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第129話 続・迷子の救済者④

 ぐぇぇ…死んじゃう…。



「人気者ですねリリナさん♪」


「1…2…3…4……もう1人、5人…」



 人数は数えなく良いよ…余計に重く感じるから。



 十一ノ刻を過ぎた頃の、錬金の片付けをしていると予想通りカレンとシアちゃんが教会までやってきた。またもはぐれてしまった事をしっかりと謝り、後はフローラさんのお店の見学が出来ればとなったのだが、


「ごめんなさい、もうちょっとだけ仕事が残っているの」


 という事だったので今は子供たちの相手をしながらフローラさんを待っている所だ。



 カレンが相手をしているのは主に男の子、元気いっぱいな男の子はやはりカレンのようなタイプを慕うみたいだ。華麗な槍捌きを見せてくれる現役冒険者とくれば男の子にとっての憧れなのかもしれないが…でも短いスカートがちょっと気になっちゃっているあたりもやっぱり男の子である。


 シアちゃんの所には男の子も女の子もいるが、物静かな子ばかりでシアちゃんの精霊魔法を見て目を輝かせている。興味深げに見ているがもしかして精霊が見える子たちなのだろうか?


 そして私の所にはそれ以外の…女の子ばかりが集まっていた。



 重い…つぶれる…。



「おねえちゃんたかーい!」



 私の人より高い身長が珍しいのだろう。ぺたぺたと触りながらよじ登ってくる子もいるので、怪我をさせないようにと気を使っているといつの間にか全身に纏わりつかれていたのだ。



「わーっ、おっぱいもおっきーよ!」


「うん…そうだね…」



 5歳くらいの子が大声をあげながら私の胸をぺちぺちと叩いてくる、痛いしなんか恥ずかしい。


 ここがふくらみ始めたのは10を過ぎた頃だったか、伸び始めた身長に比例しどんどんと大きくなり今や手で持ってもそこそこ重みを感じるサイズになってしまった。同時に体も丈夫になってきたのは良い事だったが…。


 小さい方が軽くて良かったんだけどな…。


 それからの4年で私の体重は倍近くに増えていた。それでも兄さんからは痩せすぎだと言われるがこれ以上大きくなるのは勘弁してほしいと思う。

 これって本当に肩がこるんだという無駄な気付きをする事になったし、寝る時には態勢を考えないと地味に邪魔になる、何より夏場に異常なほど蒸れるのが最悪で何度千切ってやろうかと思ったことか…痛いだろうしそんな事は出来ないんだけどさ。

 男性はこういうのが好きな人もいるみたいだけど何が良いんだかね?



「わたしも大人になったらお姉ちゃんみたいにおおきくなれるかな?」


「うーん…おっきくなってもあんまり良い事はないよ」


「そーなの?」



 どっちの事を言っているのか分からないがどっちも小さい方が軽くて良いと思う。まあこれくらいの子にそんな説明をしても分からな…だからぺちぺち叩くのはやめてね痛いから。






「ん…あっちって何かあるのかな?」



 そんな風に私以外が平和な時を過ごしていると、ふと視界の隅にトッシュさんとフローラさんの姿が見える。マスクでしっかりと鼻口を覆い、先の院長先生と一緒に教会の奥へと向かっているようだった。



「あっちにはクラムくんのお部屋があるよー」


「うん、でもいっつも寝てるから一緒には遊べないんだってー」


 いつも寝ている…それは寝たきりの子がいるという事か。


「お姉ちゃんお姉ちゃん…お姉ちゃん?」


「…ごめんね、私もちょっと行ってくるよ」



 私は纏わりついていた女の子たちを1人ずつ下して立ち上がる。子供たちは不思議そうな目で見るが、それを振り切るようにして私は3人の後を追いかけた。


 …何か、嫌な感じがしたのだ。




 ―――――――――――――――――――――――




 孤児院の奥は思っていたよりも綺麗でそしてとても広かった。

 元々の造りが良かったのか、それともしっかりと手入れをしているからか老朽化は進んでいるが状態はかなり良いように見える。さらに部屋の数がかなり多く初見の私を迷わせるためであるかのようで、どうあがいても目的地を見つける事が出来そうになかった。


 この辺りだと思ったけど…参ったな、見失っちゃった。


 追いかけるのに出遅れたせいですでに3人の姿はどこにもない、もう引き返すべきだろうか? 帰り道だけなら辛うじて分かるのでまたまた迷子になる前に…。



「どうでしょう? クラムくんの容体は」


「…今のは院長先生、こっちか」



 声が聞こえてきたのは帰り道と逆方向、つまりさらに奥の部屋なのだが、なぜか重くなる足取りに進むことを躊躇ってしまい…。


「やはり病気ではありませんね。生まれつきの体質か…もう少し成長すれば体も丈夫になるでしょう」


「じゃあこの子には栄養剤を多めに作るね」


 こっちから…あの部屋っぽいな。


 なんとなく覚えがあるこの感じ、初夏から先月の間に嫌と言うほど味わったこれは…やっぱり見に来て良かったようだ。






「あれ? どうしたのリリナさん? まだもうちょっと掛かるけれど」


「いやフローラ、今日は先に帰っても構わないぞ。これ以上恩人を待たせておくのも悪いだ…」



「それはダメ」



 その部屋の中で寝ていた7,8歳くらいの男の子なのだが、彼は…魔物に近い魔力を全身に纏っていた。




 ―――――――――――――――――――――――




「リリナさん、その…本当にやるの?」


「うん、絶対にやらないとダメ」



 孤児院にいた男の子クラムくん、魔物と同じ魔力を纏っていたあの子はこのままだとどうなってしまうのか…その答えは分からないが、魔力に耐えきれずに死んでしまうかもしれないしもしかしたら魔物に変貌するなんて事もあるかもしれない。どう考えても碌な事にならないのは確かだ。


 あれに近い物を…でもそのままじゃダメだ。


 先ほど診た感じだとあの子の症状は魔毒に侵された人のものと同じ、しかもその原因となる病魔が体の奥深くで融合してしまっているのだ。おそらく前に作った魔毒用の薬では効果は薄いと思われるので今回は私が直接処置をするしかなさそうだった。



「えっと、このお店にある素材は使っても大丈夫ですか?」


「それは構わないけど…何を作るつもりなの?」


「解毒薬…のようなものです」



 まずは前に作った魔毒用の薬を改良しなければならないのだが、さすがに孤児院にあるものだけでは素材が全然足りていない。珍しい分類の素材が必要になってくるのだが…実は先ほどここを訪れた時に使えそうな物を見つけていたのだ。



「解毒って…え? クラムくん毒に侵されているの!?」


「いえ、医学的な意味での毒じゃないので…あ、これこれ」



 私はカウンター付近に置かれている植物の1つから深い緑色をした小指サイズの果実を1つ採って…かじる。



「苦っ…でも多分当たりだ」


「…リリナさん、本当に何をやっているの?」


「まあ…とりあえず最後まで見ていてください」






 ここからは1つ1つ説明するのが面倒なので作業に集中させてもらう事にする。私は最初の果実を他にも甘いのやら酸っぱいのやらを集めていって…口をゆすぎたいが今は我慢だ。

 続けて錬金具を借りて新しい薬の開発を行った、その際に横で見ていたフローラさんが変なメガネを掛けていたがあれは何か意味があったのだろうか?


 そして完成した錬金薬を手に教会へと戻る、本番はこれからである。

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