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身勝手と身の可愛さと


「何を話し合おうと言うのかしら」


 姿勢を正した女は、厳かに言った。


「えーっと、まず、私の左目が妊娠していたとして、なんで私が殺されないといけないんでしょうか」


 顔色を伺いながら私が聞くと、クスリ、クスリ、と笑う。


「別に。あなたを殺すつもりはなかったわ。痛みを感じないうちに、あなたの子どもを殺そうと思っただけ」


「……母体の許可なしに堕胎するつもりだった、ということでしょうか」


 目の前にいる女が何の躊躇もなく、いきなりナイフを私の目に突き刺すつもりだったのかと思うと、改めて背筋が寒くなった。私は何とか話を続ける。


「そうなるわね」


 と。真っ直ぐに私を見つめながら言う女。まるで、どうってことないとでも言うように。私には、そのことが不思議に思えた。


「私が産むと言ったら、どうするつもりだったんでしょうか」


 私の言葉に女は端正な顔立ちで驚きの表情を浮かべる。


「産めるわけないわ。だって、何百もの小蝿の姿をした子どもなのよ。育てられるわけがない」


「小蝿が小蝿を育てているところを見たことがないんですが。何百匹と生まれるのは、すでにたくさん死ぬことが想定されているのでは……」


 私の言葉を聞いて、女は暗くうつむいた。さらり、と黒髪が流れて顔にかかる。


「死んで当たり前だって、おっしゃるの?」


「そう、ですね」


 死んで当たり前、という言い方をされてしまうと、自分がひどく残酷なことを言っているような気分になった。でも、その通りだと思う。


 私の言葉に激昂した女が髪を振り乱して、目を吊り上げて怒鳴る。


「でも、最終的には人間の姿になるのよ! 小蝿の姿をしていた時の記憶もゴキブリの姿をしていた時の記憶も持ったまま!」


「小蝿もゴキブリも本来は親に育てられることなく単独で育っていくものですから、人間の姿になった時に初めて私は親の顔をできるんじゃないかと……」


 感情の高ぶった女が、ナイフで刺してこないかと冷や汗をかく。でも、とりあえずナイフの先端は床を向いたままだった。


 でも女の言葉に、下手に同調はできない。言い負かされてしまったら間違いなく、私の左目は刺されて光を失ってしまう。


 一方で、感情的に胸を刺されでもしたら元も子もない。あまり感情的にさせるのは良くない。私は落ちついた声で話すように心がけた。


「でも親に、ぞんざいに扱われたら子どもは傷つくわ」


「きっと子どもを1度も傷つけない親なんていませんから。傷つけないことよりも、いかにフォローするかを考えた方が良いかと」


「でも、あなた。その辺にいる虫と自分の子どもとの違いはわかるって言うの」


「わからないかもしれませんが、小蝿とゴキブリの子どもが人間の姿に成長して会いにくる日まで、最低限それらを私が傷つけなければ良いのでは」

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