11.墓と揺り籠
祐子は順調に就職して、看護師となり働き始めた。
祖父母は大変喜んでくれたものだ。
祐子は両親の墓参りによく行っていた。
毎年行っている墓参りだが、働きはじめてからも必ず行くよう心掛けていた。
お墓を管理している担当者は、祐子を見るたびに花を用意してくれていた。
本当はお金がかかるそうなのだが、管理者が祐子のために善意で用意してくれていた。祐子はその心意気に感謝しながら、母が好きだった花を飾っていた。
何度、お墓に花を供えただろうか。何度、お墓を綺麗に洗ってあげただろうか。
それまで、Iからは一度も謝罪の手紙や言葉はなかった。
◇◇◇
祐子が看護婦として働き出して、五年たった。
叔母が亡くなった。老衰だった。
祐子は、人目をはばからずに泣いた。叔母は母の代わりに祐子に目一杯の愛情を注いでくれた人だった。最後の顔は、父母と違い、安らかで綺麗なものだった。そして最後には母と同じ墓に入った。
叔父はかわらず精力的で、まだまだ現役だった。叔父はもう八十才を超えていた。叔父は、衰えを見せず、精力的に活動していた。「祐子の子供ぐらい抱いてやらんとな」といつも笑っていた。また自動車事故の本や安全指導の会などに積極的に参加し、悲劇を繰り返さないように活動していた。事故を風化させないと言っていた。
私は、頭が上がらなかった。
だって祐子は、決意していた。
Iを殺してやることを。裕子には、叔父のように前を向いて歩くことなどできなかった。
◇◇◇
祐子は職場の同僚Sと、お付き合いをするようになった。
Sは祐子の過去を知らず、寡黙で真面目なところに惹かれたといって、アプローチを続けていた。最初は断っていた祐子も、根負けし付き合い始めた。とても良い人で、気がつけば祐子はSを愛するようになっていた。
祐子が28才になったある日、Sがプロポーズをしてくれた。
祐子はプロポーズを、断った。Sは何故と理由を聞いた。
「ごめんなさい、私に人を愛する資格はないの。貴方のことは愛しているわ。でも、私はダメなの。貴方を不幸にする。もし、来年までお付き合いして、貴方のその気持ちが変わらなかったら、お受けさせて下さい」
来年、Iが出所する。




