戦争に備えて
オレたちは城から冒険者ギルドに通い、情報交換や仕事をする。
すでにオレには王からの遊撃依頼が出ているので、冒険者ギルドに手続きがてら情報を渡しておく。
冒険者ギルドからも戦争に参加する人はいるだろうとのことだ。
こちらの世界に限らず、侵略戦争の悲惨さは誰もが知っている。
だからこそ国を守るために戦争参加を言い出す男は多い。
オレもアリス先生たちに被害が及ばないように、侵略者に容赦するつもりはない。
ギルドの掲示板には、煌力砲などの材料と燃料である魔石集めや、砦の建材である石の運搬などの仕事が掲載されるようになった。
オレは砦の建材を運ぶ仕事を請け、国の守りを固める。
アリス先生たちは煌力砲の材料と魔石を集める仕事を請けた。
オレの移動スピードと運搬能力なら、簡単な仕事で報酬もいい。
アリス先生たちは魔物と戦うことで、戦闘に馴れて死ぬ可能性を減らすためだ。
国境の砦に移動すると、急スピードで砦の増築が進められていた。
以前は、ヴォールディア帝国を刺激しないように、申し訳程度の砦だったらしい。
戦争が始まりそうになってから、帝国の侵略に備えて砦の防御を鉄壁の物にしたいそうだ。
この砦が完成すれば、5万人の兵力を収容できるようになる。
補給は砦から徒歩で2日の距離にある街、スタンエールから届くらしい。
この砦を無視すれば、帝国軍は背後を突かれるし、スタンエールから出撃する軍と挟まれる。
ここで帝国軍を迎え撃つことになるだろうとの見解だ。
空から近付いたおれに、煌力砲が向けられる。
冒険者ギルドからきた冒険者だと伝え、王から貰った命令書を見せると、すんなり入れた。
司令官に挨拶する。クリフォード将軍というらしい。
帝国との戦争で、カウニスハーナ王国軍全軍の司令官を務める将軍らしい。
挨拶のあと、資材を管理している人に付いて行き、資材置き場まで歩く。
資材置き場に到着すると、オレは指輪を手の中に隠して反対の手をかざす。
次々と石材を出したオレを見て、その場に居た人間がギョッとした。
「凄いですね! こんなに大量に。どうやってるんですか?」
「一子相伝の魔法です」
適当に、突っ込んで聞きにくい嘘をつく。
「空まで飛んで来れるだけあって、さすがは大魔法使いですね」
そういえば空を飛ぶのは魔力が凄く必要だったな。
なんにしても誤魔化せるのは助かる。
これなら指輪が欲しいとか言う人も出ないだろう。
オレの勧誘は増えるかもしれないけど、王が無理な勧誘をしない以上は、他の人も無理な勧誘はできないだろう。
オレを雇えても、王に嫌われては本末転倒だしな。
「それでは受け取りの証明書を発行しますので、お待ち下さい」
「砦の中を見て回っていいですか?」
「本来は許可できませんが、陛下から遊撃依頼が出ているので構いません」
スパイかもしれない奴に見せられないだろう。
オレは王から指名依頼を貰っているから、部外者ではなく味方扱いしているんだな。
礼を言ってから、砦の中をブラブラ散策した。
身体強化した兵士たちが石材を運び、職人らしき人が砦の増築をしている。
魔法があると、重機がなくても早いな。
重機を使うよりも、自分の体を使うほうが圧倒的にやり易いし。
砦の中を歩いているが、道が複雑で迷うな。
敵を迷わせるためだろうけど、砦の中に突入された段階で、すでに敗北が決まってそうだよな。
兵士たちは外で作業しているためか、砦の中はガランとしている。
道を聞きたいんだけど、居ないものは仕方ない。
どうしても判らなければ、窓から外に飛び出ればいいだけだし。
なかなか頑丈そうな砦だったな。
5万の兵士が守るようだし、オレはここで戦う必要はなさそうだ。
オレは遊撃担当だし、防衛には加わらず、帝国軍に直接攻撃を仕掛けるかな。
あるいは、帝国軍が帰還する砦に奇襲を掛けて、帝国の砦を落としてみるか?
帝国軍に攻撃を仕掛けるメリットは、防衛の手助けになるから被害を減らせるかもしれない。
帝国軍の撤退が早ければ、確実に味方の被害が減るだろう。
攻撃を仕掛けるデメリットは、オレ自身が危険に曝されること。
纏めて吹き飛ばすのは人道から外れそうだし、近接戦を仕掛けるなら危険はある。
綺麗事を言ってられない状況になったら、オレも容赦なくやるけど、余裕のあるうちは非人道的な戦い方は避けたい。
名声を得るという目的にも、その方がいい。どうせ戦うなら、得る物は少しでも多い方がいいからな。
帝国の砦に仕掛けるメリットは、帝国軍が出撃したあとに仕掛ければ危険は少ないことだろう。
それでいて砦を落とすのは効果が高い。ローリスクハイリターンだな。
デメリットは、防衛の手助けにはならないから、砦の防衛は軍任せだ。
オレが砦を落としたと報告が届くまで、帝国軍の攻撃は続くだろう。
そうなると、味方の軍の被害が大きくなるはず。守りに徹してくれるなら、それほどの被害にはならないかもしれないけど。
オレからしたら、敵の砦に攻撃をしたほうがラクだし早い。
敵の砦が無事なら、戦力の補充をされてしまい、国境での防衛戦が長引いてしまう。
砦を落としさえすれば、補給が困難になった帝国軍は、大きく後退しなければならない。
戦況はこちらに傾くだろう。あとは、同盟国の軍と合わせて攻撃すれば、さらに領地を削り取れる。
防衛だけしていても、相手のほうが戦力は多いし土地も広い。
泥沼の戦争になってしまえば、この辺りの国は全部不景気になりそうだし、ガンガン進攻して早く終わらせたほうが、最終的には被害が少ないと思う。
人命を数の論理で考えてはいけないんだろうけど、これは戦争であってヒーローゴッコじゃない。
青臭い正義感で戦争を長引かせるよりは、助けられない命は捨てて、戦争を早期に終結させるほうが、みんな助かる。
死んでしまう人と、その家族には冷たいかもしれないけど、オレは神様じゃないので、出来ること出来ないことはハッキリさせて割りきるしかない。
オレの方針は決まったので、司令官のクリフォード将軍に面会を申し込む。
依頼の達成証を貰い、将軍が来るのを待つ。
メイドとかは居ないので、お茶が出たりもしなかったが、さほど待たされることなく将軍がやって来た。
立ち上がって挨拶をする。
「先ほどはどうも。オレの方針が決まったので伝えておこうと」
「それはありがたい。遊撃がどう動くかで戦況が変わることもあるからな。ましてや君は英雄だ。どう動くかによって、兵士の士気が段違いに上がるだろう」
士気まで考えないといけないなんて、指揮官は大変だな。オレには面倒なことは無理だ。
「オレにどこまで影響力があるか判りませんが、オレが帝国の砦を落とせば戦況は変わるでしょう?」
「砦に仕掛ける気か!? ……いや、君は戦い馴れているから、勝算はあるんだろう」
もちろんある。
拠点攻略は盗賊のアジトで馴れてるし。
「大声を出して失礼した。具体的な作戦を聞かせて欲しい。その作戦に合わせてこちらも動く」
「分かりました。まず帝国の砦の近くに潜みます。そして帝国軍が出撃したら、簡単に戻れない距離に行くまで時間を潰します。かと言ってこの砦に近付きすぎると、こちらに被害が出るので、半日くらいの距離を進んだら仕掛けます」
「それだと引き返してくるまで、あまり時間がない。君が砦を短時間で落とさなければいけなくなる」
「半日あれば十分です。そのあとは、砦で籠城しているので、なるべく早く来てください」
奪った砦の維持は、オレにはできないからな。
「ふむ…………わかった。帝国軍が引き返したら、我が軍も出撃して背後を突こう」
大まかにだけど作戦は決まった。
あとは帝国が仕掛けてくるのが先か、こちらの砦が完成するのか先か、時間の勝負だ。




