5章幕間5 完遂
コビ
つまらない結末だ。
計画を達成した俺は今レオンリバーを離れ王都に向かっている。
目的は特にない、何か面白いものでも探して無ければ適当に王都の人間でも殺して遊ぼうというだけの理由だった。
「おい、王都には勇者がいるんだぜ? 止めねーのか?」
〈好きにするがよい、何なら次の遊びには全面的に協力してやっても良いぞ〉
「…なんだよ、えらく楽しそうじゃねえか」
俺の中にいる魔核の意思は上機嫌に言葉を返してくるが、俺にとってレオンリバーでの結末は少々物足りないものであった。あの男を殺す事も目的とはしていたが俺にとってはついでとも言えるもの、本来の目的は中途半端なままで終わってしまったのだから。
計画通り…か、こんなものかね。
最後の攻撃のターゲット、あれの対象は元々決まってはいなかった。戦いで活躍し注目を浴びたやつを狙いそれを庇わせる事であの男を殺すという大雑把なものだ。
やつの妹を狙う事になったのはこいつから聞いたゴーレム関係の情報と、そして何より妹を庇ってという演出がなかなかに盛り上がると思ったからである。
「まあ俺も楽しめたっちゃ楽しめたがな…」
結果を言えば中々に面白い絵が見られたと思うが…先に考えた通り俺としてやはり少々物足りない結末であった。
事前に日時や攻撃手順などを伝えたのは一方的な戦いになってはつまらないと思ったからだが、軍の魔導士や後方支援が思っていた以上に優秀だった事で想定よりも被害が抑えられてしまい、その結果としてガーネリフによる反撃を許してしまった。
それ自体はもちろん失態だったのだが…。
「…失敗したほうが、もっと楽しめたかもしれねえな」
作戦通りに行った最後の攻撃の時よりも感情が昂ぶったのは間違いないだろう。
最後の攻撃を失敗していたらおそらく再度レオンリバーを攻める事になったはず。
そうなったら今度は抵抗も出来ないような数の魔物を用意しあのガーネリフとレオーネを含む街の連中を皆殺しにするなんて遊びも良かったかもしれないなと思った。
〈今さら何を言うか、それに失敗が楽しいはずはなかろう〉
しかしそれはもう終わったことだ。
中核となる目的なしに襲ってもいまいち盛り上がりに欠けるし、これから魔物を増やしていけば自然とレオンリバーの街も、そしてこの国も滅ぶ事だろう。
…そういえば、あの妹の方は殺し損なったがどうなったのかね。
あの時の事を考えていたからか、ついでに殺してやろうとして仕留めそこなった妹の方を思い出す。怪我の方も軽くはなかっただろうが、自分を庇った兄がどうなったのかを知ってどんな反応を示したのだろうかと少し気になった。
ゴーレムの邪魔をされた事はむかついたが…良い報復になったかもしれねえな。
もう一度行って直接殺しても良かったのだがこの方が報復としてはより効果的だったかもしれない。あの娘が兄の死にこれからどれだけ苦しむのか…なかなか良い物語になりそうであった。
「…こっちの方が面白そうだな」
〈何かは知らんが…王都に行くのであろう?〉
「おっと、そうだったな」
だが、あの娘もいずれは増えた魔物に殺されるだろうし、今の俺にとっては王都が楽しめる場所であるかの方が重要な事だ。あちらにならレオンリバー以上の手錬もいるだろうし何よりも勇者がいるので最高に楽しい殺しが出来るかもしれないのだから。
「さてと、まずはどんな魔物を用意すっかね? やっぱりレベル持ちの方が面白いしそれで軍勢を作れば勇者だろうと…」
でもそれが終わったら次は…俺は何をしたら良いのだろうか? 村や街を、国を滅ぼしていくのは楽しいかもしれないが、レオンリバーを襲撃した時の様な高揚はもう二度と味わえないだろう。
そうして世界を、全てを滅ぼす事が出来たとしても、目的を完遂した先にはきっと…何の面白みもない世界が残っているだけだろう。
…本当につまらない結末だ。




