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10.裁判

 事件から半年後、裁判が始まった。そこで私は初めてIに会った。ニタニタと笑っており、だらしない格好だった。


 裕子は吐き気がした。邪悪で許せない人の形をした何かの化け物のように見えた。裕子をどん底にたたき落とした張本人だ。裁判が進み、Iの弁解が始まった。


「被害者一家には悪いことをしたように思う。でも、俺にもこれからの人生がある。だから許してほしい」


 裕子は言葉が出なかった。何を言っているのか理解できなかった。

 こんなにも空虚な言葉があるのだろうか。Iはニタニタと笑いながら、堂々と言い放った。

 

 こんなにも人を侮辱する言葉があるのかと、裕子は混乱した。 

 裕子はそのまま吐き気に襲われ、裁判所で吐いてしまった。関係者に連れ出され、裁判所から退席した。


 そのとき、Iは……


 「うわ、きたねぇ」


 そう呟いていた。確かに、間違いなく、そう呟いてた。

 裕子は、もはや何もかもわからなくなり、倒れてしまった。


 ◇◇◇


 裁判の結果、被告は懲役13年が言い渡された。被告はこれを不服とし上告するもそれを破棄。この事件の一端は幕を下ろすことになった。


 また民事裁判にも発展し、多額の賠償請求を行うも、被告は自賠責保険以外に加入しておらず、支払い能力がなかった。

 世間はさらにIを追求した。テレビのニュースでは連日、Iの報道が続けられた。

 自賠責保険等に無加入で、もはや責任能力さえないIの事を人々は罵った。


 結局のところ、裕子を救ったのは裕子の両親が残した保険金と祖父母達のおかげであった。

 

 裕子は、この事件を機に変わった。体を鍛えるようになり、勉学に良く打ち込むようになった。

 もともと真面目な気質の裕子だったが、さらに輪をかけて努力していた。友達と遊びにも行かず、ひたすら一人でいた裕子を、祖父母は気にしていた。


 そして裕子は高校生になった。

 裕子は学校では、あまり人と喋りたがらず、常に一人だった。どこからか裕子の悲運も知られており、学校で裕子に悪いことをする子も居なかった。


 裕子は看護師を目指していた。

 叔母が裕子に何故看護師なのかと聞くと、「人を救う人になりたい」と言った。叔母はそれを聞いてまた、泣いていた。

 

 裕子は泣いた叔母を見て、少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 だってそれは嘘だったから。


 裕子は机の上に最後に撮った動物園の写真を大事に置いていた。


 裕子は、毎朝その写真を見た。裕子にとって、あの日から時間が止まっていた。


 裕子は、裁判のあの日。決意していた。

 Iを必ず殺すことを。


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