1.罰
この物語はフィクションです。
毎日投稿予定です。二月中には終わるかと思います。
裕子が「刑罰」の授業を受けたのは、中学二年生の頃の話だ。
社会の授業の一環であり、元々勉強好きの裕子の興味をそそった。
教科書には、「刑罰」の歴史が記されており、祐子は教科書を次へ次へと読み進めた。
授業の担当は優実先生だ。
優実先生は、生真面目で固かったが、生徒の面倒見が良く評判の良い先生だった。
だが、そんな先生の授業での最後の一言が、裕子にとって問題だった。
先生が言うには、罪を犯した人間も救われるべきであり、その加害者のための制度なのだという論議であったのだが、裕子からすれば理解が遠く及ばなかった。
授業が終わった後も、裕子は何となく先生の「刑罰」の話が気になってしまった。
だから学校の終業の際、裕子は先生に再度訪ねてみることにした。
「先生、罪を犯した人間のために、刑罰は存在するのですか? 加害者が刑罰を受けても被害者は救われないと思うのですが」
「裕子ちゃん。よく授業を聞いていたようね。その通り。被害者は救われないわ。刑罰は被害者の為には、本質的には存在していないわ。そうね、そうしたら刑罰はない方がいいかしら?」
初老の優実先生は、少し感心したという風に表情を変えて、裕子に質問を返してくれた。
「刑罰は……、あった方がいいと思います。なかったら悔しいじゃないですか。それに悪いことをしたら辛い目に会うっていう、予防的な意味もあると思います」
「えぇ、その通りよ。刑罰の歴史というのは古いわ。刑罰の目的は、犯罪の抑止よ。では、副次的な効果として、裕子ちゃんが罰を受けたら、どう思うかしら?」
「それは、きっと反省して、次はしないようにすると思います」
優実先生はにっこりと笑って、裕子の頭を撫でた。
「よくできました。裕子ちゃんはいい子ね。だから、加害者のために刑罰は存在しているといっていいの。刑罰を受けて、人生をやり直すチャンスを与えるのね。刑罰を受けて、許された。立ち直るチャンスを与えられる。そういうことよ」
裕子は、優実先生のいう事を理解できた。でも、少し納得がいかなかった。
「優実先生、でもそれでは被害者の人が救われません。だって、加害者の人が救われて、でも被害者の人は救われない。悪い事をしてないのに。悪い事をした人が救われるのはどうしてですか?」
「それは……、そうね。貴方ももう大人になるね。世間は厳しいのよ。身を守らなかった人が悪いの。そういう風にできてしまったのね。傷ついた人は救えないわ」
先生は、とても悲しそうな瞳をして、私に一つの真実を教えてくれた。
「先生、でもそれは……」
裕子は、先生のその表情を見て、よくわからなかったけど、何かを理解したような気がした。
「さぁ、このお話はお終いよ。気を付けて帰るように」
そういって先生は職員室へ戻って行ってしまったのだ。
裕子は、心にモヤモヤとしたものを感じてしまったのだが、きっとそれは、世の中の真実を知ってしまったからだと思った。
だって、優実先生の話に、真に迫る迫力を感じてしまったのだ。私は、反論が出てこなかった。