最強の種族
闇の深い森の奥から放たれた閃光が全てを薙ぎ払う。
その閃光の主の周辺には、生き物一匹いなくなってしまった。
テンションが上がって下級ドラゴンに挑んだ勇人以外は。
閃光が通った場所は、全て蒸発してしまい、抉れた跡だけが残る。
空中に退避した勇人は、冷や汗を拭いながら眼下のドラゴンを睨んでいる。
「今のは危なかったな。ドラコンブレスがあんなに強力だったとは……」
下級とはいえど、ドラゴンは煌力で生きているため、放たれたブレスも煌力が素になっている。
勇人が放つ最強の必殺技に、威力では勝っているだろう。勇人が煌力の扱いに上達すれば別だが。
「こいつらドラゴンから生き血を手に入れるのは、今のオレには無理だな。倒すことに集中しよう」
勇人の切り替えは早かった。
エリクサーの材料が手に入るならと生き血を狙ったが、ドラゴンの強さを感じた瞬間に、早々と見切りを付けて討伐を決意した。
自慢の翼を煌力で覆い、ドラゴンが勇人を目掛けて飛び立った。
巨体に似合わない速度に、勇人は驚いた。
慌てて回避しようとした勇人だが、間に合わずに翼で打たれた。
バランスを崩したあとに、ドラゴンが尾で追撃を仕掛ける。
「負けるか!」
気合いの声を発した勇人の瞳の青さが、更に深い青さに変わる。
勇人の体に煌力が充実している証拠である。
圧倒的な質量と、巨体に見合った筋力を持つドラゴンの尾の一撃を受け止めようと構える。
辛うじて受け止めた勇人は、衝撃で気が遠くなりそうだったが、しっかりと尾を掴みドラゴンの巨体を振り回した。
「グギャアアアアアアア!!!」
振り回されたドラゴンが不快に感じて叫び声を上げる。
勇人の体を吹き飛ばそうと、腕を振り回して勇人を狙う。
尾を曲げる勢いとドラゴンの力で殴られてしまえば、人間の体では耐えきれない。
勇人はドラゴンの平衡感覚を奪うのを諦め、ドラゴンの尾に回した腕を開いた。
かなりの遠心力が掛かっていたので、ドラゴンの巨体は大きく飛んで行く。
地面に激突して、木々や岩を破壊しながら転がった。
勇人はすかさず煌力弾を連続して放ち、攻撃の手を緩めなかった。
「このまま押し切ってやる!」
勇人の手から放たれた光弾が、ドラゴンの巨体に着弾するたびに爆発が起こる。
苦痛の悲鳴を上げるドラゴンに同情することもなく、勇人は無慈悲に攻撃を続けた。
首を曲げ勇人を睨むと、ドラゴンは口を大きく開けた。
1本1本が勇人の体より大きな牙の奥に、青い光が集まっていく。フルパワーのドラゴンブレスの発射準備だ。
勇人は慌てずに攻撃を続ける。
しかし攻撃は片手に切り替え、勇人も右手に煌力を溜め始めた。
ドラゴンも自分に敵うものかとばかりに、ニヤリと口を歪めた。
ドラゴンは最強の種族である。下級ドラゴンでも、生まれながらの強者だ。力比べで負けるなどとは考えもしない。
実際に、片手で攻撃を続ける勇人の技の威力は、全力でブレスを溜めているドラゴン相手に分が悪い。
連続して放っている煌力弾の威力も、右手に力を集めている残りで撃っているため、威力が低くなっていた。
そのせいでドラゴンにダメージはなくなり、安心してブレスを溜めている。
右手に溜めている力も自分より少ないので、競り負けることなどないと理解しているのだ。
「なんて硬さだ。1発1発が鉄の城門を壊せる威力なのに!」
ドラゴンの耳は、勇人の焦る声を捉えていた。
更なる余裕を手に入れたドラゴンは、最大に口を開け、ブレスを限界まで溜めようとした。
これ以上溜めようとすると暴発してしまうくらいに溜めたドラゴンは、自分のプライドに傷を付けた憎き相手を消し去ってやろうと力を入れた。
「掛かった!」
勇人は右手に溜めた力は使わず、左手で連射していた光弾を口に向けた。
これにはドラゴンも反応できなかった。
連射していた光弾は自分を傷付けることはなく、勇人の右手にばかり注目していたからだ。
メインの攻撃を囮にして、ドラゴンの力を利用してダメージを与える作戦だったのだ。
口を閉じることも、顔を逸らすこともできないドラゴンは、勇人の作戦に掛かり、自分の溜めていた力と勇人の力が口の中で炸裂してしまった。
勇人は落ち着いて上昇すると、下を見る。
強烈な爆発が周囲数kmを完全に破壊した。
衝撃波に吹き飛ばされそうになりながらも、勇人はその爆発の発生した場所から目を逸らさない。
爆発の発生した場所から広範囲にわたって亀裂が走り、崩れ落ちた。
まるで隕石が落ちたように、衝撃波が木々を薙ぎ倒していく。
何tもありそうな岩がいくつも飛び散り、まるでこの世の終わりみたいな光景である。
煙が晴れると、そこに現れたのが巨大な穴だった。
底の見えない穴の奥を勇人はジッと見詰めている。
「ドラゴンってヤバイな。こんな攻撃を下級がするのかよ。上級のドラゴンにはしばらく近付きたくないな」
思った以上の威力に、勇人は苦い顔をした。
タイミングを間違えていたら、自分がこの攻撃を食らっていたのだから無理もない。
「ん? しかもまだ生きてるじゃないか! なんてやつだ……」
念のために探った勇人は、索敵に動く反応を見付けて驚きの声を上げる。
勇人は穴の奥に向かい、ドラゴンの所に急いだ。
ダメージを受けて動きが鈍っている間に、止めを刺すためだ。
煌力の玉を無数に浮かべて視界を得る。
そこには上下の口を吹き飛ばされ、頭の一部を失い、体もボロボロになりながらも、勇人を睨み付けるドラゴンがいた。
「この状態で生きてるのも凄いけど、それ以前に原形を止めてるのが凄いな。上級のドラゴンはこの程度の攻撃じゃ倒せそうにないな」
王都でさえ全て瓦礫になりそうな破壊力だったが、ドラゴンという生物は耐えてしまう。
こんな威力の攻撃を食らっても死なないと誉めるべきか、こんな威力の攻撃を食らっても死ねないと憐れむべきか、勇人には判らなかった。
ただ、ドラゴンという驚異的な生物が恐れられる理由と、それを倒せる四竜将が称えられる理由を理解した。
「せっかく弱っているわけだし、死ぬ前に生き血を貰うぞ?」
勇人が近付くと、ドラゴンは首を持ち上げた。
勇人は構えることもなく、生き血を瓶に移していった。
戦う力など残っていないのは判っていたし、攻撃の意志がないことも理解していた。
首を持ち上げたのは、人間に頭を垂れたくないという最強の種族としてのプライドだった。
死ぬその瞬間まで、竜族は誇りを失わないのだ。いや、例え死んだあとも、竜族の誇りを疑う者などいないだろう。
それほどに威風堂々とした佇まいだった。
「生き血を採取したら、この護符を瓶に貼り付けるんだっけ? こっちの護符だったか?」
護符の模様が複雑だったために、どちらが正しいのか判らなくなった勇人は、本で確かめて正しいほうを貼った。
少しだけドラゴンの目に呆れのような色が宿り、それに気付いた勇人はバツが悪そうだ。
「オレは魔法関係は専門外なんだ! そんな目で見るな!」
恥ずかしさを誤魔化すためか、いそいそと血液採取を再開した。
勇人が持ってきた瓶全てに、血が満ちるのを確認してから、ドラゴンは息絶えた。
まるで自分を倒した褒美に、生き血を採取するまで待っていたようだった。
勇人は1度だけドラゴンの亡骸に手を合わせてから、収納の指輪にしまった。
「このドラゴンの遺体を土産に、アリス先生に結婚を申し込もう。売った金で屋敷を建てられるし、皮とか使えば強力な防具も作れるし」
戦争に行く前に、アリスにプロポーズしたかった勇人は、ドラゴンを結納みたいに思って仕掛けたのだった。
テンションの上がった勇人は何をするか解らなくて怖いものだ。




