謁見
カウニスハーナ王国の同盟国である3国、マリーナの故郷であり騎士の国、ナイトリール王国。
農業や牧畜が盛んで、同盟国の食料を支えるサウラ王国。
エルフの住む森があり、観光が主産業のハイルリーフ王国。
その3国の使者が謁見を終えて、今夜会食があるらしい。
オレたちの謁見は明日になるそうだ。忙しいのでパーティーなどはないそうだ。
今回は略式で褒美をくれるそうなので、私服で構わないから助かる。
帝国兵を捕らえたことと、使者を助けた褒美らしい。
やっぱり帝国兵だったか。戦争の引き金をオレが引いたみたいじゃないか。
仕掛けて来るのは時間の問題だっただろうし、放置しておけば、状況は悪化して戦争突入なんて事態になったはずだから気にしないけど。
たぶん3国が協力して帝国と戦うんだろうな。オレは戦争に参加するかな?
たぶんアリス先生は反対すると思うけど、名声を得ておけば、いろんなことが有利になる。
マリーナの父親も参加するわけだし、未来の義父になるから助けになればいい。
戦況が悪化すると、結衣たちまで危険に曝されるかもしれないし、悪化する前に有利にしたい。
「アリス先生、戦争になりそうですけど、オレも参加したいんです」
「戦争! そんな危ないことを許すわけないだろ! 何考えてるんだよ?!」
やっぱり反対か。
「マリーナは反対か?」
「……心配は心配だけど、殿方が戦争に参加するって言ってるのを反対はできないわ……私も一緒に参加するとしか言えないもん」
ナイトリール王国の常識なんだろうか?
「私も心配ですけど~。戦場に行く男の方を引き止める女は見苦しいと言われてしまいます……」
異世界の常識だったようだ。
そういえば男の数が少ないんだったな。それで一夫多妻制なんだっけ。
戦争に参加する男は珍しくないんだろう。国を守らないと敗戦国は略奪とかされそうだもんな。
だから国と家族を守るために戦争に行く男を止めるのは、ダメな女扱いになるのか?
「アリス姉様、殿方の決意にケチを付けるようなことはダメなんだから……」
そうは言っても心配そうな顔だ。
「男の方の誇りを傷付けることになってしまいます~。離婚されても仕方ないくらいですよ~?」
「離婚! アタシはまだ結婚もしてないのに離婚されるのか!」
なんか妙なショックを受けてるな。
家族と名声と将来の義父のために、戦争には参加したいので助かる風習だけど。
「先生、オレの感性ではそんなことで離婚にはならないですから、心配しないで下さい」
「よかった~、結婚もしてないのにバツイチかと思った…………よくはないぞ! 戦争に行くってことじゃないか!」
心配性だな。
オレが戦争に参加することに、道徳的な抵抗を感じているのかもしれないけど、殺し合いはもうしてるしな。
精神的に人殺しを苦痛に感じたりもしないし、大事な家族が略奪の対象になるのは嫌だ。
だから殺られる前に殺れの精神なんだけどな。
日本の道徳的に問題なのは理解できるけど、異世界には異世界の事情とルールがある。
略奪は嫌だと言って止めてくれるなら、そこまで深刻にはならないけど、連中は容赦なく奪って行くだろう。
だからこそ、こちらも容赦はできないんだけどな。
「解って下さい。ピンチの時に戦わないといけなくなるより、余裕のある段階で参加したほうが安全なんですよ」
「うっ………………はぁ~、解った。戦争と無関係でいられないんだから、安全なほうがいい。アタシも参加するぞ!」
イスの上に仁王立ちになり、レイラに叱られて座り直す。子供みたいだ。
「先生たちは戦況が有利になるまでは参加しないで下さい。オレが有利にしてみせるんで。マリーナもな?」
当然のように反対意見が出たが、結衣が心配だからと言ったら、しぶしぶ納得してくれた。
明日まで暇なオレたちは、それぞれ好きなことをして過ごした。
オレは煌力の訓練。アリス先生と結衣は魔力感知の訓練。マリーナは騎士団と連携訓練。レイラはオレたちの装備品や服の手入れ。フィーリアはオレを観察して真似をしていた。
レイラが世話をしたがったが、さすがに食事の支度なんかはさせて貰えず、久々にレイラ以外が作った食事を摂る。
なんか高級料理店みたいな料理なので、庶民のオレたちは落ち着かなかった。
味はもちろん美味しかったけど、レイラの作る家庭料理のほうがいいと思う。
アリス先生は大人っぽいと喜んでいたが、メイドさんにレシピを聞いていたので怖い。
アリス先生は大人っぽい物に近付けないほうがいい気がしてきたな。
大きなベッドで1人で寝るのが嫌な結衣は、案の定オレのベッドに潜り込んできた。
気配に目を向けると、毛布を被った結衣が、オレの隣でニコニコしていた。
頭を撫でてやると、目を瞑ってスリスリする。
温かい子供の体温は、何だかんだ言っても、オレも安心するらしい。
ふと反対側を見ると、フィーリアが護衛のために武装していたので、装備品を剥いでベッドに引っ張り込んだ。
モゾモゾしていたが、諦めたのか大人しくなった。
結衣とフィーリアの頭を撫でていると、5分と経たずに両側から寝息が聞こえてきた。
オレも目を瞑り、すぐに深い眠りについた。
翌日、オレたちは謁見の間で王から褒美を貰っていた。
今回は1人1人ではなく、パーティーで貰う。
とりあえず欲しい物はあったけど、今は屋敷を買うための資金が欲しいので金にした。
金で買えないような物を選ばないので、遠慮していると思われているらしい。
マリーナ用の剣も欲しかったけど、マリーナは自分の腕に見合う武器で十分だと言っていた。
強い武器を持って強くなった気になるよりも、しっかりと剣の腕を磨きたいそうだ。
それならアリス先生の杖でもと思ったが、前に貰った杖は気に入らないのではなく、アリス先生には長すぎて使いにくかったから使ってなかったそうだ。
子供用の杖は欲しくないそうなので、遠慮したわけじゃなくて、1番使い道がある金を選んだだけだ。
「なんにせよ、褒美を渡せてホッとしたぞ。余がケチな王だと思われてしまうところであった」
冗談めかして話す王は、略式だからか貴族が少ないからか、前より砕けている気がする。
ほとんどの貴族は、戦争の準備のために、自分の領地に戻っているそうだ。
「そなたが倒した魔物召喚士は帝国の間者だった。捕らえた者の証言では、近いうちに我が国へ戦を仕掛ける予定だったらしい。そのため、こちらも戦の準備を始めている。すでに国境の砦に主力を送った。民への布告もしなければならん」
税金はまだ上がらないそうだけど、長引けば戦費も嵩むし、税金を上げる必要が出てくるはずだ。
「そなたのお蔭で内と外からの挟撃を防げた。まさしく我が国の英雄に相応しい働きだった。礼を言う」
「仕事を請けただけですから、過剰な厚遇に恐縮しています」
「フフッ、そうか。我が王子もそなたのように立派な男になってくれればよいが…………すまぬ、愚痴を漏らしてしまったな」
ここでオレが何か言うのも変なので、黙っている。
愚痴を漏らしたことに関して、オレが気にしないでと言うのも上から目線だろうしな。
王を許すみたいになってしまったら、こちらが上の立場みたいに思ってると、周りに誤解されかねん。
「戦争にはオレも参加するつもりなので、遊撃でも任せて下さい」
「それは願ってもない。軍の命令系統とは関係のない立場で戦ってくれ。そなたのように個人の武を誇る者は、単独で動いたほうがよいからな」
王から指名依頼という形に落ち着いた。
報酬も出るし、辞令書を貰ったから、味方に疑われる心配もないだろう。
様々な取り決めをして、オレたちは退出した。戦争の間は城に住むように言われたので、結衣たちの安全も大丈夫だろう。
王に気を使わせてしまったかな。戦働きで返すとしよう。
戦が始まるまでは時間もある。修行を頑張ろう。




