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第7話 毒

途中で視点が変わります

 魔物の断末魔は幸いにもすぐに止んだが全員耳を抑えてうずくまっていた。



「ふー、どうやら今度こそやったみたいだな」


「あーもう身体中傷だらけよ、早く帰りたい!」


「お疲れ様でした。

 今度こそ大丈夫なようですしさっそく治療をしましょう。

 シアも手伝ってください」


「うん」



 俺とカレンは全身に無数の傷が出来ていた。

 俺は魔物に直接貰ったものだがカレンの方はおそらく最後の奇襲の為に森の中を突っ切ったせいだろう。


 手持ちの回復薬を使い治療を施していく。

 この手の薬の使い方は種類によって様々で直接幹部に塗る物もあれば飲むだけの物もある。

 一番効果が期待出来るのは治癒魔法と併用するタイプの物だがかなり高価なのでそうそう手が出せるような代物ではない。


 そもそも治癒魔法を使いこなせる者自体が少ない。

 治癒は精霊魔法の1つなのだがかなり難易度が高く、シアも下級の物が一応使えるという程度だった。





 治療を一通り済ませてから小休止をとり、さっそくだが今回の事後処理を行うことにする。

 身体中が痛むがこんな場所で長々と休みを取る気にはなれないので早めに処理してしまおう。


 改めて魔物を見てみてると完全にその活動を止めていた。

 背中の触手があった位置はぽっかりと空洞になっており、そこから何かが溶けたような液体が流れ落ちていた。

 ひどく不快な臭いがするその黒い液体はおそらくララが言っていたものだろう。


 なるほどね…本体はどうやらこっちだったみたいだな。

 どおりで頭や心臓をつぶしても動くはずだ。


 おそらく狼自体はこれに取りつかれた時点で死んでおり、背中についていた触手の本体が体を動かしていたのだろう。


 本体は溶けてしまったが討伐の証拠になる物を持ち帰らないといけない。


 証拠になるかは微妙な所だがまずは流れ落ちている黒い液体を瓶に詰める事にした。

 ララから話を聞いて念の為に持ってきておいたがまさか役に立つとは思わなかった。

 後は粉砕された頭部を首から切り落として袋に詰めた。


 証拠はこんな物で良いだろう。


 最後に縄張り近辺の情報を村長に伝える為、周囲を手分けして調査した。

 体の方は疲れているがこういったアフターケアを怠ると冒険者ギルドに悪い印象をもつ輩も現れる。

 無用なトラブルを避ける為にもこういった仕事はきっちりとしておかないといけない。



「とは言ってもやっぱりめんどくさいものはめんどくさいな」



 ぼやいていても仕事は終わらないが討伐後のこの仕事が一番苦手だった。


 気を張っているうちは疲労を感じないが討伐を終えて疲労が一気に来るタイミングでの仕事だ。

 カレンやレノンも顔には出さないが同じように感じているようだった。




 _______________________





「お、やっぱシアが一番か」



 調査を終えて戻ってくるとシアだけが居た。

 魔物の死骸をじっと見ていたがこちらに気付くと振り返った。



「おかえり」


「ただいま。

 なんか気になる事でもあるのか?」


「べつに…」



 悪いやつではないのだがこの無口すぎる所だけはどうにも苦手だ。

 邪魔に思われるのもあれだしあまりしつこく話かけるといじめているようだと言われたこともある。

 まあ歳も離れているので打ち解けるのはなかなか難しいのかもしれないな。


 そんな事を考えつつ先に荷物の整理をしておくことにした。



「ああ、そういえば今回の件シエラさんには…


 そう言いつつ振り返った所で思わず言葉が詰まった。

 こちらを向いているシアの後ろ、魔物の死骸があった場所に人間大の黒い塊があった。



「シア!後ろだ!」



 シアもすぐに振り返った。

 俺もすぐに立ち上がり駆け寄ろうとした。


 だが、気付くのがあまりにも遅すぎた。



 パアァァァーーーーッン!!



 大きな破裂音とともに黒い液体が周囲に飛び散った。

 近くにいたシアは直撃を受けてその軽い体は宙に弾き飛ばされていた。



「シア!」



 咄嗟に飛ばされて来たシアを受け止める。



「シア、おい大丈夫か!」


「…う……あ…」



 ダメだ意識が飛んじまっている。


 ぱっと見だとケガは無さそうだがあんなものに巻き込まれたのだ、無事という訳にはいかないだろう。



「クリフ!すごい音がしたけど何があったの!」


「クリフくん何があったんですか!」



 カレンが戻ってきてその直後にレノンも戻ってきた。



「魔物の死骸が破裂してシアが巻き込まれた!

 外傷は無いが気絶しちまってる」


「見せて下さい!」



 レノンにシアを預ける。

 簡単な治療をするくらいは出来るが医学や医術といったものにまで精通しているわけではない。

 俺ではこの状態のシアに対して出来ることは無いのでレノンに任せるよりないだろう。

 カレンも同じなようで鎮痛な面持ちで見守っていた。


 レノンはすぐにシアの容体を見始めた。

 脈をとったり熱を測ったりしていたが状況は芳しく無いようだ。

 熱も出てきているようで解熱作用のある薬を飲ませたりしていたが状態は悪くなる一方のようだ。



「すみません、私では原因を見つける事が出来ません」


「そんな!レノンさんが謝ることなんて何もないよ!」



 泣きそうな表情のレノンを見て二人の関係を知っているカレンはフォローに入ったが、今はそんな事をしているような状況でもないだろう。

 シアの様子を見ると熱の影響で顔もかなり赤くなっている。

 時たま苦しそうに声をだすが意識が戻る様子はなかった。



「どうする?

 まずは村まで戻るか、それとも医者を連れてくるか?」



 俺の言葉にはっとして、レノンはすぐに反応した。



「村まで戻りましょう。

 医者を連れて来るよりもその方が早い。

 原因が分からない以上少しでも早い方が良いでしょう」


「なら二人はすぐに行って!荷物は私がもっていく」


「おう、行くぜ!」


 俺はすぐさま走り出した。

 シアはレノンが背負って行くので俺は武器を構えて先行する。

 こんな森の中では真っ直ぐ進むことすら難しいが可能な限り障害物を排除していった。

 

 レノンもシアを背負いながら俺の後ろを走っている。

 魔導士とはいえレノンも一人前の冒険者だ。

 並の人間よりはよっぽど鍛えているし体力だってある。

 かなりの強行軍になっているがレノンはしっかり付いて来ていた。





 _______________________

 ララ





「うーん…なんか天気が悪くなってきたな」



 急に暗くなってきたので外の様子を見てみると、どんよりとした雲が出てきてすぐにでも雨になりそうな雰囲気だった。

 

 朝はあんなに良い天気だったのにな…


 雲だけでなく風も出てきたのでこのままだと大分荒れそうにみえた。



「この時期だと珍しい事ではないけどもう閉めたほうが良いかもな」



 周りを見てみると他の家も戸締りをして午後の天気に備えているようだった。

 この天気のせいかお客もまったく来ないしこれ以上開けていてもあまり意味はないかもしれない。




 店を閉めるため外に出してある立て看板をしまおうとした所、森の入り口から二つの人影が飛び出して来るのが見えた。

 一昨日に会った冒険者のうちの二人だ。


 クリフさんと…レノンさんだっけ?慌てているようだけど何かあったのかな?


 そんな事を考えているとこちらを向いたクリフさんと目が合った。

 そのまますごい勢いでこちらに走ってくると唐突に切り出してきた。



「ララ!この村にも医者はいるだろ、場所を教えてくれ!」


「え?」



 あまりにも唐突過ぎる言葉に最初は意図を理解出来なかったが、続いて来たレノンさんが女の子、シアさんだったかな?を背負っているのを見て状況を把握出来た。



「あっすみません、診療所はここから3軒先にあるあの緑色の屋根の建物です」


「助かる」



 クリフさんはそれだけを言い残して診療所に向かって駆けて行った。

 レノンさんもこちらに会釈だけをして息を切らせながらクリフに続いた。


 …シアさんに何かあったのだろうか?

 魔物の討伐中にケガでもしたのか…それとも何かの病気だろうか?


 ほとんど言葉を交わしていないはずなのに何故だか気になって仕方がなかった。





 店を閉めてからもシアさんの先ほどの様子が気がかりで他の事がまったく手につかない状態だった。



 仕舞いにはリリナから、


「もー、さっきから何ぼーっとしてるの、気になる事があるんなら先に済ませちゃったら?」


 と言われる始末だった。



 いつも物臭なリリナに言われたのが地味にショックだったが言っていることはもっともだった。「何か失礼な事を言われた気がする」無視無視。

 邪魔にならない程度に様子を見に行くくらいなら大丈夫だろう。



「リリナ、ちょっと診療所に行ってくるから留守番頼む」


「はーい、いってらっしゃーい」



 リリナに見送られつつ店を出ると雨が降り始めていた。

 風もけっこう出てきたので傘をさしていると飛ばされそうになるが、幸いにも診療所は近所なのでなんとかたどり着いた。


 診療所の扉を開けると同時に大きな声が響いてきた。



「あんた医者なんだろ!分からないってどういう事だよ!」



 声の主はクリフさんのようだ。

 ここからでは見えないがなにやら雲行きが怪しい感じだ。


 待合室にはレノンさんだけが居た。

 心身ともに疲れ果てたかのようにうなだれており、絶望感がただよう表情をしていた。



「何があったんですか?」



 状況を聞いてみたかったがこちらの声にレノンさんはなんの反応も示さなかった。

 揺さぶってみても「シア…シア…」と繰り返すばかりでこちらに気付いてすらいないようだ。


 このままでは埒があかないので診察室の方まで行ってみる事にする。


 診察室に入ると中央のベッドにシアさんが寝かされていた。

 顔が大分赤くなっていて荒い呼吸を繰り返している。

 時折「うっ…あ…」と苦しそうな声をあげるだけで意識が戻る様子は無かった。


 その近くではクリフさんが先生に掴みかかって問い詰めているようだったが、



「ここは診療所なんだろ…病気の奴がいたら治してくれる所じゃないのかよ…」


「すみません…」



 クリフさん自身も無茶を言っているのは分かっているのだろう。

 先生もそんなクリフさんの気持ちを分かっているのか反論もせず言葉を受け止めている。




 _______________________





「ララ、来てたのか…」



 しばらくしてからクリフさんがこちらに気付いた。

 一昨日に見た自信にあふれた表情とは違い精彩に欠いた覇気のない顔をしていた。



「すみません、さきほど見たシアさんの様子がどうしても気になってしまって」


「そうか…なあ、ララにはどうにか出来ないのか?

 ここにある薬の一部はお前の店から仕入れた物だって聞いたんだがもっと効果の高い物とか置いてないか?」


「難しいと思います、病状が分からない状態で薬を使うとかえって毒になる場合もありますから」


「そう…だな。

 なあ、ダメでも良いからお前もシアの容体を見てやってくれないか?」


「え?でも僕は医者とかじゃないですよ」


「分かってるさ、それでも頼む!」



 そう言って頭を下げてくるクリフさんに対して僕は否とは言えなかった。

 仲間をなんとかして助けてやりたい、その真摯な想いに答えたいと思った。


 それに僕自身この娘の事が妙に気になっていた。

 理由は分からなかったが何とか助けてあげたいと思っていたのでクリフさんに頼まれなければ僕の方からお願いしていたかもしれない。



「分かりました、力になれるかは分かりませんが出来る限りの事はします」


「すまねえ…」



 力にはなれないかもしれない。

 それでも、どんな事でも良い、この娘の為にしてあげられる事があるのなら…。

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