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6章幕間6 その日の夜

 エレノア




「レイクス宰相から?」


「ああ、1年くらい前から定期的に開催しているお茶会でね、招待状はいつもオランが届けてくれて…あれ? そういえば今回は違ったな」



 ロノギアス邸へ潜入した日の晩、話を聞くべく会場に居た兄を捕まえてみたのだが…可能性は考えていたがあまり聞きたくない名前が出てきてしまった。



「なんだエル、もしかしてお茶会に興味でもあるのか?」


「いえ、お茶会自体に興味は…」


「おおっ! そうだ聞いてくれ妹よ、僕は今日運命の人に出会ったんだ!」


「聞きたくない」


「スラっとしたお前よりも背の高い人で…」



 だから聞きたくないって。 はぁ…まあ知りたい情報は聞けたしこれくらいは付き合うか。



 ラフスのバックがあの男である可能性は高いと思っていた。兄の情報通り不明な資金の流れは1年前からなのだが、先ほど確認した資料にも記されているが、ラフスが考えたにしてはあまりにも手口が巧妙過ぎたからだ。


 資金の流れから不正の隠蔽までその全てが熟練の手管で行われおり、それはまだ年若いラフスではどうあがいても無理な事。ならば誰がその後ろにいるのか? これ手の工作を最も得意とするレイクス宰相が候補に挙がるのは必然であった。



「これまでたくさんの女性を虜にしてきたが…これからは彼女一筋でいくつもりだ」


 止めた方が良いかしら? 見てる分には面白いけれど。



 これはもしかしたらチャンスかもしれない、資料自体にレイクス宰相とのつながりは見えないがラフスを追い込めば…ボロを出してくれればあの気持ち悪い男を排除する足掛かりになるかもしれない。



「まだルルさんという名前しか分かっていないが、お前も心当たりがあったら教えてくれると助かる」


 うん、無理。



 その為には明日のラフス糾弾をかなり厳しく行わなければならないのだが、そうなるとあの家族はどうなるか…いや、私情は捨てよう、私はヴェルガンド王国の王女なのだから国にとっての最善を選択するのが当たり前なのだ。



「僕はもう他の女性を口説くことはしない、彼女の事だけを想い続けようじゃないか」


「そう…ね、信念を持つのは良い事だと思うわ」



 その為にも私は私の信念を貫き続けなければならない。

 腐敗の治療は痛みを伴うものだが、小を切り捨てる覚悟がない者に王族たる資格はないのだから。




 ―――――――――――――――――――――――

 ララ




「話は分かったが…ララがお兄ちゃんねー」


「カレン、本気なの?」



 潜入作戦を終えた晩、エレノア様と別れた僕たちは宿の近くのお店で夕食をとりながら話をしている。話題は当然先ほどの事になるのだが、エレノア様の正体以外だとやはりカレンの話が皆気になったようだ。



「や、やっぱりおかしいかな? やめた方が良い? ララお兄ちゃん?」



 これは仕方ないだろう、どんな呼び方であろうと僕とカレンが他人なのは事実、友人であっても、仮に恋人になったとしてもそれが変わる事はないのだし。



「そんな事はないよ、僕はカレンが妹になってくれて嬉しいから」



 でもそんな事は気にする必要はないとも思う。周りにどのように見られようともこれは僕たちが互いに認めた関係なのだから。



「…うん! ありがと!」



 実際甘えて来るカレンは可愛いと思う。リリナはこういう事をするタイプではないので、素直に来られるとなんというかこう…ついつい甘やかしたくなってしまうのだ。



「…変なの」



 ただそのリリナが、『悪い遊びに手を染めた友人を止めたい』という表情をしているのが気になってしまう。言いたいことは分からなくもないが、実際の妹であるお前にそんな表情をされたら凹むのでやめて欲しいものだ。






「ララ…私も…シアって呼んで」



 そんな話をしていると、これまで無言だったシアさんからも唐突なお願いを告げられる。



「え…と、シアさん急にどうされたんですか?」


「シアって…カレンみたいに…」



 んー…妹という事でカレンと呼ぶようにしたが、シアさんもそう呼んで欲しいという事かな?


 確かにクリフやカレンは敬称を付けないのにシアさんだけさん付けというのは1人だけ距離が遠いような気はする。レノンさんは色々な意味で別枠だけど、シアさんともだいぶ長い付き合いなので良い機会かもしれない。



「じゃあ…シア、で良いですか?」


「ん…敬語も…いらない」


「そうですか? …いやそうか、じゃあこれからはシアって呼ぶよ」


「…うん」



 小さく頷くシアさ…シアから嬉しそうな感情が伝わって来る。言葉は少なく表情の変化は小さいが、これが分かるのもまたシアさんと仲良くなれたという事なのかもしれない。




 ―――――――――――――――――――――――




 トントントン



「ん?」



 宿の部屋へ戻り、そろそろ休もうかと微睡んでいると扉をノックする控えめな音が響く。今日は色々あって疲れているのでこのまま寝たふりをしても良かったのだが…。


 …シアか。


 理由は分からないが扉の先にいるのがシアだと分かった。



「…はい、どうぞ」



 何の用事だろ? さっきの話の事かな?


 なんにしろ相手がシアであれば無視する訳にはいかない。明日はこれと言った用事はないし、眠気も少しくらいなら我慢出来るだろう。



「ララ…ちょっと…良いかな?」


「良いよ、入って」



 恐る恐るという感じで入室するシアを上着を羽織ってから招き入れる。日付の堺の頃なので冷え込みも厳しく、部屋の中だと言うのに身震いするような寒さであった。



「何か飲む?」



 シアはモコモコとした暖かそうな夜着を着ているが、それでも寒いのか両手で自分を抱きしめるような仕草をしている。暖かいものでも飲めば少しは温もるかと勧めたが…、


「ううん…それより…お昼の精霊魔法…もう一度見せて欲しい」


 どうやら思っていたよりも重要な話であるようだ。





 この時間帯なので闇の精霊は簡単に見つかり、昼と同じように魔力を注ぎ顕現させてみたのだが当然ながら現れた精霊魔法は屋敷内で見たものと同じだった。



「うん…やっぱり…私のと全然違う」



 しかし、シアさんが同じように顕現させた闇の精霊魔法は僕のものとは似ても似つかない美しい女性の姿をしている。大きさも人間の大人サイズであり、僕のとは違い手のひらに乗るようなサイズではなかった。



「そうだね、僕も変だなとは思ったけれど何が違うのかな?」



 ついでだからシアに精霊魔法の事を色々聞いてみようと思う。あの広場で見た物やこの眼の事、全ては無理かもしれないが僕よりは長く精霊魔法に触れているシアなら分かる事もあると思うから。



 …



「なるほど…と言って良いものか、やっぱり分からない事が多いね」


「うん…普通の精霊魔法とは違う…でも…どうしてこうなったのかは…」



 精霊が見えるようになってからの事を一通り相談し、その後簡単な実験もしてみたのだがやはりこの精霊魔法がどういうものかまでは分からなかった。シアの予想する本来の姿というのも確証がなく、視覚を共有出来る以外で分かったのはかなり遠くまで遠隔操作が可能な事くらいであった。



「使いようによっては便利なのかな? 結構重い物も持てるみたいだし」


「…」



 操作していない時の精霊魔法はなぜか勝手気ままな行動を取っている。

 シアの精霊魔法に纏わりついて不思議そうに首?を傾げたり、部屋にある小さな灯りに近づいては逃げるような遊びをしたり。僕の工具でチャンバラをするのはやめて欲しいがあれくらいの物なら軽々と振り回す力もあるようだった。




 でも…なんだろう、こいつらも見ていると奇妙な感情が湧いてくるな。


 精霊魔法の1体に手を近づけると甘えるように擦り寄ってくる。見た目はともかくその仕草は愛らしいもので、ペットを飼ったらこんな感じなのかなと思うと同時に家族に向けるような愛情が湧いてくるのだ。



 なんだろうね、これ…。




 ―――――――――――――――――――――――

 余談




 話が終わって自室に戻ろうとするシア。が、最後にこのような事を告げてきた。



「ララ…精霊魔法…変な事に使ったら…ダメ…だよ?」


「変な事…?」


 どういう意味だろ? 変な事って一体…。


「…だって…どこにでも顕現出来るって……どこでも覗けちゃう…から」





 ……た、確かに、悪用したら色々とまずいな。


 僕の精霊魔法は遠隔でも操れるのでシアさんの言うような使い方も…多分可能だ。もちろんそんな事に使うつもりはないが使えるという事自体がなかなかに危険である。



「…は、はい、決して悪い事には使わないと約束します」


「うん…信じる…よ?」



 この精霊魔法の扱いは本当に気を付けないといけないようだ。彼女の信頼を裏切る事だけは絶対にすまいと固く心に誓った。

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