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ドラゴンを見せびらかす

 城の庭に向かって歩いていると、メイドや兵士に挨拶される。

 せっかくなので、凄い物を見せると宣伝したら、暇な人間を集めますと、メイドと兵士たちが慌ただしく走っていった。


 広い庭に到着する。

 しばらく待つと、ゾロゾロと人が集まって、ワクワクした目をこちらに向ける。


「勇人は英雄扱いされてるからな~。アタシも鼻が高いぞ」


「叔父ちゃんは人気者だもん! 結衣も嬉しい!」


 レイラに抱っこされたまま、結衣が体を揺すってはしゃいでいた。

 フィーリアは人が集まったので、護衛のためか結衣の周りをウロウロしている。

 マリーナもドラゴンを早く見たいらしく、落ち着かないように歩き回る。

 ん? 近衛騎士の集団がやって来た。

 よく見たら中心に王家の面々がいるよ。予定を変えて来るなんて期待しすぎだ。


「それじゃ見せますよ? 場所を空けてください!」


 集団が離れていき、中央にポッカリとスペースができた。

 もうちょっと下がって貰い、十分なスペースができたらドラゴンを出した。

 一瞬だけ静まったが、ドラゴンの姿を認識した途端に、みんなの悲鳴が響き渡る。

 恐怖に引きつった表情で悲鳴を上げる女性たち。

 腰を抜かしてジリジリ後ろに下がっている男たち。

 剣を抜いたものの、怯えてガタガタ震える騎士や兵士。

 なんかヤバイな。事前に言っておくべきだったか?

 オレはドラゴンの死体に跳び乗り、みんなに落ち着くように声を掛けた。


「これは死体です! 落ち着いてください! 倒したドラゴンを出しただけですから!」


 まさかドラゴンがここまで恐れられているとは。

 ようやく落ち着いてくれたので、改めて事情を説明する。


「というわけで、ドラゴンを倒してきたんです。これで大きな屋敷を買おうかと」


 王に説明を終えると納得してくれたのか、深く頷いて息を吐いた。


「なんとまあ……城でも買う気かね? そんなに屋敷が欲しいなら言ってくれれば褒美に与えたものを」


 自分の力で建ててこそ、胸を張ってプロポーズができるんだ。


「希望通りの物件がないから、建てたほうが早いので」


「確かに、ユート殿の(げん)も一理ある。しかし我が国に拠点を作ってくれるなら便宜を図ったというのに、水臭いではないか」


 王としてはオレを取り込みたいんだろうけど、何も優遇してくれなくても、この国はいい国だから好きだし。


「売る当てはあるのかね? ないなら相場より高く買い取らせて欲しいが」


「当てはないですけど、皮はオレたちの防具に使う分は売れませんよ?」


「構わぬ。ドラゴンの死体が原形を留めているだけでも珍しいからな……少々欠けたところで価値は変わらぬ」


 あの硬さだもんな。生半可な攻撃じゃダメージはないだろうからな。

 倒したとしたら強力な攻撃を食らってボロボロだろうな。

 オレの場合は運がよかったのか、相手の攻撃を利用したから丁度いい威力になったのか、その両方の理由かは知らないけど、顔の半分が吹き飛んで、翼が折れたくらいで済んだ。

 細かい傷はいくつもあるけど、鱗や皮は大部分が残っているし、生き血ではないけど血は採れるだろう。


「勇人はこんなのと戦ったのか。無茶するなよな~」


 横に来たアリス先生が、オレの服を引っ張りながら注意をしてくる。


「絵本で見たことあるよ! おっきいね?」


「そうですね、ユイお嬢さま。ユートさまのお力は凄いです」


 人がいるからレイラがキリッとしている。


「お兄ちゃん、やるね? 私には無理だよ?」


 結衣とレイラの周りをシュパシュパ動きながら、フィーリアも驚いている。


「旦那様、試しに斬ってもいい?」


「いいぞ、硬いから気を付けろよ」


 マリーナが剣を抜くと、周りも気になるらしく、凝視して見守っている。


「やあっ!」


 気合いの掛け声と共に、金属音が耳に届く。

 マリーナの剣が折れて、クルクルと飛んでいった。

 その剣をみんなが目で追っていると、丁度城の陰から鼻唄を歌いながら現れた王妃に刺さりそうになった。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 王妃の護衛をしていた近衛騎士が、びっくりしながらも弾き飛ばすことに成功した。

 みんながホッとした顔をして、マリーナは青くなっていた。


「な、な、なに! 何でいきなり剣が飛んで来たの?」


 タイミングの悪い人だな。


「申しわけございません、アンジェラ王妃! 私の剣が折れてしまいました!」


 マリーナが膝を突き、王妃に謝罪する。


「ああ、そうだったの? びっくりしたわ。公務を終わらせて凄い物を見ようとやって来たら、いきなり剣がと…………きゃあああああああああ! ドラゴンが睨んでるぅぅぅぅ!!」


 王妃の立ち位置からだと、半分吹き飛んだ顔が見えないんだな。


「落ち着くがよいアンジェラ。ドラゴンは死んでおる」


「えっ! ドラゴンが簡単に死ぬわけがないじゃない。からかわないでよ、あなた」


 恐れながらも、ドラゴンを見て死んでいることを確認した。


「ほ、本当に死んでるわ」


 好奇心旺盛な王妃は、ツンツンとドラゴンをつついている。


「マリーナ殿も立ちなさい。今のは事故だ」


「ありがとうございます。申しわけありませんでした」


 この世界だと、ゴメンゴメンじゃ済まないんだな~。そりゃそうだよな。身分制度があるんだもんな。

 といっても、これで死刑とか言い出したらオレが暴れるけど。


「それにしても……ドラゴンは硬いな。マリーナ殿の腕前は騎士団から聞いておるが、かすり傷も付かんとは」


「それで剣が折れたのね! 凄いじゃない」


 マリーナの腕が悪いなら、剣は曲がるだけだっただろう。

 腕がいいからこそ、剣が半ばから砕けたとも言える。

 昔の不良が鉄パイプで殴るのとは威力が違いすぎる。


「これって誰が倒したの? ユート?」


「その通りだ」


 なんで王が自慢げなんだ?


「やっぱり! うちの国でドラゴンを倒せそうな人ってユートくらいだものね」


「お母様、はしたないですわ」


 王女に嗜められて、シュンとしている。


「しかし、あっぱれなのは変わらぬ。我が国にも四竜将に匹敵する者がいるとは。うむ、よいことである」


「戦争前に頼もしいわね」


 たぶん、ドラゴンの素材で防具を作れば、指揮官とかの生存率は上がるだろう。

 オレもドラゴンの皮と鱗を服の下に張り付けて、防御力を高めておけば安心だ。


「なんにしても相場以上の価値はある。売ってくれるというなら、120億シリンで買い取ろう。相場の2割増でどうかな?」


「えっ、そんなに? 10億くらいになれば嬉しいって思ってたんですけど」


 驚いて声を上げたオレに、王は呆れたように口を開いた。


「それほど安いはずがなかろう。戦ったから解ると思うが、ダメージを与えることすら困難だ。そんな生物の素材が10億などあり得ぬよ」


 王が言うには、オークションに出してもこれくらいになるだろうとのことだ。


「アリス先生、どうします? 凄い屋敷が建てられそうですよ」


「そんな高い家にはならないだろ! 使い切ろうとするな!」


 確かにな。伯爵の屋敷の相場は14億シリンくらいだって聞いたしな。

 あの何十人も働いてる屋敷でさえ、その値段で買えるわけだし、王の言う通り城が建ちそうだ。

 さすがに王都に城を建てるのはマズイよな。屋敷という枠は超えないようにしよう。


「叔父ちゃん、みんなのお家を買うの?」


「そうだぞ。もともと屋敷を買えるだけの金はあったしな。結衣の希望通りの家を建ててやる」


 レイラの腕の中からぴょんっと飛び出し、オレに力いっぱい抱き付いた。


「それから先生。屋敷を建てる目処(めど)が立ったので、話したいことがあります。あとで2人で話しましょう」


「ん? いいぞ!」


 にぱっと笑うアリス先生を見つめて決意した。

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