式の準備に追われる
話し合いが終わって部屋に戻ると、マリーナたちが待っていた。
「姉様おめでとう! 私も早く結婚したいわ!」
「アリスさまの年齢で結婚できる方は珍しいですから~、ユートさまに愛想を尽かされちゃダメですよ~?」
「うっさい! いきなり不安になるようなことを言うな!」
アリス先生の文句にも、レイラは涼しげだ。
「結婚って嬉しいの、アリス? なんで嬉しいの? 教えて」
「フィーリアにはまだ難しいんじゃないか? 行き遅れる恐怖を感じないと、アタシの喜びは解んないぞ?」
そんなに行き遅れたくなかったんだな~。
日本だと30歳過ぎても結婚のチャンスはあるけど、この世界だとチャンスはほぼ無いらしいからな。
それに、日本なら独身も珍しくないけど、この世界だと独身はキツいらしいからな。いろんな目が。
「私は行き遅れになるの? アリスより年上だよ?」
「リアはエルフでしょ? 500歳くらいまでは子供じゃない。人間は20歳くらいで行き遅れ扱いされるけど……」
行き遅れの辺りで、アリス先生がマリーナを睨んでいる。
見上げる形なんで迫力はなく、可愛らしいけど。
「アリスさま~、めでたい時にそんな顔をしてはダメですよ~」
ムスッとしたアリス先生の頬を、レイラが挟む。
結婚することを思い出したのか、アリス先生の表情がフニャっとなった。
「姉様いいな~。私も早く結婚したい。第2夫人でいいから……」
マリーナたちに話し合いの内容を告げる。
結婚式は個別にすることを知ったマリーナとレイラは、手紙を書き始めた。
「いきなり手紙を書き始めたな~。何を書いてるんだ?」
マリーナの手紙を覗くアリス先生に、マリーナが答える。
「父様に報告をするの! 旦那様のことを先に伝えておかないと、準備が大変だから……あと、姉様の気が変わらないうちに既成事実を作るの!」
「アタシはそんなに小さい人間じゃないぞ! やっぱりダメなんて言わないって」
不満そうなアリス先生を宥めたオレは、レイラのほうに目を向けた。
凄まじい速さで手紙を完成させて、早速出しに行こうとしている。
時間も時間なので止めたけど、レイラも行き遅れになりそうな年齢だもんな~。内心焦ってたのか?
「レイラは手紙を書くの速いわね?」
「毎月の仕送りに手紙を添えていますし~、ユートさまのことは既に知っていますから、詳しく書く必要がないので~」
マリーナの親には会ったことないしな。
オレがどういう功績を立てたか書かないと、結婚に反対されそうだしな。ぜひ詳しく書いて欲しい。
袖をクイクイ引っ張る感触に、そちらのほうを向くと、フィーリアがボーッとした表情でオレを見ていた。
「どうした? 何か知りたいのか?」
「うん。なんで結婚したいの? 一緒にいるのは同じなのに……」
そうだけど……言葉にするのは難しいな。
「そうだな……確かに結婚してもしなくても、オレたちは一緒にいるだろうけど……立場が変わるというか……それでできることも変わるしな。周りからの扱いも変わる。だからじゃないか?」
結婚すれば夫や妻として振る舞えるし、周りもオレたちを夫婦として扱ってくれる。
だから必要な制度なんだろうけど、気持ちの問題だろうな。なんとなく嬉しいっていうのが理由としか言えないな。
「よく解らないよ?」
「いつか解るといいな?」
こればかりは恋でもしないと解らないかもな。
翌日に、アリス先生と街に出掛けた。
ドレスの注文や指輪を作って貰うためだ。
教会にも話を通して、場所を借りないといけない。
変装して、2人で街を歩きながら話をする。
「それにしても……勇人がアタシと結婚を考えてたなんてな~。びっくりしたぞ?」
「まったく気付かなかったんですか?」
「アタシは11歳も年上だぞ? おまけに生徒だし、そんなふうに想ってくれてるなんて考えもしなかった」
今までもアリス先生は、別の男の気持ちにまったく気付かなかった可能性があるな。
だとしたら鈍くてよかったな。お蔭でアリス先生と結婚できる。
日本人はロリコンが多いと聞いたこともあるし、危なかったかもしれん。
「結婚のために金を貯めてたんですよ。男のプライドがあるので」
「アタシはお金よりも、早く安心させて欲しかったぞ? ずっと寂しく独り身かと思ってたし……勇人はマリーナと結婚して、アタシは格差を感じて生きていくのかと思って怖かった」
酒で誤魔化してたんだろうか? たんに呑みたかっただけだろうけど。
「それはすみません。オレも年齢差があるから、男として胸を張れるようにならないとダメだと思ったんです」
「そっか、お互いに年齢が悩みの種だったんだな~」
アリス先生は、話ながら手を伸ばしては引っ込めるということを繰り返している。
女子と手を繋いだこともない中学生男子みたいだな。
オレのほうからアリス先生の手を繋ぐと、オレを見上げてアタフタした。
「別に手を繋ぎたかったわけじゃないぞ?! 勇人が迷子にならないようにだ! 王都は人が多いからな!」
「そうですね。はぐれないためにも手を繋いだほうがいい。柔らかくて気持ちいいですしね」
「っ~~~~。変なこと言うな!」
すぐ真っ赤になるな。
微妙にツンデレだけど、騙されやすいから素直なのか? よく解らない人だ。
服飾店に着くまで、そんな感じでイチャイチャした。
「いらっしゃいませ。どのような服をお求めですか?」
店に入り、ドレスはないかとキョロキョロしていたら、店員がやって来た。
「アリス先生、デザインは決まってますか?」
「昨夜寝ないで考えたぞ!」
寝てないのに元気だな。
「え~と、彼女のドレスを作りたいんですけど、なるべく早く作れますか?」
「はい、勿論でございます。どのようなドレスを仕立てましょうか?」
店員が紙とペンを持ってきて、アリス先生に渡した。
「ん~、ここはこうして、下は短めに」
ミニスカートなドレスにするようだ。
スカートの前が短くて、後ろは長いな。
全体的にフリルが多いし、可愛いドレスがいいと言ったのを反映したみたいだな。
「それでフワフワの生地で、色は白がいい!」
店員を見上げて一生懸命イメージを伝えている。
それを店内にいた人たちが、微笑ましそうに見ていた。
結婚のためのドレスとは思ってなさそうな顔だな。
「ヴェールはうっすら透ける生地で作って欲しいぞ」
「華やかなドレスですね。社交界デビューでしょうか?」
アリス先生は社交界デビューするような年齢に見えてるようだ。
「違うぞ? 結婚式で着るんだ」
「それは失礼いたしました。ご結婚おめでとうございます」
アリス先生は、普段からゴスロリみたいな服を着ているので、貴族だと思われてるのかもな。
貴族なら、このくらいの年齢で結婚するのも珍しくないから、驚かないんだろう。実際には行き遅れと言われる年齢だけど。
「こんな感じで作ってくれ!」
「かしこまりました。ご予算はどういたしましょう?」
それをオレに聞くあたり、アリス先生は12歳くらいに思われてるんだろうな。
「予算は1000万シリンまでなら構いません」
「1000万シリンでございますか? 失礼ですが相場は120万シリンほどですが」
「1番いい布地で作ってください。先払いしておきますので、出来上がったら城まで届けてください」
金を払うと女性店員がやってきて、採寸のためにアリス先生をカーテンの奥へと連れていった。
「最終的なサイズ合わせは城で行いますか?」
「そうしてください。兵士には伝えておくので。名前はユートと伝えてくれれば分かるようにしておきます」
「ユート様でしたか。変装していらっしゃるので判りませんでした。気付きませんで失礼いたしました」
店員にくれぐれも内緒にしてくれるように告げて、アリス先生を待った。
採寸を終えたアリス先生が戻ってきたので、店員から領収書を受け取って店を後にした。




