月夜のプロポーズ
その場にいた女性たちに、肉食系女子のような目で見られたオレは、そそくさとドラゴンをしまい、みんなを連れて部屋に逃げ帰る。
手を出されないようにドラゴンを見せたけど、別の意味で手を出されそうだ。
殴れないぶん、そっちのほうが厄介な問題になりそうな気がする。
これは早いとこ結婚したほうがいいな。一夫多妻制とはいっても、効果はあるはずだ。
少なくとも結婚を申し込まれた時に、妻がいるので、という断り方ができるようになる。
「なにか肉食獣の気配がしたよ? 気を付けてね?」
フィーリア、その肉食獣は警戒しても無駄なんだよ。
立場的に会わざるを得ない獣もいるから。
「迫力が凄かったけど、旦那様は渡さないから」
「ん~、マリーナ奥さまだと迫力負けしそうですね~。近付いて来たらアリスさまを怒らせましょうか~?」
それはそれでオレたちも危険じゃないか?
「ていうか、アタシをなんだと!」
怒らせると怖い合法ロリっ娘ですね。
こっちにロリっ娘と結婚したらダメな法律はないんだけども。……茶が美味い。
女の子に囲まれると羨ましがる人はいるけど、実際に囲まれたら良いもんじゃないな。
凄く落ち着かない気分になるし、女の子への理想が崩れそうだ。
男はこうやって大人になっていくのか? 現実を知った気分ってこんなんなのか?
モテてもモテなくても世知辛いのが世の中か?
「そういえば剣が折れたよな。ドラゴンの爪で剣を作るか?」
「いいの!? 1本でも1億シリンくらいしそうなのに」
「みんなの防具も作るつもりだしな。ドラゴンの爪なら岩を斬っても刃こぼれもしないだろ」
岩を斬るのはドラゴンのパワーもあるだろうけど、頑丈さは誰が使っても変わらんし。
切れ味自体もかなりのものだし、加工すれば名剣みたいな切れ味になるはずだ。
「防具って重いのか? アタシは重いのはちょっと……」
アリス先生の体格だと重いのは無理だもんな。
常に身体強化を使ってないと、動きにくいだろう。
「ドラゴンの皮を服の裏地に使って、重要な部分を鱗で補強するつもりなんで、重くはないですよ。普通の服よりは重いですけど」
たぶん1kgもないと思う。
服の心臓の辺りの裏地にでも、鱗を貼り付ければ安心が増す。
見た目も変わらないのに防御力は増すから、敵の油断も誘えるかもしれない。
「結衣のも作ってくれるの?」
「全員分作るぞ。念のために余分に皮と鱗を取っておくしな」
それでも100億シリンくらいにはなるはずだ。
もともとの金もあるし、オレが死んでも一生暮らしていける金は残るだろう。
保険は大事だけど、こっちには保険会社はないんだから、自分でなんとかしないとな。
戦う以上はいつ死ぬか分からないし、結衣が生きていける金を遺してやりたい。
いろいろなことを話し合って、遅めの夕飯を食べ終わった。
みんなで風呂に入るのが好きな結衣は、風呂ではしゃいで叱られたけど楽しそうだ。
相変わらず胸の大きさにショックを受けるアリス先生は、みんなでそっとしておいた。
風呂から上がって結衣を寝かし付けると、アリス先生と2人でバルコニーに出た。
「アリス先生、いまからビックリさせると思いますけど、夜なんで静かに聞いてください」
「またドラゴン退治に行くとか言わなきゃ大丈夫だ! 言ったら殴ってでも止めるけどな!」
いや、オレはバトルジャンキーとは違うから、また戦いたいとは思わんけど。
生き血が必要になったら戦いに行くけどね。
エリクサー10本分くらいの生き血はあるし、しばらくは必要ないはずだ。戦争に備えてもっと欲しいけど。
「戦いに関してじゃなく、オレたちの今後についてです。長々と気取った言葉は思い付かないので、単刀直入に言います」
しゃがみ込み、アリス先生の目線に合わせる。
「いつか言おうと思って買っておいたんです。結婚してください」
婚約指輪を先生に差し出す。
「……えっ! 結婚? アタシとか!?」
「はい。アリス先生と結婚したいんです」
目を逸らさずに言うと、真っ赤になったアリス先生が、キョロキョロと落ち着かないように辺りを見回した。
「冗談とかじゃないよな? おっぱい小さいぞ? 27歳にもなってキスもしたことがないからリードもできないぞ?」
アリス先生にリードを求める奴が居たら、何考えてんだと思うだろうな。
「胸の大きさは拘りません。アリス先生が好きなんです。だからオレのお嫁さんになってください」
茹でダコのように真っ赤になったアリス先生が、オレが本気だと理解して、真剣に悩み始めた。
「アタシの身長だとキスをするのも大変そうなんだよな~。そもそも生徒と結婚って倫理的にどうなんだ? でもアタシが結婚できるチャンスはこれで最後かもしれないし……」
立場的に悩むのは当然だけど、もう教師と生徒じゃないんだから、そんな所を悩まなくても。
「先生、立場を抜きにしてオレのことは好きですか?」
「え? そりゃあ好きだぞ? 頼りになるし」
「それは男としてですか?」
「……考えたことはなかったけど、そうだな。生徒って感じはしないぞ?」
アリス先生も、オレを真っ直ぐ見つめて言った。
「それなら……嫌なら突き飛ばしてください」
オレはアリス先生の肩に手を置き、ゆっくりと顔を近付けていく。
「はぅ、キスのやり方なんて知らないぞ? 目を瞑ってればいいのか?」
キョロキョロとするアリス先生の頬に手を添えて、オレの方を向かせた。
アリス先生は覚悟を決めたように目をギュッと瞑って、唇を突き出す。
「ん~!」
そんなに力を入れなくても。
オレだって初めてなんだから、失敗したらお互い様だし。
必死な表情のアリス先生が可笑しくて、少しだけ笑ったけど、やっぱり可愛い人だ。
そっと口付けをすると、アリス先生の体に力が入る。
柔らかい感触と緊張が伝わってくるが、温かい熱に包まれて幸せを感じた。
日本にいたら叶わなかったかもしれない恋が、この世界では咎められることもない。
いとおしさが強くなり、アリス先生を強く抱き締める。
小さな体が強ばったが、構わず抱き締めると、アリス先生の体から力が抜けた。
アリス先生も力いっぱい抱き返すが、力が弱いので苦しくはない。
むしろもどかしく感じて、アリス先生の小さな体に負担のないギリギリの強さで抱き締めた。
オレの頭にアリス先生の手が回り、より強くお互いを求め合う。
まるで世界に2人しかいないように、お互いの感触だけを感じていた時間だった。
長いキスが終わると、アリス先生の顔は真っ赤になっていて、オレを真っ直ぐ見れない。
「これで立場を気にする必要はないでしょう? 手を出したのはオレです」
「……バカ言え……アタシの魅力で手を出させたんだぞ」
囁くような声で反論する姿は、いつもと違って色っぽかったから、その通りかもしれない。
オレはもう一度キスをして抱き合った。
「生徒に手を出した以上は責任取らなきゃな! しょーがないから結婚してやる!」
なにも真っ赤になって言わなくても。
「ありがとうございます。幸せにしますから」
「アタシのほうが大人だぞ? そこを忘れないように! アタシが幸せにするんだ!」
意地っ張りだな。
男のプライドが懸かってるから、オレも引けないぞ。
「はぁ……アタシもついに結婚か~。さんざん子供あつかいした同級生に自慢したかったな……」
相当フラストレーションが溜まっていたようだ。
「いい妻になれるか分からないけど、頑張るから先に死ぬなよ?」
「戦場で死ぬとしたら、アリス先生よりオレが先です。これだけは譲りません」
厳密に言えば、マリーナたちよりも先だけど。
「しかたない奴だな~。あっ、そうだ! 指輪を着けてくれ!」
アリス先生の左手を取り、薬指にダイヤの指輪をはめる。
「ちょっと大きいぞ? 指輪もダイヤも」
確かにダイヤは不格好な気がするな。
「指輪はそれ以上小さいのが売ってなかったんですよ」
「!」
口を三角にしてショックを受けて黙ってしまった。
「結婚指輪のほうはサイズを合わせて作りますから」
慌てて慰めたオレの、焦る声だけがバルコニーに響いた。




