プロポーズの言葉を考える
城に帰るのは緊張するな。
プロポーズなんて初めてだし、受けてくれなかったらどうするか。
何て言えばいいかも思い付かないし、帰るまでに考えたい。
思い付かなかったら勢いで押し切る作戦もありだな。
オレはゆっくりと飛びながら、プロポーズの言葉を考える。
ドラゴンの死体を見せてプロポーズするのは、インパクトがあるけどロマンチックが足りないしな。
アリス先生だって理想的なプロポーズはあるだろう。ガッカリさせるのも嫌だし。
そもそも16歳の男が、プロポーズの言葉を考えるってのも現実味がないからな。
日本じゃ想像すらしなかったし、もっと前から考えとけばよかった。
アリス先生の性格だと、大人扱いされるのが好きだから、お洒落なバーとかか?
そもそもオレは酒が苦手なのが判明してるしな。
酔っ払って恥を掻くのは嫌だし、酒も別に美味しいとは思えないし。
大人っぽいってなんだろうな? 高校生にはハードルが高い。
背伸びした感じだと逆にカッコ悪いしな。
考えてみたけど、まーったく思い付かない。
そうこうするうちに、王都の正門が見えてきた。まだ思い付かないんだけど。
オレは顔パスなのでそのまま上を通る。
「待ちなさい、君!」
あれ? いつもは顔パスで通れるんだけどな。
「何ですか?」
下に降りて聞き返す。
「何ですかじゃない。身分証を見せないで通っちゃダメだろ。空を飛んでいるから有名な戦士なのかもしれないが、身分が確認できないと通すことはできないよ」
いつもは顔パスなのになぁ。仕事熱心な門番だな。いいことだけど。
「はい、これです」
「……ユート様っ?! その格好はどうしたんですか?」
格好? あっ、そうだった。帽子とメガネで変装してたんだったな。
「実は人に取り囲まれてしまうので変装を」
「そうでしたか……変装されてるとは思わず呼び止めてしまい、失礼しました。さっそく注目を集めているようなので、通っていただいて構いません」
許可も出たので変装をし直し、空を飛んで城に帰る。
よくよく考えたら、空を飛んでるんだから囲まれたりしないよな。変装は歩く時だけでいいか。
見上げる兵士たちに手を振って、自分の部屋に窓から入る。
まだアリス先生たちが、オレの部屋にいた。
魔力感知の訓練を、みんなでしていたようだ。
いつから訓練していたか知らないけど、集中しているのかフィーリアとレイラ以外は気付かない。
オレは指を口元に持っていき、内緒にするようにジェスチャーで伝える。
フィーリアは意味が解らないのか、同じポーズをして首を傾げていた。
なんとなく静かにしなければいけないのは理解できたのか、オレに声を掛けたりせずに、ぼや~っとした目で見詰めるだけだった。
気配を消して、目を瞑るアリス先生たちを眺める。
結衣は寝てるな、これは。
レイラが紅茶を持って来てくれたので、静かに口を付ける。
フィーリアを抱っこしてお菓子を食べさせていると、マリーナがオレに気付いたのか、目を瞑ったまま顔を向ける。
オレの魔力は小さいけど、マリーナの集中力なら気付くか。さすがに毎日、武術の訓練をしているだけはある。
オレはマリーナの口をそっと押さえて、静かにさせる。
驚いたマリーナが目を開けるけど、オレの顔を見て落ち着きを取り戻した。
結衣をベッドに寝かせて戻るが、アリス先生は気付かない。
魔力感知の訓練は、あまり順調とは言えないようだ。
それから30分くらい掛かって、アリス先生が気付き始めた。
「なんか魔力が1つ増えたような気が……気のせいか!」
気のせいじゃないよ、アリス先生。
しかし、プロポーズはどうするか……勢いで言うのもなんだし、喜ぶようなプロポーズをしたい。
けどまったく思い付かないんだよな。でもプロポーズは今日中にしたい。
「やっぱり増えてる!」
目を開けたアリス先生が、オレのほうを見る。
「帰ってきたのか~、勇人。ケガはないか?」
「ないですよ。でも金になりそうな魔物を倒せましたよ。これなら希望以上の屋敷を買えます」
「ほんとか! やっとか~。でも、でっかい屋敷なんて普通は一生働いても買えないもんな!」
日本だとよっぽどのことがない限り、普通の家を持つにもローン地獄だもんな。
男は一生働いても、嫁の浮気とか悲惨な目に遭うもんな。
離婚理由に嫁の浮気が凄い増えたって聞くし。頑張って家を買ってもリスクが高い。
「剣の訓練場とかも作れるの?」
「大丈夫だぞ。レイラの立派なキッチンだって作れる」
「お部屋でも訓練できるようにしたいわ!」
「毎日美味しいご飯を作りますね~」
みんなも嬉しそうだ。結衣も起こしてやればよかったかな。
「お兄ちゃん、みんな何が嬉しいの?」
フィーリアはロクな生活をしていないからな。
ちゃんとした家に住んだことないって言ってたから、家のありがたみが理解できないんだな。
「フィーリアも自分の部屋を考えとけよ?」
頭を撫でると、フィーリアは困ったような顔になった。
「……考えるのは苦手だよ? 言われたことだけしてたから」
でも考えることに馴れて貰わないとな。
首をコテンと倒して、宙をボーッと見詰めた。考えてるのかボーッとしてるのか判りにくいな。
「それでどんな魔物を倒したんだ? 儲かる魔物か?」
「たぶん高値で売れますよ。稀少価値もあるし、便利そうな素材になるし」
鱗と皮は自分たち用に少し取っておくけど、全長30mくらいあるから十分な量がある。
「強かったか? よく無傷で帰ってきたな~。やっぱり強いな!」
「ますます離されたような気もするけど、旦那様が強いなら、父様も兄様も結婚に賛成してくれるだろうし、いっか」
ナイトリール王国の人は、強い男が好きらしいからな。
「それでユートさま……どんな魔物を倒したんですか~?」
気になるよな。オレも値段が気になる。10億シリンくらいにならんかな? さすがに望みすぎか?
「相場は知らんけど、倒したのは下級ドラゴンだ」
「…………え? ユートさま~、ドラゴンと聞こえたのですが~」
「そりゃ言ったからな」
「えぇぇぇぇぇ!! 旦那様ドラゴンスレイヤーになっちゃったの? 凄い!」
マリーナが立ち上がり、興奮してワタワタしている。
レイラは固まってしまった。
「ドラゴンか~。見てみたいな! お城の庭に出してくれ」
アリス先生は子供みたいにウキウキした感じで、城の庭に向かって走り出した。
「アリス先生! ちょっと待ってください! 庭に出したら指輪の秘密がバレますって!」
ピタッと止まったアリス先生は、落ち込んだ顔で振り向いた。
「ダメか~。すぐ見たいのにな~」
「旦那様、逆に見せたほうがいいんじゃない?」
マリーナが思わぬ提案をした。
「旦那様は無傷であっさり倒したみたいだから解りにくいかもしれないけど、下級でもドラゴンを倒せる人は数えるくらいしかいないもの」
そうか。倒したのを確認されてるのは帝国の四竜将だけだからな。
さすがにドラゴンを倒すやつに喧嘩は売らないよな。
ドラゴンがまるごと入る指輪がオレの物だと周知させておけば、盗んだりしたらすぐバレるだろうし。
オレも名声が高まってきてるし、敵に回したいと思うやつは少ないはずだ。
「そうだな。マリーナの言う通りだ。言われてみたら大丈夫そうだな。……アリス先生、庭で見せますよ」
「やった! 今から人のいない所に行くのは面倒だからな」
夕飯前だしな。部屋に妙な匂いが少しだけするから不安だが。
「では~、ユイお嬢さまを起こしてきますね~」
「私もドラゴン見るの初めてだわ! 楽しみ~」
寝ぼけ眼の結衣を抱っこしたレイラが戻ってきたので、みんなで城の庭に向かった。




