第15話 魔核
魔物の襲撃があったその晩、僕とリリナは軍の張った大型のテントの中に居た。
本来であれば部外者の僕らが入って良い場所ではないが店の大半を破壊され生活するのが困難だろうという事で特別に入れてもらったのだ。
もちろん理由はそれだけじゃないだろうな、多分僕たちが張った魔法障壁について聞きたいのだろう。
テントの中には部隊の主要人物と思われる人達が集まっていた。
ガーネリフ隊長、コビ分隊長、レオーネさんに後は生き残った魔導士2名と兵站、連絡の隊長さんだ。
冒険者の代表という事でクリフも一応居たが僕らと同じ参考人程度の扱いだと思われる。
「コビ!お前が魔物をしっかりと抑えていればこんなことにはならなかったんだぞ!」
「すみません、まさか魔物が村を目指していたとは思わず隊員を守る為に引いてしまいました。
すぐに応援を呼びましたが間に合わず…」
「そう怒るなレオーネ、確かに魔物を通してしまった事は失態だが今回の責任は私にあるだろう」
「しかし隊長!」
「落ち着けレオーネ、まずは各分隊の報告からまとめるぞ。
これからの対策を練るためにもまずは情報が欲しい」
「…分かりました」
魔物を取り逃がしたというコビ分隊長にレオーネさんが食って掛かっていたが、ガーネリフさんにたしなめられて渋々とだが引き下がった。
納得は出来ないものの対策をたてる方を優先すべきだと判断したのかもしれない。
「まずは本隊の報告からする。
結果だけを言うが魔物自体との遭遇は無かったが魔核の発見には成功した。
後は封印処理だけだったのだが知っての通り封印処理班に被害が出ている為処理が出来ない状況だ」
まずはガーネリフ隊長が、
「では続きまして私が。
私の分隊は森北西部の捜索を全て終わらせました。
捜索終了時に14体の魔物に奇襲を受けましたがこれを撃破、隔離後に消滅した事を確認しました」
続いてレオーネさんが、
「最後は僕ですね。
僕の分隊も森北東部の捜索は全て終わらせました。
その後レオーネ分隊長の隊と同じように魔物の奇襲を受け7名が負傷しました。
応援を呼ぶために一度引いたところ魔物がこちらを無視して村の方へ向かいました。
すぐに隊の者を追わせましたが間に合わず村への襲撃を許す結果となってしまいました」
そして最後にコビ分隊長さんの報告で締めだ。
うん?…本命だと思われた本隊は魔物に遭遇しなかったのか。
そして手薄な分隊を抜けて村へ急襲、まるで指揮官がいるかのような采配だな。
それに狙われた魔導士が封印処理班だったという事、つまりは…
「後は村での様子か…ここが一番気にかかる部分ではあるが…。
クリフと言ったな、お前が一番状況を見ていたのだろう、説明してくれ」
「は、はい」
さすがのクリフもガーネリフ隊長の前だと緊張するみたいだな。
つっかえつっかえではあったがあの場であった事を順に説明していった。
「狙われた処理班に障壁か…ふむ…お前、…名はなんと言ったかな?」
「隊長、彼はこの村で道具屋を営んでいるララと言う者です」
ガーネリフ隊長が唐突に僕に顔を向けて名前を聞いて来たがそれに対してはレオーネさんが答えてくれた。
あの隊長さん顔が怖いから急に話しかけられるとびびるな…隣ではリリナもびくっとしてたし。
「レオーネは彼を知っているのか?」
「はい、…隊長にはお伝えしづらい事なのですが隊員達に持たせる魔法薬を彼に頼みました。
ですがそのおかげで魔物の撃退に成功できたと言っても良いでしょう。
素晴らしい効果の魔法薬でした」
「いや、良いんだ。
魔法薬に関しては用意出来なかった私が悪い。
現地で調達出来たのはお前の功績だ、誇っていい」
「はっ!」
そこで話を切るとガーネリフ隊長は改めてこちらに顔を向けた。
さすがに今度は僕が話さないといけなさそうだ。
「それでララと言ったな、お前にも話を聞いてみたい。
障壁を張って事態を収束させたという話だが本当か?」
「はい、魔法障壁を張って魔物の侵入を防ぎました」
「魔法障壁だと?物理障壁ではないのか?」
「魔法障壁です。
魔物は魔力と魔法で構成されているため物理障壁だとあまり効果がありません」
魔力と魔法、どちらも物理障壁を素通りできるという訳ではないが効果は薄い。
特に魔力の方は魔法で作った物理障壁ではほとんど意味を成さないだろう。
同じ魔力で構成された魔法か金属の武器で直接叩くのが一番有効と言えるはずだ。
「では魔物が障壁に集まって来た事については?」
「憶測ではありますが…魔物は魔力が高い物を攻撃するように指示されていたのではないかと」
これなら辻褄が合うのだ。
森を出て来た魔物が二手に分かれたのは封印処理班の魔導士の魔力と、僕とリリナの魔力、どちらを攻撃するか迷ったからだろう。
そして魔法障壁を発動した後は障壁とその先にある僕とリリナの魔力に惹かれて一気に集まって来たのだ。
「その意図についても分かるかね?」
「ガーネリフ隊長ももうお気づきだと思いますが…封印処理班を攻撃するのが目的だったと思います」
「やはりか、魔物がそこまでの戦術を取れるとは思いたくなかったがここまで状況が揃ってしまえばさすがに否定も出来んな」
そこで一旦会話が途切れた。
ガーネリフ隊長もなにやら考え込んでいるがいつまでもこうしている訳にもいかないだろう。
レオーネさんが続きを促した。
「隊長、私は魔法の事にあまり詳しくないのですが残った2名の魔導士で封印は出来ないものなのでしょうか?」
「それは無理だな、封印用魔法である『真実の木』は最低でも5名以上の魔導士がいないと発動出来ない」
「では魔導士をレオンリバーから新たに呼べば良いのでは?」
「『真実の木』は特殊な魔法でな、専用の訓練を受けている者でないと使えない。
レオンリバーに居るのは連れて来た8名だけだ、本国から呼ぶとなると…私の裁量だけでは半月近く掛かってしまうだろう」
封印処理の魔法か…そもそも魔核ってどんな物なんだろうか?火石や氷石なんかの核とは別物なのかな?
見てみたくはあるけれどさすがに無理だろうな…ん?
「た、隊長、大変です!まっ、魔物が!魔核が!」
息を切らせた隊員が1人慌ててテントの中に駆け込んできた。
「どうした、そんなに慌てていては何も分からんぞ。
ゆっくりで良いから落ち着いて話せ」
その言葉で会議の場に乱入してしまった事に気付いたのか慌てて報告の形を取った。
隊員の話を要約するとこうだ。
報告に来た隊員を含む5名で魔核の見張りをしていたところ、魔核が急に黒い光を放ち始めてそれと同時に魔物の襲撃を受けたというのだ。
魔物の数は正確には分からないが10以上はいたとの事で班長の判断により即座に撤退。
山を下りた所で急に魔物の追跡が止んだ為、不思議に思った隊員が確認したところ…
山を守るように魔物が巡回していた…と、これはつまり魔核を守っているって事だろうな。
「そういう事か…クソッ!私は完全にやつらの罠に嵌まったという事か!」
「どういう事ですか隊長?魔核を取られたことは確かに問題ですが数ではこちらが有利です。
魔物など蹴散らしてしまえばすぐにでも魔核を奪取出来るでしょう」
「レオーネそれでは意味がないのだ。
魔核を封印出来ない以上こちらは守る事しか出来ない」
レオーネさんの言い分は間違ってはいないがそれをしても魔物は一旦引くだけだろう。
向こうからしたら弱点である魔核の安全は保障されたのだ。
後は隙をついて仲間を増やしていくだけで良いのでこちらとやりあう意味が無い。
しばらくの沈黙の後、それを破ったのは意外にもリリナだった。
「あの、そもそも魔核ってどういう物なんですか?」
「ああ、魔核というのは…まあ諸説あるけれど一番有力なのは怒りや妬み、恨み等の悪意が形になった物と言われているよ。
生き物の強い感情は魔力を集めやすいからね、それが集まった魔核はかなりの魔力を秘めているんだ。
私たちの封印魔法、『真実の木』なんて大層な名前が付けられているけれど要は魔核の魔力の抜くための魔法なんだよね」
リリナの質問に答えてくれたのは生き残った魔導士の1人だった。
なるほどね…魔核がどのように機能しているのかは不明だが動力となっているのはやはり魔物と同じ魔力のようだ。
機能を停止させるには魔力さえ抜いてしまえば……んー…?
「「「魔力さえ抜いてしまえば…?」」」
僕とリリナ、クリフの声が重なった。
それはそうだろう、つい先日やった事なのだから忘れているはずもなかった。
僕達3人は顔を見合わせて頷いた。
「ガーネリフ隊長、僕から1つ提案があるのですが」
今回は大分短くなっていますが次で1章のラストまでやります。




