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第20話 レオンリバーの街4

ちょっとだけ長くなってしまいました

「あら?試してみるの?どんなお薬が好みかしら?」



 お試しコーナーに来たところで艶やかな雰囲気の女性?女の子?に声を掛けられた。

 リリナも普段着ているような魔導士風のローブをまとって錬金具を操作しているのでこの人も錬金術師だと思われる。



 変わった雰囲気の人だな…大人っぽい感じなのに僕より年下にも見える。


 顔立ちは多少幼さを残しているが完全に美人系だ。

 だが、ゆったりとしたローブを身にまとって頭もフードを被っている為他の部分は良く分からなかった。



「すみません、僕も錬金術をやっているのでどのような物があるか見せて貰おうと思いまして」


「あら、お客さんじゃなくて同業者だったのね、別に構わないわよ。

 そうねー…これなんかどうかしら?今日出来たばかりの新商品なんだけれど君に分かるかな?」



 手渡されたのは無色の液体だ、調べても良いって事だよな?


 まずは匂いをっと…けっこう刺激強いな…不快な感じではないけれど鼻にくるものがある。

 色は無色だから魔力を通してみるか…あっ…これ多分酔い覚ましだな。

 前に1度作った事があるけれど魔力の通りがまったく一緒だった。

 まあミルス村だと需要が全然無いからあれ以来作らなかったけどね。



「分からないでしょー?それ酔い覚ましなのよ。

 この辺りは飲み屋が多いから二日酔いに効く薬は無いかって相談がけっこうあったの。

 それに私もお酒は大好きだからこういうお薬があると便利だと思ってね」


 薬の効能に気付いた事は言わない方が良さそうだな。


「確かにこれだけ大きな街だとけっこう需要がありそうですね。

 僕が前に居た所では酔う程に飲むような機会はめったに無かったですよ」



 多分この人は機嫌を損ねるとめんどくさいタイプだ。

 それにわざわざ気分を害す事を言う必要も無いし相手の話に合わせておくことにした。


 その後も店員さんから色々な商品を見せて貰ったが、どれも似たり寄ったりな商品ばかりで特別目を惹くような物は無かった。

 ちょっとずつ改良されているのは面白いんだけどなー…どれも作ったことがあるものばかりなんだよね。



「錬金術をやっているって事はあなたもお店を開いているのかしら?」



 何を見せても反応がいまいちな僕を見て店員さんは話題を変えて来た。



「お店はまだ準備中ですね。

 昨日この街に来たばかりなのでまだまだ準備に時間がかかりそうですよ」


「あらそうなの?ふーん…新人さんかー…。

 …今度お店に遊びに行っても良いかしら?あなたがどんなお店を出すのか見てみたいの」


「それはかまいませんが…」



 なんだろう…店員さんの視線や雰囲気が、艶やかなのに危険を感じるというか…この場から逃げ出したくなるような物に変わっていた。



「ただ先ほども言った通りまだ準備の段階なのでお店に招待出来るのは少し先になりますよ?」


「ええ、それでかまわないわ。

 私の都合もあるからそうね…10日後ならどうかしら?」



 10日後か…まあ準備は4,5日で終わるだろうしそれくらいならお店も落ち着いているだろう。



「はい、それくらいなら大丈夫ですよ」


「そう、じゃあその時にあなたのお店をじっくり見せてね。

 …あら、そういえばまだ自己紹介もしてなかったわね。

 私の名前はファム、このお店の店長兼筆頭錬金術師よ。

 うちのお店ともどもよろしくお願いするわ」



 えっ?この人が店長なの!?

 って事はこの人がレベル7の錬金術を持っているって事なのか…。


「店長さんでしたか、これは失礼しました。

 僕の名前はララと申します、以前はミルス村で道具屋を営んでおりましたがこの度諸事情でレオンリバーに越して来る事になりました。

 こちらこそ、よろしくお願いします」


 自己紹介の後、お店の場所を伝えてから『プリン・ファム』を後にした。


 それにしてもあの若さであれだけのお店を経営出来るってのもすごいな。

 さすがにあの大きさは無理だと思うけれど少しでも大きなお店を持てるように頑張らないとな。




 それじゃ次は魔道具を扱っている店に行くかな。

 こっちもギルドで良さそうなお店を紹介して貰っていて、『プリン・ファム』と同じ通りにあるので2,3分歩くだけですぐに到着した。



 おー、正に職人の城って感じだな。

 無骨なデザインに店の外にまで響いて来る罵声、魔道具だけじゃなくて鍛冶も行われているという話だったのでお店の前の熱気は相当なものになっていた。



 とりあえず話を通さないと見学も出来そうにないな。

 えーっと…あっ、あそこかな?


 店内には様々な音が響いていたがその一角、お店の隅の所に受付っぽい窓口があった。



「すみません、職人ギルドの紹介で来たのですが見学させて貰っても大丈夫でしょうか?」


「え?見学?また珍しいお客さんだね。

 まあギルドからの紹介って事なら良いのかな?

 それでどこを見たいんだい?」


「魔道具の作成…魔工技師の方の作業をお願い出来ますか?」


「あの変人の所か…まあ良いんじゃない。見学ならあのおっさんも断る事はないと思うよ。

 地下に降りて突き当りの部屋にいるから頼んでみると良いよ」


「はあ…ありがとうございます」



 受付の人はなんともやる気が無さそうにしていたが一応場所は教えてくれた。


 あんな対応で良いのだろうか…?ファムさんのお店とはだいぶ違うな。

 まあ事前に約束をしていた訳でもないしそれぞれの担当者次第というのは分からなくもないか。



 地下に降りて突き当り…ここか。

 看板があるが…〈魔…技……究…〉…文字が破損していて読めん。

 前後の文字からして魔導技術研究所かな?とりあえず入ってみよう。



「すみません、職人ギルドからの紹介で来たのですが見学させて貰っても良いでしょうか?」



 ノックをしてから声を掛けてみる。

 …が、しばらく待っても何の反応も返って来なかった。


 留守なのかな?と思い一応確認でノブを回してみると普通に扉は開いた。


 鍵は掛かっていないが…さすがに勝手に入るのはまずいよな…。



「すみませんーーん!!誰かいませんかーー!!」


「聞こえとるわ!!作業中なんだから少し黙っとれ!!」



 再度声を掛けてみるとようやく反応が返ってきた。

 声がしたほうに視線を向けると白衣をまとった40歳くらいの男性が何かをしているのが見えた。

 金属の板に対して魔道具を使って加工を施しているように見える、多分回路を作っているのだろう。


 声を掛けると邪魔になるだろうな…一段落するまで待たせてもらおう。


 男性は時折笑みを浮かべながら作業をしていた。

 見ているこっちからしたらかなり不気味な光景ではあったが、手元はしっかりとしており淀みのない精密な作業は芸術的なものにすら見えた。

 そのまま5分程作業をしていたがそこで一段落ついたのだろう、作業を止めてこちらに近づいて来た。



「で?何の用だ?」



 こちらに近づいて来た男性はぶっきらぼうに切り出してきた。



「えっと…職人ギルドからの紹介で来ました。ララと言います。

 作業を少しだけ見学させて貰いたいのですがよろしいでしょうか?」


「若いな…お前魔道具を扱ったことは?」


「簡単な物なら少しだけあります」


「そうか…」



 僕の言葉を聞いて男性は部屋の奥に戻って行った。

 なにやらがさごそと探しているような様子だったが目当ての物を発見したのかすぐに戻ってきた。



「ほれっ」



 っとっと、なんだこれ?魔道具の回路だよな。


 戻ってきた男性から急に手渡されたのは木製の回路と加工用の魔道具だった。



「えっと…これは?」



 男性に対して問いかけてみたが答えてはくれなかった。

 回路と魔道具を渡した後は特に何も言わずに僕の様子を見ている。


 どうすれば良いんだこれは?僕の対応を待っているみたいだが…。

 とりあえず渡された物を見てみるか。


 魔道具の方は特別な物ではない。

 僕が普段から使っている物と大差ない普通の加工用魔道具だった。


 という事はこっちの回路に何かあるって事か?

 うーん…でもぱっと見た感じだと別におかしな所は……ん?この中央部分のライン…なんか変だ。


 魔力が通らないわけでは無いのだが変な所でクロスしているせいでお互いに魔力の流れを阻害してしまうだろう。


 でもこれならすぐに直せそうだ。

 このクロスしている部分の周囲に別の道を作ってやれば…っとこれで良さそうだな。



「…良い腕だな、正直見ただけで問題点を見つけられるとは思わなかったぞ」



 沈黙を保っていた男性が僕の手元を見ながらそう告げた。



「この回路は?」


「ああすまん、それは魔工技師として腕前を見るために作ったもんだ。

 その程度の回路も直せないようなやつには何を話しても無駄だからな。

 …だが魔道具に繋がずに回路だけを見て直したやつは初めてだ。

 本来はこの部屋からその回路に合った魔道具を探して魔力の流れを見てから直すって手順だったんだがな…」



 なるほど、つまり今のはテストだったわけだ。

 回路の問題点を把握して直す事が出来れば合格って事だな。

 でもさすがに何も言わずにいきなりテストするのはやめてほしいな。



「まずは自己紹介といこうか。

 俺の名前はブラック、この工房の魔工技師だ。

 主に武具全般の加工を担当している」



 男性、ブラックさんを改めて見る。

 一応白衣を着ているのだが何日もお風呂に入っていないのだろうその姿はかなり汚れており、無精髭というにはあまりにも無造作に伸びている髭もその汚れた印象に拍車をかけていた。

 そんな恰好に不釣り合いなグラスをかけているが、あれは多分魔力を見るための物だろう。



「ブラックさんですね。

 僕は先ほども申し上げた通りララと言います。

 改めて見学をさせてもらってもよろしいでしょうか?」


「見学ね…あんたくらいの腕があるならすぐにだってうちで働く事が出来るぜ。

 興味があるんなら大将に話を通してやるがどうだ?」



 っとと、いきなり勧誘か。

 まあ僕の事を買ってくれているのはありがたいけれどさすがに受ける事は出来ないな。



「すみません、僕も今新しいお店の準備をしている所なので…その参考になればという事で見学を希望してまして」


「そうか、まあ惜しいが仕方ないな。自分の城を持っているやつにそれを捨てろとはさすがに言えん。

 で?見学って言うが何を見たいんだ?正直あんた程の腕の人間に見せてやれるような物はそうそうないぞ」


「あ、はい。商品として扱われている一般的な魔道具の種類と相場なんかの確認が出来ればありがたいです」


「そんな事か、それならここよりも地下に降りてすぐ右手の部屋に行ったら良い。

 使えない新人がいるが商品の説明程度ならあいつでも出来るだろう」


「はあ…新人さん…ですか?」



 少し口が悪いんじゃないかと思ったが、こういった上下関係に部外者が口出しするものでもないだろう。

 それに僕もまだまだ他人の事を気にしている余裕があるわけではないし言われた通り向かう事にしよう。



「分かりました、それでは失礼します」


「おう、お前さんならいつでも歓迎するからまた来ると良い」



 そうして僕は魔導技術研究所(仮)を出て話にあった新人さんに会いに行くことにした。


 えーっと…地下に入ってすぐ右手って事はこの左の扉かな?


 とりあえずノックをしてみた。すると、



「はーい、どうぞー」



 子供っぽい可愛らしい声で返事が返ってきた。


 えっ?新人って女の子なの?

 あー…でもおかしくはないのか…


 魔工技師は女性の方が多い。

 というのもこの職業はけっこう精密で繊細な魔力操作を要求される事が多いのだ。

 回路を組んだりなんかもそうだがデザインを凝ったりするような人も居てそういったセンスはやはり女性の方が優れている人が多かった。


 ブラックさんの方が逆に異端なんだよな…あの容姿で繊細な作業をされても逆に困惑してしまうよ。


 とりあえず入って良いみたいなのでお邪魔しよう。



「こんにちはー」


「はい、いらっしゃいませ」



 部屋の中には受付用のカウンターと商品が展示してある棚がいくつも置かれていた。

 カウンターの向こうから店員?と思われる女の子がこちらを出迎えてくれていた。


 …この娘はもしかして…初めて見たな。


 出迎えてくれたのは10代前半くらいの少女だった。

 だがそのセミロングの頭髪の間から生えている特徴的な耳はただの少女には存在しない物だ。


 見たことは無いけれど多分獣人の一種だろう、キツネっぽい感じがする。

 ピンと尖った耳がぴくぴく動いているのがなんとも愛らしい。

 新人とは言っても技師の一人なので若干薄汚れた作業着を着ていたがそれでも小動物的な可愛らしさに溢れていた。



「あの…どうかなさいましたか?」



 少女が不安そうにこちらを見ていた


 お店に入るなり固まってしまった僕は相当変なやつだっただろう。

 そんな相手にじろじろと見られれば不安にもなろうというものだ。



「あー…申し訳ない、獣人の方に会ったのは初めてだったのものでつい見てしまいまして」


「なるほど、そうだったのですか。

 確かにこの街でも獣人の方は少ないですからね。

 初めて見たという方もけっこう居ましたので気になさらないでください」


「ありがとうございます。

 それで本日お伺いした用件ですが、魔道具の見学をお願いしたいのですが大丈夫でしょうか?」


「見学…ですか?えーっと…私まだ見習いなので詳しい事にはお答え出来ないのですが…」



 シュンっとした表情に合わせて頭部の耳も一緒に垂れ下がっていた。


 可愛い…なんだろう…この娘の仕草一つ一つが父性?母性?を刺激してくる。

 頭を撫でて思いっきり甘やかしてあげたいという衝動に駆られてしまう。

 …まあさすがに行動には出ないけどね。



「いえ、扱っている商品の簡単な説明と価格を教えていただくだけで大丈夫ですよ」


「うー…まあそれくらいなら私でも…あっ、でも先に師匠の許可を取らないと」


「師匠ってブラックさんですか?彼からこちらで伺うように聞いて来たのですが?」


「ええーっ、師匠から!?というか師匠が自分から名乗ったのですか!?」



 表情をころころと変えながら受け答えしてくれていたが僕の言葉が相当意外だったようで、うつむいてなにやらぶつぶつと呟くようになってしまった。



「師匠が名乗ったって事は腕前を認められたって事だよね、そんな人が私の所に来たって事は何か試されている?それとも私をクビにして代わりにって事?そんな…私ここを追い出されたらもう帰る場所なんてないのに、なんとか師匠に頼み込んでクビだけは…………」



 何やら自分の世界に入ってしまったな。

 聞こえてくる単語からクビにされるんじゃないかと恐れているようだし訂正しておかないとな。



「あの…本当に見学に来ただけですのでここで働くという事はありませんよ」


「ふぇ…ひゃ、ひゃい!ごめんなさい!」



 ものすごい勢いでぺこぺこしている…こっちが申し訳なくなりそうだ。



「えっと…それで説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「は、はい、任せて下さい!

 あっ、申し遅れました、私ここの工房の見習いをしているピッセルって言います。

 よろしくお願いします!」


「ピッセルさんですね、

 僕の名前はララと言います、こちらこそよろしくお願いします」



 挨拶を済ませてからようやく魔道具の説明を始めて貰う事になった。


 かなり遠回りになったがようやく話を聞けそうだな。



「ではさっそく!こちらの棚にある物がうちの工房の主な売れ筋商品です。

 この品は火石を使った魔道具で…………




 ―――――――――――――――――――――――

 



 ふぅ…


 ピッセルさんの説明を一通り聞き終えて思った。

 やはりもうちょっと相場の勉強もしないとな…

 

 ピッセルさんから伺った相場は僕が想定していた価格の数倍から十数倍くらいのものであった。

 ただの火を出すだけの魔道具ですら銀貨5枚もするというのだ。

 需要がミルス村とは違うとはいえあまりにも差がありすぎだった。


 それにこの需要の違いも重要だな。


 魔道具はレオンリバーでもやはり高価な品という認識なのは一緒みたいで一般人はあまり購入しないようだ。

 主な顧客は冒険者、人によってはかなりの大金を持っている場合もあるのでそちらからの需要が多いとの事だった。


 ミルス村と同じようには出来ないな…ちゃんとこの街に合った商品を考えないと。



「ところで、このフタがついている部分には何か入るのですか?」



 ピッセルさんの説明中にも気になっていたのだが、ここにある魔道具の大半には用途の分からないフタがついた箇所があった。

 フタを外してみても中は空洞になっているだけで、何かを入れるだろう事が分かるだけだった。



「え?それはもちろんプラーナを入れる所ですよ?」



 プラーナ…ってあれだよな?魔力を溜めておける液体だったはずだ。

 魔道具に入れるって事はプラーナに溜めた魔力を使って魔道具を使うって事なんだろうけど…。



「プラーナが必要なのですか?魔道具は特にそういった物は使わなかったと思いますが」


「えとっ、えとっ、おっしゃる通りプラーナを必要としない魔道具もあるにはあるのですが、それだけの物を作れる人はなかなか居ませんよ。

 腕の良い技師ならそういった魔道具も作れますが普通の魔道具は基本的にはプラーナを必要としますね」



 そういうものなのか…。

 という事は僕もそれなりに出来る方だと思って良いのかな?

 単純な構造の物しか作ってないから過信は出来ないけどね。

 


「なるほど、そういうものなのですね。

 分かりました。

 色々詳しく教えて頂いてありがとうございます」

  

「いえ、お役に立てたのならなによりで…す…?あの…?」 



 ん?…あっ!しまった…無意識のうちにピッセルさんの頭を撫でてしまっていた。


 すぐに手を離したが…やってしまったな…。

 さっきそんな行動には出ないと思ったばかりなのに…。



「す、すみません!つい」


「いえ!大丈夫!大丈夫…です…むしろ…」



 ピッセルさんは頭を押さえながら顔を赤くしていたが嫌がっている様子は無かった。

 

 許してはくれるみたいだけれど初対面の女性にして良い事じゃないよな…気を付けないと。





 さて少し気まずい雰囲気になってしまったがそろそろ次に行かないとな。



「それではそろそろお暇します、色々と教えて下さってありがとうございました。

 ピッセルさんも技師の修行頑張ってください」


「はい!ありがとうございます!」

 


 ピッセルさんの元気な挨拶を聞きながら僕は工房を後にした。


 この街で生活をしていればまた会う事もあるだろう。

 その時には僕の出来る範囲で何かお礼が出来たら良いかもな。

 そんな事をぼんやりと考えつつ次の目的地へ向かって歩みを進めていった。 

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