フィーリアに戦慄を覚える
王都までの道のりは、空を飛んでいるだけあって穏やかだった。
途中でレイラの村に寄って休んだが、トラブルと言えば、絵を描くのが大好きになったライラちゃんが、マリーナのお尻が上手く描けないと1日中触っていたくらいだ。
マリーナのお尻は年齢の割にはムッチリして肉感的だからな。難しいだろう。
しかし、その魅力を表現するために、ライラちゃんには頑張って貰いたい。
ただ柔らかい感触が気に入ったとかいう理由ではないことを祈る。
「アタシの大人な魅力を表現して欲しいぞ? なんでマリーナばっかり描くんだ……」
「じゃあ姉様が1日中お尻を撫でられればいいじゃない! 私のお尻に触っていいのは旦那様だけなのに!」
ライラちゃんのお尻に対する執着は凄いからな。
マリーナの動きに付いて行けるとは、前衛にスカウトしたいな。
マリーナがどう逃げようと手を離さない。逸材だ。
「それじゃあ、オレがアリス先生の絵を描きましょうか?」
「あっ、それなら結衣も描くよ!」
結衣と2人でアリス先生をジーッと見ていると、先生の顔が赤くなってきた。
「勇人! オッパイは恥ずかしいから見るな! 想像で少し大きく描いてくれ」
無茶言うな~。服の上からじゃ判らない大きさの胸をどう描けと。
「アリスさまのお胸は、今の大きさが可愛いらしいと思います~」
「……大きく描いたらバランスが悪いよ?」
レイラとフィーリアの言うことも分かるが、アリス先生の気持ちも理解できる。
人は少しでも自分をよく見せたいのだ。個人的にはアリス先生の胸が大きくなるのは、いいこととは思わんが。
ライラちゃんに新しい絵の具などの道具セットをプレゼントして村を出発する。
飛行円盤を見上げる子供たちに手を振って、猛スピードで王都に帰った。
宿を取ることはせず、そのまま城に向かう。
すぐに王に会えるはずはないので、しばらくは城の一室で待たされるだろうと思ったからだ。
予想通りに部屋を用意して貰ったが、予想外だったのは貴族の出迎えだった。
国の治安維持を担当している人が、わざわざ出迎えてくれたことから、戦争の気配を感じてしまう。
王は同盟国とのやり取りに忙しく、すぐには会えないそうだ。
なんでも、会談に向けて使者を送り合っているらしく、同盟国の返事に対しての返答なんかを会議で決める必要がある。
現在も使者を出迎える準備中らしく、先に冒険者に会うわけにはいかないそうだ。
申し訳なさそうに説明されたが、他国の使者を後回しにしてオレたちに会われても、逆に困るので謝らないで欲しい。
接待をしてくれるそうなので、待たされることには全然文句はないのだ。
アリス先生は早速ワインを飲んで、いい気分で酔っ払っている。オレたちのほうが申し訳ない気分になるな。
あまり高いワインを出さないように頼んで、アリス先生が酒を控えてくれるのを祈ろう。
「なんだか祖国が心配だわ……。帝国との戦争になれば父様が出陣されるだろうし」
「マリーナお姉ちゃんのお父さんは騎士なんだよね?」
「そうよ。私より強いから大丈夫だとは思うんだけど、四竜将が出て来たら……」
この国とは同盟国だからな。
帝国との戦争に備えて同盟を組んでいるらしいので、戦争になれば当然のように兵を出さなければならないだろう。
「アタシたちも他人事じゃないぞ? この国が戦争になったら物価とかも上がりそうだし」
「この国は税金も理不尽な高さではないですから~、軍備を整えるのに税金も上がるかもしれませんね~」
レイラが言うとノンキな事態に聞こえるが、それは必要な税金なので払うしかないだろう。
オレもこの国は好きなので、払うことには文句ない。
でも長引けば、みんなキツいだろうな。
「今回は凄く待たされるかもしれませんね。アリス先生も飲み過ぎないで下さいよ? そのワインも税金なんですから」
オレの言葉に全員から視線が集中した。
アリス先生はあたふたとしながら、ワインボトルにコルクをはめ直した。
「私も高いお給金を貰うのが申し訳なく感じてしまいますね~。ユートさまが生活費も出して下さるので、お金も掛かりませんし」
だってレイラだけ生活費は別って、気分が悪いからな。
それに、レイラは贅沢とかしないしな。ほとんどが仕送りに使われてるし。
「? そういえばフィーリアはどこだ? アタシは気配とか分からないから、いつの間に居なくなったんだ?」
「私も気付かなかったわ。リアったらまた内緒で……」
「心配ですね~、まだ小さいですから……」
小さいも何も最年長だし。みんな忘れてるな。
普段のポヤ~っとした表情じゃ忘れても仕方ないけど、凄腕なんだから心配せんでも。
「心配しなくても大丈夫ですよ。初めての場所に来たら確認したい習性があるだけなんで、その辺りを見て回ってるだけです」
「おさんぽ行くなら結衣も行きたかったな……」
散歩ではないんだけどな。
みんなフィーリアが元暗殺者だと知らないから、普通の強い子供みたいに思ってるのかもしれない。
「おさんぽじゃないよ?」
「きゃあ!」
「びっくりするだろ! アタシの心臓は小っちゃいんだぞ!」
「何で驚くのか解らないよ?」
結衣は言葉もなく驚いている。
抱き付かれた腕が少し痛い。小さくても強力な魔力の持ち主だからな。
「メイドの私が気付かないなんて、メイド失格ですね~」
ニコニコしているが、ちょっと悔しそうな声色だ。
レイラはメイドを何の仕事だと思ってるんだろうな。
凄腕の元暗殺者に気付いたら、暗殺者よりメイドのほいが怖いよな。
「フィーリア、気になることは有ったか?」
「気になることだらけだよ? お兄ちゃん」
フィーリアからすれば不思議だらけだよな。
「まず警備だけど、人手が足りてないから忍び込み放題だよね?」
「いや、警備が少ないからって忍び込むな」
「…………?」
キョトンとした表情で、何でと聞いてるみたいだ。
ああ、そうか。忍び込んで殺すのが仕事だったから、忍び込んじゃダメな所なんてなかったんだな。
「人手が少ないのは何でだ?」
「たぶん戦争の準備だよ。書類を見たけど、国境の砦に主力が出撃するみたいだから……」
機密情報を盗んでくるなよ。
「それは言わないようにな」
「うん。あと、王子も王太子になるみたいだよ? 儀式の準備をしてた」
戦争があるから、万一を考えて後継者を指名するつもりだろうな。
というか、機密情報ばかり盗んでくるな。オレたちが微妙な立場になるだろ。
「あと、何人か間者がいたから倒して縛っておいたよ。間者って書いて証拠も添えたよ」
城に来た僅かな時間に……ヤバイな、フィーリアの腕。
国が欲しがりそうなレベルだから内緒の方向で。
「あと……」
「まだあるのかよ!」
「うん、あるよ。メイドさんたちが喧嘩してたよ? お兄ちゃんの世話を誰がするかで」
最後の情報だけ、すげー要らない情報だな。
「レイラお姉ちゃんがズルいって言ってたよ」
「私はユートさまのメイドになりましたからね~。さりげなく自慢してきます」
メイドも怖いな!
「あと~、お世話は私がするので断っておきますね~」
時々レイラの笑顔に迫力があるな。
オレも知らないメイドに世話をされるより、レイラの世話がいいから別にかまわないけど。
「アリスのことも話してたよ?」
「えっ、アタシか!」
「うん。お酒を用意するようにって命令が出てたよ? 小さいけど毎日飲むから、体に負担の少ない、飲みやすいお酒を用意しなさいって、メイド長が言ってたよ?」
「なんかゴメンな、メイドさんたち! あと小さいって余計だよ!」
アリス先生は泣きべそを掻きながら部屋を出て行った。
ワインボトルは持って行ったので、やけ酒だろう。




