制服の想い出
ふとしたときに脳内にちらつく後ろ姿。
猫背気味に左右に少し揺れながら歩く姿。
いつまでたっても色あせない私の気持ちは思い出の中に閉じ込めたはず。
まだ制服のスカートを揺らしていたころに好きになった人。今思えばただ恋に恋していただけかもしれない。だけどあの時の私にとってはきらきらと輝いている気持ちだった。
友達と廊下を歩いていたら、後ろ姿を見かけたので友達と顔を見合わせにっと笑い走って追いかけ声をかける。
「先生っ」
「おぉ~、なんだお前たちか」
「ふふふっ」
2人して先生に向かって笑顔を向けそのまま走り去る。
「おーい、あんまり走るなよ~」
先生の緩く注意する声が追いかけて来て、私たちは更に笑う。
スカートを揺らして走る。それが私たちの特権だとでもいうように。
何故友達と私が先生を気に入ったかは思い出せない。この「お気に入り」という表現は上から目線だということも今でははっきりとわかりあの頃の自分がただ恥なのだが、あの頃の友達と私の気持ちにはこの「お気に入り」がぴったりだった。
私の恋心というものを友達やいろんな人に対して隠すのにとてもぴったりだった。
「先生見たら何故か笑っちゃうよね」
「ね~。あれかな?箸が転がっても笑う年頃っていうやつかな?」
「たしかにそうかも」
また二人で顔を見合わせふふふと笑った。
そしてまたスカートを揺らして走った。どこに行くかも話し合ってないのに迷路のような廊下をただ走った。
最初は遠目からでも姿を見れるだけで嬉しかった。その日1日はハッピーな気持ちで過ごして、会話が出来た日は何でも出来そうな気持ちになった。
姿すら見れない日は「今日は見れなかったな」程度の気持ちで過ごしていた。
だけど、欲っていうのは大きくなるもので、先生から話しかけてくれないかな、あわよくば触れてくれないかな、と思うようになっていった。
そんな風に私の欲が大きくなっていっているときに、ふと気づいたのだ。先生は私よりも友達に気軽に話しかけている、ということに。私のキャラじゃダメなんだ。友達みたいに皆から気軽に話しかけてもらえるキャラじゃないと。
「ねぇ」
私は友達に話しかけた。
「なぁに」
「どうしたらあなたみたいになれるのかな」
「いきなりどうしたの」
友達は少し驚いた顔をした。
「私、あなたみたいになりたいの。好きな人に好かれたいの」
「お、これは恋バナの予感~」
友達は呑気にそう言う。これが憧られる者の余裕か。
「ごめん、言葉間違った」
私の言葉に友達はきょとんとした顔をした。
「好き、じゃなくて憧れ、ね。あ、こ、が、れ」
私はあくまでもこれは恋ではなく憧れの感情なのだということを主張した。いつも一緒にいる友達だが、先生を好きなことがばれると一緒に先生にちょっかいかけたり、話しかけたりしにくくなる。それはできるだけ避けたい。
そして、誰に憧れているのかという『誰』のところもなるべくバレたくはない。
「ふ~ん」
と友達は半信半疑の声を出したが、とりあえずは憧れの人ということで聞いてくれるみたいだ。
「で、誰なの?」
「い、言えない……」
「ちょっとー。今のは言う流れでしょ」
「そうなんだけど……」
「で?」
「言えないったら言えないっ」
私はそう言って走って逃げた。待ってよーという声が聞こえた気がしたがそのまま走って逃げた。
夢中で逃げていると、ドンっと誰かにぶつかってしまった。
「うっ。す、すいません」
ぶつかった衝撃でつむった目を少しずつ開きながら私は相手に謝った。
「なんだ、またお前か。あんまり走るなと言っただろう」
私がぶつかったのは先生で、呆れた顔でこちらを見ていた。
「はい……」
先生はふうとため息を吐き、「あいつにも走るなって言っとけよ」と言ってそのまま歩いて行った。
だけど、先生が歩いて行った方角は私が今あの子から逃れるために走ってきた方角で、ということは順当に行けば先生とあの子は会うということだ。
私が先生に呆れられた場所から動かずに、先生の背中を目で追っていると、流れは順当に進んだようであの子と先生は出会った。
「あ、先生」
「お前なあ。あいつにも言ったがあまり走るんじゃないぞ」
「はあーい」
あの子は特に反省する様子もなく、先生に呆れられた空って落ち込むこともなく返事をしている。
あの子のああいうところが、人を気軽に引き寄せるんだろうなと思いながら、私は二人の姿から目をそらした。
そしてそのまま走った。後ろから追いかけられているのはわかってるし、あの子の方が走るのが速いのもわかってる。
けれど逃げたかった。 この空間から。 だからただ走った。




