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第14話 狙い

 軍の人達が森に入ってからけっこうな時間が経っていた。

 本部の様子を見てもまだ動きがないらしく捜査開始時から誰も動いていなかった。


 見回りをしている冒険者たちも何事も起こらない村の様子に緊張を緩めて来ていたが、クリフとカレンさんの二人だけは魔物の脅威を知っているので他の冒険者のように緩んだ様子はなく適度な緊張を保っていた。


 ん?クリフは何を見ているんだ?


 ふとクリフが立ち止まって森の方を睨んでいるのに気付いた。

 視線の先を追ってみたが特に何かがあるようには見えなかった。…だが、



「来た!魔物が出たぞーーー!!!」



 クリフの叫びと同時に森から複数の影が飛び出して来るのが見えた。


 飛び出してきた魔物は全部で10体以上、大型の猪タイプは1体だけだが小型のやつでも十分な脅威だろう。



 まずい!まさか森を出て来る奴がいるなんて!軍の人達は何をやっているんだ!




 ―――――――――――――――――――――――




「リリナ!森から魔物が出てきた、逃げるぞ」



 危険だと判断した僕はさっそくリリナと一緒に逃げようと思った。だが、



「えっほんとに出てきちゃったの?早すぎるよ…

 …兄さん!少しでいいから時間を稼いで、すぐに準備するから」


「はっ?何の準備をするって言うんだ?いいから早く逃げるぞ!」


「いいから!大丈夫だから少しだけ抑えてて!」



 何故かリリナは逃げようとしなかった。

 何か考えがあるのかもしれないがどうするつもりだ?


 リリナの考えは分からなかったが放っておくわけにもいかないので言う通り時間を稼ぐしかないのだろう。

 念の為に朝から作っていた秘密兵器の準備をしてから再度外の様子を窺ってみた。


 森の外に出てきた魔物は最初、鼻を鳴らして臭いを嗅ぐような動作をしていたがしばらくすると二手に分かれて駆けだしていた。

 半分は軍の本部テントへ、そして残りは何故かうちの店へ向けてだった。



「行かせねえ!!」



 クリフが勇敢にもうちの店へ向けて駆けていた魔物の前に立ちふさがった。

 だが1人で複数の相手を止める事など出来るはずもなく、先頭を走っていた鹿型の魔物を止める事しか出来なかった。

 他の冒険者も魔物の進行を止めようとしていたが初めて見るその異形に竦んでしまっている。

 特に大型タイプの突進を止める事は誰にも出来ず、そのまま店の中まで突撃されてしまった。



 ドガシャーーーーッン!!!



 扉と言わず壁と言わず吹き飛ばされ轟音と共にその巨体が店内に侵入してきた。


 くそっ!あんなのどうしろって言うんだよ!


 今すぐにでも逃げたかったがリリナの部屋の方に行かれてはまずいので狙われるのを覚悟で魔物の前に飛び出した。

 僕を見つけた魔物はゴォォォォーーーーーッ!!と奇妙な鳴き声と共に突進して来た。

 だが狭い店内であり周りの商品や魔道具の入ったケースにも邪魔をされて大したスピードは出ていなかった。



「あぶなっ!」



 スピードが出ていなかったからなんとかかわすことが出来たがこの狭い店内だといつかは捕まってしまうだろう。


 ならこれでどうだ!


 再度突入の構えを見せた魔物に対して、右手に構えた秘密兵器に思いっきり魔力を込めてから投げつけた。

 それは魔物の前で大きく広がってからその巨体に覆いかぶさる。


 僕が投げた物、それは網だ。

 もちろんただの網では無い。

 金属で作られた網の各所に以前シアさんの治療で使った時の雷石の欠片を取り付けてある。

 これに魔力を込めるとどうなるかは当然…


 ガァァァァァーーーーッ!!!  ガァァァァァーーーーッ!!!


 網を被せられた魔物はさらに奇妙な声をだしながら全身をバチバチと言わせていた。


 魔物相手だとせいぜい足止めに使える程度か…。


 人間相手なら行動不能に出来るくらいの威力はあるはずなのだが魔物には有効打になっていないようだった。

 それにこれは効果時間が短い。

 魔力効率の悪い雷属性なので威力と引き換えにすぐに籠めた魔力を使い果たしてしまうのだ。


 まだか…?網はもう1個あるがこれを使ったらもう手が無いぞ。


 クリフ達冒険者の様子を見てもまだこちらに加勢出来そうな状況ではなかった。

 善戦しているようだが軍のテントに向かった魔物の対処もあって人手が足りていないようだ。


 やばいな…もう効果が切れるぞ。


 猪の魔物にかかった網の魔力を見てみたが後10秒もつかどうかだ。



「兄さん!準備出来たから来て!」



 ぎりぎりのタイミングで店の奥からリリナが出て来た。

 動き出そうとしていた猪の魔物に向かってもう一度網を投げつけてから店の奥へ向かった。



「こっち!私の部屋に入って!」



 リリナの指示に従い部屋の中に駆け込んだ。

 すぐに扉を閉めてがこんな物では魔物相手になんの意味もなさないので何か手があるのだろうが…。



「どうするんだ?少ししたらあいつが動きだすぞ」


「これを使う、もう準備は出来ているから兄さんも一緒にやって!」



 言われてその手に持つ物を見ると……なんだこれ?見た感じ範囲型の魔道具っぽいがなんとも厳ついデザインをしていた。



「よく分からんががそれを起動させれば良いんだな」


「うん!ここに設置するから一緒に魔力を籠めて」


「はいよ!」



 魔道具の用途はまだ分からなかったがリリナが言うのだから現状を打開出来る物なのだろう。

 部屋の中央に設置された魔道具に手を置いて魔力を注ぎ込む。

 2人分の魔力を注がれた魔道具はほどなくしてその効果を発揮し始めた。



「これは…障壁か?魔法障壁っぽく見えるけど随分と効果が高そうだな」


「まーね、軍の横流し品だから性能は折り紙つきだよ」



 軍のって…リリナはたまにどこから仕入れて来たのか分からない物を持っているんだよな…

 僕の知らない所で誰かと取引してるっぽいが聞いても「秘密」と返されるだけだった。



「だがこれって魔法障壁だよな?これで魔物を防げる物なのか?」


「うん、前にシアちゃんの治療の時に気付いたんだけどさ、魔物を構成しているのって厳密には魔力じゃなくて魔法なんじゃないかと思うんだ」


「そうなのか?魔物を見た時に強い魔力は感じたが魔法を発動させているようには見えなかったがな…」


「それは多分漏れ出ている魔力が強すぎて発動されている魔法が見えなかっただけだと思う。

 実際に魔力で構成されているのは一部だけなんじゃないかな?」



 一部…おそらく弱点であるあの本体部分の事だろう、あの部分以外は魔法で構成されているという事か?



「それにさ、シアちゃんの治療の時に気付かなかった?

 レノンさんは私たちが場所を教えていないのに治療に参加してたんだよ」



「……あっそういうことか!確かにそれなら魔法障壁で防げる事になるな」


「そゆことー、分かったなら気を抜かないで魔力を籠めててね」


「はいよ」





 実際障壁の効果は絶大だった。

 リリナの部屋を覆うような形で展開していたのだがその中に魔物は入って来れなかった。

 動けるようになった猪の魔物が突進してきたが障壁に触れた瞬間に弾き飛ばしてしまうし、どういう訳か集まって来た他の魔物も障壁を突破することは出来ないようだ。

 そして、そのうちに追いついて来た冒険者と森から出て来た軍の人間によって核を破壊され16体居た魔物は全て倒されたのだった。




 ―――――――――――――――――――――――




 核を破壊された魔物はすぐに隔離された。


 冒険者ギルド内でクリフ達が持ち帰った情報が公開されており、冒険者達は倒した魔物が一定時間で破裂する事を知っているようだった。

 しばらくすると大きな破裂音が響いたので確認をしたが、魔物が隔離されていた場所にはほとんど痕跡らしい物が残っていなかった。


 ふむ…やはり魔法と魔力で構成されているという事で間違いなさそうだな。



「にしても最後のあいつらなんともおかしかったな。

 障壁に突撃するばっかりで俺らの事がまるで見えていないようだったし」


「そうだな、だがおかげで仕留めるのは楽だったから良いじゃないか」



 冒険者達が話しているように障壁を張った後の魔物の行動はおかしかったらしい。

 対峙していた相手を無視するように走り出してひたすら障壁に突撃していたという事だ。

 当然そんな隙だらけな状態なら核を破壊するのも容易だ。

 弾き飛ばされて来た所で核を攻撃するだけだけで終わる。


 だが問題なのは魔物の行動だ…あいつらが何を目的としているのかがいまいち分からなかった。

 最初に現れた時に二手に分かれたのも何か理由があったのだろうか?



「あっそれより皆ケガとかはしていないの?」



 あんな数に襲われたのだ、さすがに全員無傷ということはあり得ないだろう。

 見た所大きな傷は無さそうに見えたが以前のシアさんのような例もある、まだまだ情報の少ない敵なので油断は禁物だろう。



「俺たちは大丈夫だ…だが…」



 クリフは若干言いにくそうにしていた。 

 そしてその続きを教えてくれたのは軍のテントの方に行っていたカレンさんだった。

 


「……軍の魔法使いが6人殺されたわ」


「!?……そうでしたか、でもカレンさんが無事で良かったですよ」



 犠牲が出てしまったのは残念だが見ず知らずの人よりも知り合いが生き残ってくれた事は嬉しかった。

 だがカレンさんはそう割り切れるものではないようでかなり落ち込んでいた。



「私の力じゃ1体を抑える事しか出来なかった…」


「そんな、カレンさんは何も悪くねえよ!俺たちじゃ二人がかりで1体が限界だったんだ…」


「そうだ、それに俺たちの本来の役割は村が襲われた場合の警護だ。

 本部の護衛に人を割いていなかった軍の怠慢だろうこれは」



 カレンさんと一緒に軍のテントに向かった2人に話を聞いてみた。


 7体現れた魔物に対してカレンさんが1体、二人の冒険者で1体を抑えていたという、これは経験の差もあるだろう。

 本部の護衛もまったくいないという訳ではないが残りの5体を抑えるには人数が足りていなかった。

 もちろん魔法使い達も援護をしていたのだが、前衛を突破された魔法使いでは魔物の攻撃を防げるはずもなくうちの店から障壁が発動するまでに6人が犠牲になってしまったという事だ。



「でもあいつらなんかおかしかったぜ、

 多少ダメージを受けてでもきっちり止めを刺そうとしているようだった」


「そうだな…それに兵站部隊や連絡員のやつらには目もくれず魔法使いのだけを狙っているようだった」 



 魔法使いだけを…うちの魔法障壁に突っ込んできたのと何か関係があるのだろうか?


 先ほどからの魔物の奇妙な行動がどうにも引っかかっていたがその答えはすぐに分かる事となった。

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