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第110話 女神の領域 後編

「ララさんルディエスカ様は嫌い?」


「え?」



 休憩を終え、次の目的地へ向かうべく教会を出たところ、エレノア様に先導される僕へ話しかけてきたのはゆきのさんだ。



「リリナさんもだけどあまり楽しくなさそうだったから…」



 別に嫌いとかではないが…なんて言ったら良いのだろう?


 奇妙な感情だ。接点のない生活をしているのだから興味がないとかであれば分かるのだが、それ以上にマイナスの感情を抱くのはどう考えてもおかしい。勇者であるゆきのさんはその力の代行者でもあるわけでそのまま告げるのは…。



「いえ、関わりがなかったものであまりピンと来ないと言いますか…」


「あ、ララさんもなんですね」


 も?


「私もそうなんです、勇者になってからはそのすごさが分かるようになったけれど、神様って言われても正直実在するんだな、くらいの印象ですね」



 しかし、意外にもゆきのさんは僕に近い考えのようだ。



「えっと、勇者の力はその神様から授かったものでは?」


「…はい、それは間違いないです。ララさんを助けに行けたのもルディエスカ様のおかげ…でもやっぱり会った事もないから」



 悪印象と言う程ではないが少し冷めた反応。望まずして勇者になったゆきのさんからすれば当然かもしれないが、なんだかそれだけではない何かがあるようにも感じた。





「ご神体か…」



 来た道を戻るので当然先の神殿の横を通るのだが、改めてご神体を見てもやはりただの砂時計にしか見えない。神域の特異性はこのご神体によるものらしいが、こんな小さな物に本当にそんな力が…あるの…だろうか…?






 ……なら…調べれば良いんじゃないか?


「ララさん?」


 だってほら…こんな近くに…目の前に…手の届くところに…。





「ララ! あなた何をやっているの!?」



 唐突に響いた声はエレノア様のものだろう。驚いた様子で僕の名を叫ぶが僕が何をしていると言うのだろうか? 僕は次の目的地へ向かうためにまずは広場から出ようと……その為に…このご神体を…。



「…え?」



 なぜ広場を出るのにご神体に近づく必要があるんだ? 我に返った僕がその事を疑問に思うと同時、しかし時すでに遅く僕の右手はご神体の砂時計を摑み上げていた。




 ―――――――――――――――――――――――




『だめか、ここで死んじゃうのはもう---回目だよ…』

『あっ、当たった! これでやっと次に…えっ…あ、やっぱりだめか…』

『きゃっ! うう…直視出来ないよこれは…』



 なんだこれ? 夢か? それにしてはやけにうるさいな。



 意識が途切れるような感覚から一転、異様なほど鋭敏になった五感に届いたのは聞いているとなぜか不快に感じてしまう美しい声。そして周囲には見渡す限りの花畑が広がっており、やはりと言うかそのほとんどはガーベラの花であった。



 …あれ、この声前もどこかで…もしかしてこれがルディエスカ様とやらの声か?



 少女のように愛らしく、それでいて美しい声音はなるほど神様っぽい感じではある。意識が途切れる直前の記憶があの砂時計なのであれに触れる事によってなんらかの魔法が発動したのかもしれない。



『まだ弱いかな…もっと強く刻み付けないと変わらないかも』



 何を言っているのかは分からないが、死ぬとか直視出来ないとかなかなかに物々しい発言である。刻み付けるって一体何をするつもりなんだ?



「おーい、ルディエスカ様ー。砂時計に触った事は謝るから起こしてくれませんかー?」



 でも、今の僕はそんな事よりも早く皆の所に戻らなければならない。十五ノ刻には次の目的地へ行くという事だったしこんな所で無為な時間を過ごす訳にはいかないのだ。



『もっと痛みや恐怖を深く覚えさせれば…えっ?)



 なにこの神様怖い…むしろあなたに恐怖しますよ?



(もしかして繋がったの! どこ? 何回目!?)



 声はすれども姿は見えず、どれだけ周囲を見回しても見えるのはガーベラの花畑だけであり、聞こえて来る声も耳ではなく直接頭の中に響いて来るものだ。


 お、目が覚めそうだ。


 そんな声を聞いていると、夢から覚めるような感覚と共にこの空間での意識が溶ける様に薄れてゆき…。



(待って! あなたに伝えなきゃいけない事がたくさ…--」



 必死な様子の女神様には悪いと思うが目覚めの時が来たようである。




 ―――――――――――――――――――――――




「…あれ? ここはさっきの…ん? なんで砂時計なんかを?」



 唐突に起きた覚醒の感覚、周囲に目を向けるとそこは先ほど訪れた神殿であった。なぜか手にしていたご神体を台座に戻して振り返ると、皆が慌てた様子で駆け寄ってくる所であった。



「ララさん、急にどうされたんですか?」


「いえ、僕も気付いたらここに居たというか…」



 神殿の横を歩いていたと思ったらいきなりご神体の目の前にいた、そうとしか言いようがないのだが唐突過ぎる状況に戸惑うばかりである。



「ご神体は大丈夫? 傷がついたりはしないけれどあなたの事だから何をしでかすか…解体したりしないでしょうね?」


「さすがにそんな事はしませんよ…」



 一瞬の事だが何か起きたのだろうか? 例えばあの砂時計を通じてなんらかの魔法を掛けられたとか、もしくはこの神域の特異性に中てられて変調を来したとか…なんだか体の表面にピリピリする感覚が残っているし。



「ララ…大丈夫…?」


「大丈夫ですよシアさん。足止めして済みません、さ、早く次へ向かいましょう」


「まあ、何もないならそれで良いけれど…」



 心配そうなシアさんに笑顔を返しながら先を促す。実際体の調子が悪いという事はないし、むしろ先までの鬱々した気持ちが晴れているくらいである。十五ノ刻までもう30分も残っていないし、目的地が近場であったとしてもそろそろ…。




 …な、なんだあれ?


 そうして僕が歩き出した先、先ほど歩いて来た方角に視線を向けるとそこには奇妙な…少し見覚えのある何かが大量に浮かんでいた。


 もしかしてあれは精霊…か?


 ルプラさんやシアさんの魔法で見たことがあるその姿は、小さなものだがやはり精霊にしか見えないものだ。


 でも実体化していないのにどうして見えているんだ?


 だが僕は精霊を見る目を持っていないので魔法になっていない精霊は見えないはずである。生まれつきの才能なので努力で身に付くものではなく、後天的に見えるようになったという話も聞いた事がない。

 そもそも今の今まで見えなかった精霊がどうしてこんな突然…。


 理由として考えられるのはあのご神体。精霊が集まっているのだから無関係という事はないだろうし、神様と精霊には何か繋がりがあるのかもしれない。



 しかし多いな…なんか僕の事を見ている気がするし。


 シアさんは精霊がいっぱい居ると言っていたがこんなにも多いとは思わなかった。数は優に100体を超えており、その全てが僕を見ている?ような気がするのだ。

 種類も大きさも様々なのだが、愛らしい見た目の精霊もこの数になると…ちょっとホラーな光景であった。


 ま、まあ実害はないし今は気にしないでおこう、目の事はそのうちシアさんに聞けばいいかな?


 広場を出るためにはこの精霊の群の横を抜けて行くのだが、真横を通る時にもその視線が僕から外れる事はなかった。なんとなく気付かない振りをして通り過ぎたのだが…なんだか獲物を狙うような眼をしていて怖かったのだ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 シア




「ララ! あなた何をやっているの!?」


「…え? ………あれ? ここはさっきの…ん? なんでご神体なんかを…」



 今のは…何?


 ララがルディエスカ様のご神体を手にした瞬間、ほんの一瞬であるがそれは私を驚愕させるに十分な出来事であった。



 精霊が…ララに…混ざろうとした…?



 この神域には他の場所に比べて数十倍の精霊が集まっている。見える範囲だけでも百体以上はいるのだが、ララがご神体を手にした瞬間その全てがララに向け殺到したのだ。

 異常な行動ではあるが魔力を供給されていない精霊は実体を持たない、普通であればそれはララに何の影響も与えないはずなのだが…何か悪い予感がしたのだ。


 溶けるみたいに融合しようと、でも最後には弾かれてた…。


 弾かれた精霊たちはまだ近くにおりその視線は今もララに注がれている。まるでチャンスが来たらもう一度同じことをすると言わんばかりであり、本能とでも言うような強い感情が…感情? 精霊が意思を示したの?



「ララ…大丈夫…?」


 どこにも…行かないよね…?


「大丈夫ですよシアさん。足止めして済みません、さ、早く次へ向かいましょう」

 

 私を置いて…いなくならないよね…?

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