく理不尽で、難しいものだと理解していた。
「う~ん。被害にあわないようにするしかないのかしら」
裕子は、母の問いの答えがわからなかった。でも母はにっこりと笑っていた。
「あら、裕子も大人の考え方ができるようになったのね。そうよ、自分の身は自分で守るの。誰も裕子の事は守ってくれないわ。だから、大人になったら強く生きるのよ」
「なんだか難しいね。大人って」
裕子は、母の答えに一応の納得をした。そう話をしている内に、夕食が出来上がったので、裕子と母は食事をテーブルに並べて、父を呼んだ。
家族で楽しい食卓を囲み、テレビを見た。裕子が楽しみにしているドラマで、常に欠かさずに視聴していた。ドラマが面白かったので、裕子にとってもう「刑罰」の事はどうでも良くなっていた。