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第165話 研究馬鹿が始める事

 本日は十一ノ月28日、帰省から帰って来て4日が経ち、荷物の受け取り等も済みいつも通りの日常に戻って来た頃である。



「ん、着けたよ」


「じゃあちょっとそのまま待っててくれ」



 だからという訳でもないのだが、時間にも余裕が出て来た今日、僕は少し気になっていた事を試すべくリリナに父さんから貰ったあの頭飾りを着けてもらっていた。


 えーと…リリナのはこっちか。


 これを調べる事自体に意味はないのだが、頭飾りの効果である魔力操作の補助、この効果が登録証にも表れるのかを確認してみようと思ったのだ。リリナの魔力操作は2だったはずなのでもし影響するなら3になっていると思われるのだが…。



 ―――――――――――――――――――――――

 魔力操作     1

 ―――――――――――――――――――――――



 ん? 見間違えか? …いやどう見ても1だよな。


 しかし確認したリリナの登録証にはなぜかレベル1と記載されていた。レベル1,それはつまり覚えたての最低レベルであり、一応扱えはするけれど手のひらに魔法を生み出すのが精々というあまり役に立たないものである。



「リリナ、ちょっと外してみてくれ」


「うん? うん」



 えっと…。



 ―――――――――――――――――――――――

 魔力操作     2

 ―――――――――――――――――――――――



「いやなんでだよ!」


「ひゃう!」


「あ、済みませんピッセル」



 思わず声に出たツッコミでピッセルさんを驚かせてしまった。いやだってしょうがないよね、魔力操作を補助するアイテムで、父さんはもちろんリリナ自身も効果があると言っているのに数字上では下がっているのだから。



「はぁ…もう良いぞリリナ」


「ん、じゃあ私は部屋に戻ってるね」



 なんとも無意味な実験をしたものだ、いや元から意味なんてなかったのか。



「あ、師匠、これどこにしまっておきましょうか?」


「ああ、それは僕の部屋に置いておきますよ」



 後やる事と言えば今回の帰省旅行で手に入れた物をどうするのか考えるくらいか。ミュリスさんの錬金具はリリナが使うとして、他に老竜の逆鱗やあのクソ鹿牛の角も使い道がありそうだからと貰っておいたのだ。


 うん、やっぱりこの逆鱗は色々と使い道がありそうだな。


 この鱗、島に渡る前に実験したのだが異様なまでに高い魔力増幅の効果を持っていた。通した魔力が溢れるのに驚いたくらいであり、これがあればプラーナ無しでも高品質な魔道具を作る事が可能だと思われる。

 銀貨6枚という出費は決して安いものではなかったが、この鱗は間違いなくその価格に見合うだけの性能を秘めている事だろう。



「ピッセルもこれで何か作ってみますか?」


「えっと……これはどう使えば良いのでしょうか?」



 ふむ、まだちょっと難しかったかな。


 特にあの特殊な技法を得意とするピッセルさんなら色々と応用を利かせる事も可能かもしれない。少し難しいかもしれないけれど機会があれば彼女には是非とも挑戦して欲しいものである。



「それじゃあ次の授業はこれの加工方法にしましょうか」




 ―――――――――――――――――――――――




「~♪~~♪」



 ん-、鱗とは違うけれどこの角もかなり面白いな。


 午後、僕はお店の番をしながら鼻歌まじりにクソ鹿牛の角を磨いていた。奇妙な魔力の流れが見えたので貰った物だが、これもまた逆鱗とは違う意味で異質と呼べる素材であった。


 相性の良さそうな属性は雷と水に…木とかもいけるか。


 具体的に何に使うのかと聞かれたら困るが、狩猟の時にクリフが意識を失ったという話もあるのでもしかすると直接精神に作用するタイプの魔道具が作れたりするかもしれない。実際に作るとなると少々…いや、結構危ない物になりそうだが、趣味として研究を進めるだけであれば特に問題は起こらないだろう。



 …そうだ、そう言えばマナさんの研究もそろそろ次に進めないとな。


 そして研究対象としてならマナさんもかなり興味深い存在であった。彼女の魔力は魔物のそれに近いが、まったく同じ物という訳ではなく独特の性質を秘めているのだ。

 仮に名前を付けるとしたら『黒属性』とでも呼べば良いだろうか、明日は彼女が来る予定の日だしその辺りも詳しく調べても…。



「こんにちは」


「あ、いらっしゃいま、ああレノンさんいらっしゃい」



 と明日の予定を考えていると店の扉を開けてレノンさんが入って来る。



「…私も…いる」


「ごめんごめん、こんにちはシア」


「うん…こんにちは、それで…お帰り…ララ」



 そしてシアも一緒、そう言えば帰省から戻って来てまだ2人には会えていなかったな。



「うんただいま、そうそう、約束していたお土産があるからちょっと待ってて」



 シアには一緒に行けなかった代わりに沢山のお土産を買って帰ると約束していた。僕の故郷には買って帰れるような代物はなかったが、帰りの町でいくつかシアが喜びそうな物を選んでおいたのだ。




「はい、こちらはレノンさんのでこっちはシアのだよ」


「あ、私の分もあるのですか?」


「もちろん、レノンさんにはいつもお世話になってますから」



 事実レノンさんには色々と助けられている。今回の帰省もだが王都に行った時もそうで、クリフのPT代表として色々と調整してくれていたのはレノンさんなのだ。彼がいなければクリフ達はレオンリバーを長期間離れる訳にもいかず、おそらく王都も帰省も一緒に行く事は出来なかっただろう。



「ありがとうございます、これは…ナイフでしょうか?」


「ええ、使い安そうな物を見つけたのでそれに僕が少し手を加えました」



 で、まずはレノンさんへのお土産だがこれはアノスの町で見かけたナイフに氷石を組み込んだ物だ。小振りなナイフなので用途としては護身用になるが、レノンさんは氷属性を得意としているので僕が考えるよりも上手く扱ってくれる事だろう。



「魔力を籠めて振るだけで良いのですか?」


「はい、小さな物なのでプラーナは使えませんがその分軽くなっていますよ」


「…すごいですねこれは、分かりました、今度試しに使ってみますね」



 レノンさんも真剣な表情でナイフを眺めているし、まあまあ気に入って貰えたのかもしれない。



「ララ」


「ん? どうかなシア?」



 そしてシアの方だが、こちらは約束通り数があるのでまだ全て見終わっていないようだ。

 物としてはちょっとしたお菓子やお茶、部屋に飾るようなインテリアの類で、後は装飾品等も選んだのだがそちらはカレンとリリナに止められたので無しとなっていた。



「こんなにいっぱい…ありがと、ララ」


「喜んで貰えたなら僕も嬉しいよ、っと、後これもだね」



 だから代わりとしてレノンさんと同じ僕が手を加えたこれも渡しておく。



「これは…?」



 見た目としてはいわゆる片眼鏡(モノクル)というやつで、前に偵察などで遠くを見る時は右目で見るという話を聞いたのでそれに合わせて設計したものだ。



「これは光属性の核を使った物で…説明するよりも着けてみた方が分かりやすいかな?」


「ん…うん…」



 僕に促されたシアは受け取った片眼鏡をそのまま着けてくれる。最初はどうやって着けるのかと迷っている様子だったが、何度か着け直し位置が定まった所でこちらへと顔を見せてくれた。


 お、実用品のつもりだったけど結構似合っているな。


 片眼鏡を着けたシアはいつもとはまた違った愛らしさに溢れていた。普段は少し神秘的で妖精の様な雰囲気を纏っているのだが、片眼鏡を着ける事でその神秘性が薄れ、代わりに歳相応の女の子らしさが前面に出ているのだ。



「わっ…ララ、ララ…これ…!」



 そして眼鏡の効果を体験したシアは少し興奮気味に僕の服の裾を引っ張った。



「どう? 暗い所も良く見えるでしょ」


「うん…すごい……全部見える…」



 シアは今この店内の至る所、視線の通る所は全て見通せているはずである。普通であれば陰になって見えない箇所でもまるで灯りで照らしたかのようにはっきりと見える、そう、これはあの精霊魔法の視界からアイデアを得て設計した物なのだ。



「動く時には邪魔になるかもだけど、偵察の時なら役に立つんじゃないかな」


「…良いと思う…これなら暗い森の中とかでも…うん、ありがとう…ララ」


「あ、でもあまり長くは着けないでね」



 欠点を上げるとすれば長時間着けていると感覚がおかしくなってしまう事くらいか。明暗がない状態だと遠近感が狂っちゃうし、ずっと明るい視界に晒されているのは目にも良くはないだろう。




 ―――――――――――――――――――――――




「なるほど、では無事に手続きは済んだという事ですね」



 お土産を渡した後はもう特別な用事もなく僕は2人から魔導士登録の更新手続きの話を聞いていた。そもそもうちに訪れた理由はこの話をするためだったようだ。



「ええ、あの騒動の時に使った魔法の事を少し聞かれたくらいです」


「うん…ちょっと…怖かった…」



 レノンさんが使った魔法についてはよく知らないけれど、シアの使う精霊魔法はすごいのでギルドの人が話を聞きたくなる気持ちも分かる。僕が使える精霊魔法はどう見ても普通の物じゃなかったし、機会があればシアに精霊の扱いを教えて貰った方が良いのかもしれない。



 コンココンコンココンっ


 とその時、お店の入口から妙にリズミカルな音が鳴り響いた。



 …なんだ今の? もしかしてノックなのか?



 扉を叩いた音なのは間違いないがここを訪れる人でこんな奇妙な事をする人物がいただろうか?



「はい、どちら様でしょうか?」


「どうも! 職人ギルドのクレインです!」



 …ああクレインさんか。 なんか納得、でも何の用事だろう?






「やあ2日振りだねララ君!」


「っ!?」


「そ、そうですね、それで今日は一体どのような用向きで?」



 テンションの高いクレインさんの声にシアがびくっとして後ろに隠れてしまう、予想はしていたがやはりリリナと同じで彼のようなタイプが苦手なのだろう。



「うん、今日の用件はなんと! ララ君! 君に名指しの依頼を持って来たのさ!」


「え? 名指しの依頼ですか、珍しいですね」



 しかし名指しの依頼とは一体誰からだろう? この街での知り合いも増えたけれど、わざわざギルドを通してまで名指しの依頼をするような人物は思い浮かばない。



「だよね! 僕も最初聞いた時は結構驚いたよ! こんな依頼を見たのはギルドに入って初めてだしま…」


「あ、あのクレインさん?」


「ああごめんごめん。うん、じゃあまずはこの依頼書に目を通してよ!」



 とりあえずテンションのまま話し続けようとするクレインさんを遮り詳細が記載されているだろう依頼書を受け取る。依頼書には当然ながら仕事内容とその報酬、そして普段のものとは違い依頼主の名前も書いてあり…。


 あ、これは…そうか、こういう形でやれって事なんだな。






 こうして僕とリリナの帰省旅行は終わりレオンリバーでの新しい日常が始まった。

 新たに始まるこの仕事がどうなるかはまだ分からないけれど、きっとこの忙しなくも楽しい日常に新しい色を加えてくれる事だろう。

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