13.不幸
祐子が復讐をはたした事件は、大々的に報道された。
事件の話題性、その残虐性、そしてその背景に世間はおおいにわいた。
世間の多くが十年前に起きた痛ましい事件を思い出した。
またIの素行の悪さや、その後の対応が報じられたとき、世間は祐子におおいに同情し、殺しても仕方ないという風潮でいっぱいであった。
裕子の叔父は、祐子の心奥底に穿たれた底抜けの闇を初めて理解し、深く後悔した。両親を無くした祐子が幸せに暮らせるように精一杯愛情を注いだつもりだった。
だが、あんな悲劇を受け入れ気丈に振る舞っていた娘に気がつけなかった。
祐子と叔父は、面会した。
祐子は叔父を見るなり、申し訳なさそうな顔をして言った。
「ごめんなさい」
その時の叔父の気持ちといったら。とてもではない。
「すまなかった。儂が代わりに殺してやれば良かった。おまえの苦しみに目を瞑っていた。すまなかった」
叔父にとって祐子の凶行は、とても悲しかった。祐子が優しい子なのを知っていた。だが、祐子の気持ちは理解できた。
「叔父さんに責任はないよ。私はこれで、人生を歩み直せる。あの日を思い出して、自分を慰めて生きていける」
祐子は、自嘲気味に叔父に語る。
「ねぇ叔父さん、どうしてかな。どうして私はこんなにも不幸なのかな。Iさえいなければ、私は幸せな人生を送ったの。今でも、あの日の出来事を思い出すの。眠ると、夢の中で母さんと父さんに会うの。ねぇ、どうして」
叔父はなんと答えて良いのか分からなかった。唯一できたのは、祐子に謝るだけだった。叔父はその無力さを呪った。
「たとえ、Iが謝っても許さなかった。Iが善良な人でも許さなかった。でも少しでも謝ってくれれば。お墓の前に花を供えてくれれば。私はIを殺さなくても済んだかもしれない。もっと前向きに生きれたかもしれない。何故? 何故、あんな人間が存在しているの? 私には分からない。分からないよ」
裕子はそう言って、Iを呪った。
叔父は、裕子の変わりに殺してやればよかったと心から思った。




