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第10話 嵐を終えて(後編)

 魔物が討伐されてから2日後、村でちょっとした宴があった。

 解禁された狩猟にはクリフやカレンさんも参加して大量の獲物を獲って来てくれた。

 シアさんも参加したそうにしていたが病み上がりという事もあり周囲の反対により断念していた。


 ちなみにシアさんには治療の事は内緒にしてある。

 診療所の先生がやったならともかく医者でもない僕が治療したとなれば何をやったのかと思われるだろうし、服を脱がせて治療した事を年頃の娘さんには言いにくい。

 レノンさんはきちんと伝えてお礼を言わせたかったようだが僕の方からお願いしたら渋々引き下がってくれた。


 村の宴会では僕も色々と料理を作った。

 材料も豊富にあり食事をする人数も多かったので久々に腕を振るう事が出来て楽しかった。

 

 クリフ達も僕の料理を食べて知らない味に驚きつつも美味しそうに全部平らげてくれた。

 レノンさんは調理方を教えて欲しいと言ってきたので少しだけ香辛料を分けてあげた。


 クリフ達は明日には街へ帰るそうなので、今日は目一杯楽しんでもらえるように頑張った。




 ―――――――――――――――――――――――




 宴は夜遅くまで続いたが、お酒も大分入っていたので大半の人は潰れてしまっている。


 クリフとハンスは飲み比べをしていたのか双方共に早い段階でぶっ倒れていた。

 そしてそんな二人を介抱しながらレノンさんは村長達とゆっくりお酒を楽しんでいる。


 カレンさんは最初お酒の飲んでいなかったのだが夕食をとりにやってきたリリナを見つけるやいなや二人分のお酒を持って誘いに行ったようだ。


 カレンさん大丈夫かな…リリナ、年の割にはけっこうお酒に強いからな。




 くいくいっ


 そんな事を考えつつ残ったお酒を飲んでいると不意に袖を引っ張られた。

 振り返ってみると先ほどまで見かけなかったシアさんがそこにいた。


 僕をじっと見つめるその瞳は最初に見た時と同じ青い輝きを放っている。



「えっと、僕に何か御用でしょうかシアさん」



 僕を見つめたまま何を言ってこない彼女にこちらから声をかけてみた。



「…来て」



 シアさんはそれだけを発して僕を見つめている。

 意図は良く分からないが付いて行けば良いのだろうか?


 一応レノンさんに伝えておいた方が良いかなと思いそちらに目を向けると、レノンさんも気付いていたのかこちらに頷きだけを返してくれた。


 問題ないみたいだな。


 そのままシアさんが歩き出したので慌ててついて行く。

 しばらく歩いていると村に1箇所だけある花畑についた。

 村の様々な場所に飾る為にミリアさんが世話をしている所だ。


 シアさんは花畑の中央まで歩いてからゆっくりと振り返った。

 月明かりに反射して煌めく銀の髪と青い瞳、最初に出会った時と同じ薄紅色のワンピースから覗く白い肌。

 その姿はさながら花畑に現れた妖精のように幻想的で、現実感の無い美しさを体現していた。



「綺麗だ…」



 はっ!

 まずいまずい…つい見とれてしまっていた。

 さすがに成人していないような子供相手に持っていい感想じゃないよな…聞こえていないようで良かった。

 


「お礼…」



 こちらの心情に気付くこともなく唐突に切り出してきた。

 お礼?

 思い付くのは治療を行った件くらいだが一応内緒にするようにお願いしたはずだ。



「シアさんにお礼を言われるような事は何もなかったと思いますが」


「助けて…くれた」



 首を横に振ってからこちらを問い詰めるように近づいてきた。

 近くで見ると余計にその美しさが際立つが、内心の動揺を悟られないように努めて平静を装った。


 シアさん言う助けてくれたというのはやはり治療の件で間違いないだろう。

 でも誰から聞いたのだろうか?

 クリフ達は話さないだろうし先生にも同じようにお願いしてある。

 残りはリリナくらいだけどシアさんはリリナの事を知らないはずだ。



「えーっと…シアさんはどなたからその事を?」



 そう聞いてみたがシアさんは首を左右に振ってから答えた。



「…聞いてはいない、けど…私の中に入って来た魔力はあなたのものだった」


「魔力?」



 おそらくは治療時に注いだ魔力の事を言っているのだろうがそれで僕を特定したのだろうか?


 魔力には固有の波長の様なものが存在しておりそれによって個人を特定する事も可能ではある。

 だが理論上可能であるというだけでそれを感じ取ることは普通の人にはまず無理だ。

 僕も発動直後のリリナの魔法なら判別出来るがそれ以外の物の違いは分からない。

 二日経った今でもそれが分かるという事は魔力感度が異常に高いか何らかの特別な能力を持っているのだろう。



「…あの時、何も見えない私の手を引いてくれたのはあなただった。

 …だから……その………ありがとう…」



 恥ずかしそうにお礼を口にするシアさんは先ほどまでの幻想的な雰囲気とは違い、年相応の女の子の姿だった。



「お気になさらないでください。

 シアさんの治療を引き受けたのはクリフから頼まれたからであってきちんと報酬は頂いてますので」



 これには多少嘘が混じっているが方便だ。

 命を救われるような恩義は子供のシアさんにはまだ重すぎるだろう。



「……」



 シアさんは胸に手を当てたまま何かを考えているようだった。



「…分かった。

 でも、私の事を助けてくれたのはあなた、だから…ありがとう」



 そこまでを告げるとシアさんは踵を返して宿の方へ歩いていった。

 最後の表情が少しだけ怒っているように見えたが気のせいだろうか?




 宴会の会場に戻るとレノンさんとリリナ以外は全員酔いつぶれていた。

 お酒に強い二人はお互いに酌をしながら未だに飲んでいたが、さすがにそろそろお開きにしないとまずいだろう。

 村長達やハンスは各々の家に応援を呼んで連れて帰ってもらった。



「レノンさん、そろそろ終わりにしませんか?

 リリナも、以前二日酔いで苦しんだのをもう忘れたのか」


「そうですね、明日には村を出ることになるのでこのあたりで終わりにしておきましょう」



 レノンさん…多分一番飲んでたと思うけど全然酔ってる様子がないな。

 それに比べるとリリナは…



「だぁいじょーぶだぁいじょーぶ、その為に二日酔いの薬作ったんだからー」



 なんとか意思の疎通は出来るようだが大分酔いが回っているようだった。



「先にクリフとカレンさんを運ぶから終わるまでちゃんと待ってろよ」



 この状態のリリナを一人にするのは心配だったが宿は目と鼻の先くらいの距離なのでさっさと運んでしまおう。

 

 僕とレノンさんでカレンさんとクリフを運び会場に戻ると、リリナは机に突っ伏して眠っていた。



「おーい、起きてくれてー。

 さすがにお前を抱えて家までは帰れないぞー」



 細身ではあるが僕とほとんど変わらない身長のリリナを抱えていくのは難しい。

 ここから店までは少しだけ距離があるので多分途中で力尽きるだろう。

 体力が無い自分に情けなさを感じるが嘆いていても始まらないのでさっさと起こして帰ろう。



「ほら帰るぞ。

 もう誰も残っていないんだから早くしてくれ」


「う…ん…にーさん…?

 ん、…おぶってかえってよー」


「甘えた事言ってないでさっさと立て」



 一応起きてはいるようだが酔いも手伝ってか言動がなんだか幼くなっている。



「もー、たまには甘えさせてくれても良いじゃんかー」


「お前はいつも甘えているだろうが」


「ちぇー、しょうがない…わっとっとっ…ひゃ!」


「おっと!」



 足をもつれさせて正面から抱き着く様に倒れ込んできたので支えてやる。

 さすがにこの状態だと一人で歩くのは難しいかもしれない。



「ほら、肩貸してやるからさっさと帰るぞ」


「ごめんね」



 そのまま一緒に歩き始めたが、半分を過ぎたあたりでリリナの方から声が聞こえた。



「お父さん…お母さん…」



 酔いと眠気もありおそらく無意識でしゃべっているのだろう。

 でもこの言葉は普段口にはしないリリナの本心が漏れ出たものなのかもしれない。




 僕とリリナが故郷の村を出たのは3年前で僕が16でリリナが11の時だ。村を出る事自体は故郷の仕来りのようなものだったが、11歳のリリナにはさすがに少し早かったのかもしれない。

 父さんと母さんがどう思っているかは聞けなかったが…それでも、あの時の僕を気遣ってくれたのだろう妹は僕と一緒に村を出る事を選んだのだ。


 …でもやっぱり無理をしていたのだろう。甘えたい盛りに親元を離れる事になったのだから仕方のない事だ。先ほどリリナも言っていた通り、時には思いっきり甘やかしてやるのも良いのかもしれない。




 ―――――――――――――――――――――――




 翌日

 僕とハンスはクリフ達の見送りに来ていた。

 他で来ているのは村長のビレムさんと御者の人だけで、後の皆はいつも通りの生活に戻っているようだった。

 一応リリナにも声を掛けたのだが案の定二日酔いになった為、薬を飲んで寝込んでいた。



「それじゃまた一緒に飲もうぜ!」


「おう!街に行った時には必ず!」



 クリフとハンスが握手を交わして別れの挨拶をしている。

 どうやら昨日の宴会でかなり意気投合したらしい。

 横ではカレンさんが何か汚い物でも見ているような目つきで見ていたが一体何をしていたのやら…



「それでは、短い間でしたがお世話になりました」


「いえいえ、また何かあったらよろしくお願いします」



 レノンさんとビレムさんはいかにもな社交辞令の挨拶を交わしていたが、お互い良い結果になったので本心から言っている所もあるだろう。



「ララ、お前にも世話になったな」


「うん、ララさんが居なかったら多分このパーティーは続けられなくなってたと思う」


「いえ、こちらこそ魔物の討伐を迅速に対応してもらって助かりました」



 実際助けられたのは僕たちだろう。

 クリフ達からすれば無理に危険度の高い依頼を受ける必要はなかったのだ。

 それでも依頼を受けてくれたクリフ達の為に僕らが出来る事で手助けをするのは当然の事のように思えた。



「……」



 視線感じてそちらに目をやるとシアさんがこちらを見つめていた。

 僕と目が合うと視線を逸らしてしまうが何度も視線を送ってきているので僕でも気づくことが出来た。

 結局は何も言わないまま馬車に乗り込んでしまったが何か言いたいことでもあったのだろうか?



「うーん…嫌われちゃったかな?」


「あれはララさんに興味があるだけだと思うよ?」


「うわっとっと、

 カレンさん、独り言に急に入って来ないでくださいよ」



 僕の独り言に真横から返答が来たため驚いてしまった。



「えー、でもララさんがあまりにも的外れな事を言ってるからですよ。

 昨晩のララさんとシアちゃんの間に何があったかは知らないけれど嫌っているって事はないと思うよ」



 気付いていたのか…。

 リリナに夢中でこちらの事は眼中にないと思っていたのに。



「シアちゃんとお話ししないの?」


「うーん…今はやめておこうかな」



 カレンさんの言う通り嫌われていないとしても今は避けられてしまっている。

 それにシアさんの意図が分からない状態で話をしてもまた怒らせてしまうだろう。


 もしかしたらもう会うような機会は無いかもしれないが会おうと思えばいつでも会えるような距離だ。

 次に会うような事があったらその時にはシアさんの思っている事を聞いてみるのも良いかもしれない。


 そうこうしているうちにクリフ達が出発する時間になった。

 今生の別れというわけではないがここ数日が騒がしかっただけに寂しく感じてしまう。

 ハンスと違い街に行く機会の少ない僕が彼らと再会することはなかなか無いだろう。




 …そう…()()()()()()()()()()()()()()()()()





余談

 宴から数日後のこと


 宴の帰り、寂しそうだったリリナの為に今日は甘やかしてやる事にした。



「リリナ、今日は僕の事を父さんだと思っておもいっきり甘えても良いぞ!」


「え?…急に何を…?………あっ!」



 宴会の日の事を思い出したのだろう。

 普段見せない姿だっただけに恥ずかしさで顔を赤くしていた。



「ほら、何して欲しい?膝枕でもしてやろうか?」


「バカ!!兄さんはやる事がいつも極端過ぎなの!」



 グーパンで怒られてしまった。

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